限界社畜は寿退社の夢を見るか1
千紗は限界社畜である。
朝五時出勤十時退勤は当たり前。
土日なんてないに等しい。
勤怠表では法律に乗っ取って務めているというおかしなマジックが使われている。
その千紗の癒しが、数年前から出来た同居人だ。
ガイエル。
魔界を追放された悪魔。
空腹で倒れていたところを千紗が救った。
数年間派遣工をしてお金をためて今では大学で語学を学んでいる。
部屋の扉を開けると料理の良い匂い。
一日の癒しである。
「お疲れ様ー」
「ガイエルー、今日のメニューはー?」
「チーズナンにカレー」
「上等」
疲れが溶けていくかのようだ。
二人で食卓を囲む。
「先に食べてて良いのにー」
「千紗が働いて頑張ってるのにそんな気にもならなくてな」
気遣いが優しい。
そういうところも気に入っている点である。
同居生活も数年間。
すっかり互いに馴染んだ。
「卒業が見えてきて就活も順調だよ」
ガイエルは言う。
少子高齢化社会。
国民の三分の一は高齢者。
高齢者の基準も引き上げられ人生百年時代だ。
国外出身者の雇用も以前よりはハードルが低くなった。
「それで、だな」
ガイエルはもじもじしながら話を切り出す。
「何? あらたまって」
ガイエルはうつむき、前を向き、ナンを一口齧り、咀嚼し、ナンを置き、天を仰いで唸り、そして観念したように言った。
「俺が就職したら、仕事やめる気はないか?」
ガイエルは恐る恐る言う。
「まあ転職ぐらいは考えるかな。他に収入あるなら」
「いや、そのだな。家庭に入る気はないか」
頭が真っ白になった。
脳裏に蘇るのは怒鳴り合っていた両親の姿。
突き動かされるように言っていた。
「やだ」
沈黙が場を覆った。
つづく




