同級生4
パネルフォンには目を丸くした瑠奈が表示された。
とっさに、瑠奈は構図を変えて腹を隠す。
「わ、吃驚した。てか引く。どこから電話番号入手したの」
「春武ルートだ」
頭を抱えつつ言う。
瑠奈も片手で頭を抱えた。
「春武言っちゃったかー。やっぱ愛ちゃんに情報が行ったかぁ」
構図が戻る。
ほんのりと腹が膨れていた。
「あの」
「はい」
緊張。そして沈黙。
まるで達人同士の果たし合いのような。
どちらが先に抜くかの駆け引きがそこにある。
「責任を、取らせてください……」
「無理しなくて良いよ。私、お金に困ってないし、一人で育てるし」
「じゃあせめて、降ろすって選択肢は」
「それはしたくないんだ」
瑠奈は苦笑する。
「もう可愛い我が子だよ」
そう言ってお腹を擦る。
信玄は衝動的に、瑠奈を抱きしめたくなっていた。
「結婚しよう」
そう、告げていた。
瑠奈は目を丸くする。
「けど、私、信玄君のこと、全然知らない。試合の時、いつも、遠くから見てたけど、全然知らない。春武や愛ちゃん混じりで会話してたことはあるけど、好きな音楽も、好きな本も、好きなタレントも、全然知らない」
「俺も、瑠奈のこと、まだ良く知らない。けど、勝負の舞台に背中を推してくれるいい女ってことは知ってる。出来た子供を育てる決意も尊敬してる。だから」
信玄は、腹を括った。
「結婚してください。俺にも、子供の親にならせてください」
頭を深々と下げる。
「うーん、けどねえ。信玄君、引く手数多だよ? もっと良い選択肢、あるよ?」
「良いじゃないか。70年代まで日本は見合い結婚で仲人を重視して恋愛感情はなかったという。ゼロから始めたんだ。俺達も、スタートから一歩一歩、歩けば良い。お前が良い女ってのはもう知ってるんだから」
瑠奈はしばらく黙り込んでいた。
そのうち、呟くように言った。
「けど、私が宗教団体とずぶずぶだったら、信玄君困るよね」
「松井選手だって実家は宗教団体だったって言うぜ。あの偉大なスラッガーがだ。それでもイメージは損なわれなかった」
「けどね、私も親の脛いつまでも齧ってるのはどうかと思ったし」
こほん、と咳払いする。
「アメリカに、亡命します」
信玄は唖然とした。
臆病なんだか豪胆なんだか。
瑠奈の普段と違った肝の座った態度に度々直面し、女の強さと言うものを直に叩き込まれるのはその後のお話。
その年のオフ、信玄は小さな結婚式を上げた。
ほぼゼロベースから始まった結婚生活だったが、後に娘が語るにはそれは質素で終始穏やかだったという。
ただ、しばしば母は言ったという。
同級生はチャンスだけど危険よ、スラッガーの苦手ゾーンの近くに得意ゾーンがあるみたいに、と。
「そんな感じで野球に毒された両親でしたよ」
娘の笑い話だったという。
なんだかんだで二人共馴染んだのだ。
つづく




