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コンビニで貰った特別クーポンを使ったら大変なことになった もーっと恋愛編  作者: 熊出


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結婚して終わりというわけでもなく宛もなく二人旅は続く3

「おー、晋太郎か。オフシーズンに来るのは珍しいな」


 独身の巨漢の先輩は気を良くして出迎えてくれた。

 春武と並ぶ高校時代の先輩、信玄だ。

 三人の名前の頭文字を取ってHSS砲なんて呼ばれていた。

 リストバンドに刺繍している言葉は風林火山。

 その割に足は遅いし守備はイップス持ち。

 ただ火のような侵略力は本物だ。


「丁度良い、お前には言っておきたいことがあった」


 あ、酒臭い。


「なんすか、先輩」


「春武が抜けるなり王座陥落たぁどういうこった新キャプテン!」


「高校時代の話なんて今更なしっすよ……」


 この先輩、大人になってわかったのだが中々酒癖が悪い。

 好き勝手やって記憶を失う一番たちの悪いパターンだ。


「いいや、言わせてもらうね。五連覇と言うのは俺達と先代が作った栄光の記録だ。それを何だお前の代になるなりへまこいて」


「信玄先輩のエラーを俺が本塁打で帳消しにした試合もありましたよね」


 呆れ混じりに言う。


「……あったか?」


 とぼけているわけではなく本気で覚えていないようだ。

 この人は駄目だ。

 つくづく思う。


 遠巻きに見ている分には硬派でポジティブなのだが悪く言えば昔気質で脳天気だ。

 春武と違って大人になりきれていない。


「そもそも俺、エラーなんかしたか?」


 そこからか、と呆れる。

 これは相当酔ってるな。


「高校時代の守備指標思い出させてあげましょうか? DHびたりですっかり忘れてるみたいですが」


「あー、いや、いい。んで、何の話だ」


 あ、話そらす脳は残ってるんだ。


「春武さんの不思議な力と神様について」


 信玄の目が座った。

 その瞳が、まっすぐ晋太郎に向けられる。


「お前も、あれを見たのか?」


 いよいよ怪談じみてきたな、と思いつつ首を横に振る。


「ただ、不思議なことについて聞いたら、言われました。信玄には俺の力の一部を見せた、と」


 震源は暫し考え込むと、言った。


「寒いだろ、入れ」


 そう言うと、信玄は家の中に入っていった。

 足の踏み場もないほどに散らかっている。


「信玄先輩は早く結婚するか付き合ったほうが良いすね。恋人家に呼ぶ時のことを考えたらこんな部屋にはなりませんて」


 何日前のものかわからぬよれよれのパンツが転がっているのを見つつ言う。


「俺はまだ焦っとらんからな。お前もだろ? 春武が急ぎすぎなんだよ」


「俺、結婚するんすよ、この度」


「おめでとう!」


 全力で握手された。


「そうかー、それはめでたいな。相手は京子か?」


「ええ、まあ。ただ、不思議なことがあって」


「不思議なこと?」


「京子、実は戸籍詐称してたんですよ。どうやったのかわからないけど。普通に公文書偽造でお縄になるレベルですよね? それにどう見ても若いのに、俺の八歳上だって」


 次々と出てくる言葉が衝撃的だったのだろう。

 信玄の顔色から酔いが冷めてきているのがわかる。


「それで、春武先輩は言うんです。あいつが神様だったって言ったら信じるか? って」


 信玄は最早青ざめていた。


「そういうことも、あるかもしれんのう」


 益々怪談じみてきたな、と思う。

 今まで起きてきた異変。単語。

 それがパズルのピースのように形を作りつつあった。


「何度か、春武に不思議な空間に連れて行かれたことがある」


「不思議な空間?」


「奴はクーポンの世界だ、とか言って言葉を濁していたが、あれは……まるでドラゴンボールの精神と時の部屋のような」


「例えが古いっす先輩」


ドラゴンボールが完結したのは1990年代。ワンピースの完結した年より遥かにまだ遠い。

むっとしたような表情になる信玄。


「俺はとよたろう先生の描く続編も愛読しているコミックコレクターだ」


「横道それないで」


 呆れ混じりに言う。

 それにしてもいよいよオカルトじみてきた。

 精神と時の部屋?

 日常に出てきて良い単語ではない。


 晋太郎の周囲の日常が、俄にきしみ始めた。



「まあ、何処までもつづく真っ白な空間でな。その世界では時間が閉じているんだと。外界とは違う時間の流れにある、と奴ははっきりと言ったよ。しっかりと覚えてる」


「その空間は、今も?」


「わからん」


 信玄はコミック本だらけのソファに巨大な体を投げ出した。


「ある時、奴はこう言った。こういう力を使ってズルをしている奴がいた。それを見て反省した。もう二度とこの力を野球に使うのは辞めようと。それ以来、その世界に足を踏み入れることはなかったし、深入りするなと奴の表情が言っていた。それでも俺達は親友であり続けたし、追求しなかった俺の判断は正しかったと思う」


 晋太郎はごくりと息を呑む。


「だから、奴が神様がいるんだって言うなら」


 信玄は、そこで言葉を切る。


「いるんだろう。多分」


 顎に手を当てて考え込む。

 超常の力はたしかにある。

 戸籍を変える力。

 若返る力。

 空間を捻じ曲げる力。


 そこでふと、冷静になる。


(俺、思ったより不味い話に深入りしてるんじゃ……)


 春武は全てを語るという。

 親子連れが一瞬脳裏を過ぎる。

 クリスマスを楽しみにしている親子連れ。


 自分も京子とああなりたい。

 砂漠の住人が水を求めるようにそう思う。


 晋太郎は、覚悟を決めた。

 信玄に更なる助言を求めようと思ったが、彼は既に寝息を立てていた。

 マジックペンで、額に書き込む。


 早く結婚したほうがいいすよ。


「これでよし、と」


 そう言って、部屋を出た。

 これぐらいの悪戯なら許される間柄だし、そもそも晋太郎の来訪を覚えてはいないだろう。

 わかっていつつも逃げるようにその場を後にした晋太郎だった。



つづく

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