同級生2
「あ」
「あ」
球場に入る時に目と目があった。
もう、逃げられないと思った。
群衆に握手しつつ、瑠奈に近づく。
「なんだ、ワールドシリーズ見に来てくれたのか?」
「今年は信玄君が勝ち残ってくれたからね」
「春武の年は行かないのか?」
「京子ちゃん、苦手で……」
「あいつも同級生なんだからそう苦手がることはないと思うけどなあ。仕事は休みか?」
「信徒の方が休み作ってくれた」
そうだ、こいつ一市を牛耳るという不可思議な宗教団体のボスの娘だった。
それを思い出し、若干引き笑いになる。
「そうか。しかし水臭いな、言ってくれれば良い席とると言ったろうに」
「流石に迷惑だよ。行く度に接待させるわけにもいかないし」
「いや、今日も呑むか?」
「良いの?」
「旧友ともたまには交流を持たないとな」
瑠奈が無邪気に笑って、不覚にも可愛いと思ってしまった。
恋愛対象から除外されたと言っても同級生は同級生。
男女間の友情も信じる信玄である。
+++
「くそー。大暴投……」
「ブーイング凄かったね……」
瑠奈が恐る恐る言う。
「イップス持ってる俺を大一番でDHから外した監督の判断ミスだよ。俺のミスじゃない」
思わず酒を呷る。
だってイップスなのだ。
頑張って治るものでもないのだ。
「今日はたんと飲みな」
「くそー。やっとここまでこれたのに。チームで情報共有して春武倒して僅差でもぎ取った勝利なのに」
「例年は春武のチームがワールドシリーズ出てるもんねえ」
「監督め監督め監督め」
「まあまあまあ落ち着いて呑んで呑んで。忘れて明日けろっと出る。まだどっちが優勝するかはわかんないんだから」
「俺はやるぞ。これで大一番で一塁起用はもうないだろうしな。信用もなくなった。万歳だばんざーい」
「ああもうパパラッチの良いネタ……呑むの辞めさせるべき?」
瑠奈はためらうように言う。
「旧友との再会に」
そう言ってグラスを高々と掲げて、飲み干す。
そして、したたかに酔って、早朝に目を覚ました。
そうか、昨日は失策した自分に嫌気が差して他責して酒に溺れてべろんべろんになったんだった。
そうして、立ち上がろうと床を掴もうとすると柔らかい感触。
恐る恐る布団をめくると、裸の瑠奈がいた。
信玄は思った。
実際に顔を合わせた男女の友情なんて信用できねえ! と。
ネット界隈でも実際に会おうと言う男の出会いを求めている率は信玄と晋太郎の打率を足しても太刀打ちできないほどに高い。
一気の血の気が引いた。
え、俺、宗教団体のボスになるの?
メジャーで輝かしいキャリアを積んできた自分の末路が日本の市を影から牛耳る存在だとかなにそれちょっと吹っ飛びすぎなんだけど。
目眩がしてきた信玄だった。
つづく




