結婚して終わりというわけでもなく宛もなく二人旅は続く
恋人が八歳サバを読んでいたというハードルを乗り越えて晋太郎は結婚することになった。
八歳差どころか名前まで偽名だったので詐欺みたいなものだ。
その上で更なる問題が積み重なってきた。
「ちなみに私、子供作る気ないからねー」
京子は軽薄に笑いながらそう宣告した。
子供が欲しい晋太郎にゴール前でのまさかの待っただ。
「お前、俺と結婚したら、仕事辞めるんだよな?」
「うん」
「育児もしないのか?」
「うん」
「家事は家政婦がやるし、じゃあお前は俺になにをしてくれるんだ?」
「一番のファンになってあげる」
軽薄に笑いながら言う。
その笑みは唇の先がやや引きつっている。
長い付き合いだからわかる。
自棄になってやがる。
「まあ、また話し合おうか。お前の両親と会わせてもらうまでも随分かかった」
「多分ね、わかんないと思うよ」
「わかんないかわかんないだろ」
「わかんないかわかんないかわかるんだよ」
「なあ、今の俺達の会話って日本語として成り立ってるのか? 英文にするにしても5H1Wをあまりに省略してないか?」
「うーん、あらためて意識したことはなかったな。日本語って言語は喋り言葉がフランクらしいからねえ」
「そういう風に和製英語も混ざるしな。習得するの難しそう……」
「正しく使ってる人も今更いないんじゃない?」
「まあ場所がアメリカなんだし俺はお前に対する主張をはっきりさせよう」
そう言って晋太郎は京子に指を突きつける。
「お前は俺に説明をしろ」
「簡潔で綺麗な日本語だ。後は条件付けが加われば完璧かな」
京子は軽薄に笑って拍手をした。
普段の調子に戻ってきたな、と思う。
崩れたリズムも瞬時に立て直す。
これも熟練の関係のなせる技かもしれない。
「そこまで行ったら論文だよ。いいよもう喋り言葉で。行間を読め。話そらすのやーめーろー」
「早速5H1Wの喪失」
「日本語って便利!」
話をそらしまくる京子にヤケになって叫ぶ晋太郎である。
「なにが嫌だって言うんだ」
「笑うかも知れないけど」
京子は視線を逸らす。
「私は、自分の子供が怖いのさ」
真面目な表情だった。
「お前って両親に虐待受けてたとかそういうクチ?」
「千紗さん連想したね。違うよ。私は私の子供を虐待したりモラハラしたりしない。断言できる」
「なら、なんで」
「私は平均的な親から、平均的な教育を受け、平均的な家庭で、平均的な成長を経た。けどね」
京子はそこで軽薄に笑って両手を大きく広げる。
「世の中には信じられないことって起きるんだよ。特に、私の家系には」
「……ははーん」
ピンときた晋太郎だった。
「余裕の表情だがアテはあるぞ」
京子の表情が、揺るぐ。
「昔、お前をラスボスだって表現した人がいてな。その人なら事情がわかるだろ」
「どうせ愛か春武でしょ?」
そう言って肩を竦める京子だった。
「聞いてくれば? 俄に信じられる話じゃないよ」
「お前の戸籍偽装トリックなんかとも関わってくるんじゃって俺は薄々思っているよ」
京子の表情がこわばった。
「図星か」
京子は俯いて、黙り込む。
「まあ聞いてきてから打開策練るわー」
「無理だよ。俄に信じられる話じゃない」
ひしがれたように京子は言う。
「俺は、その人の言葉なら、大体のことは信じられるんだ。お前の言葉もだけどな」
そう言って、晋太郎は京子に背を向けた。
窓に京子の姿が映る。
手を伸ばし、引っ込め、もう片方の手で抱きしめた。
自分で言う気はなし、か。
それを確認して、家を出た。
行く先は決まっている。
心強い二刀流の先輩の家だ。
つづく




