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コンビニで貰った特別クーポンを使ったら大変なことになった もーっと恋愛編  作者: 熊出


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サバ読んでましたごめんなさい、そう素直に言えたらどんなに楽だろう

「そろそろそちらの両親にも会わせて貰っても良いんじゃないかな」


 そう晋太郎が言う。

 国際通話も今ではインターネットで格安で行えるので気軽なものである。


 晋太郎はこの度MLBの全体ドラフトで指名された。

 来春からはマイナーリーガーだ。


「いや、その、うち、ちょっと特殊っていうか」


 京子は軽薄に笑いつつ言う。


「特殊ってどうよ。不仲とかか」


 晋太郎との付き合いもこれで五年以上になる。

 高校一年の夏に付き合い始めて相手の海外進学とずいぶん遠くまで来たものである。

 京子自身も就職し、生計の目処は自分で立てている。


「いや、そういうわけじゃなくて……」


 京子は笑顔をひくつかせながら言葉を探す。

 そのうち覚悟を決めて言った。


「私の実家、黄昏家じゃないって言ったら、信じる?」


 晋太郎は思慮深く黙り込んだ。

 そのうち、探るように言う。


「俺はお前が黄昏京子だと聞かされて今まで交際していたし、高校の名簿にも黄昏京子の名前で登録してあった。実家が再婚したとかか?」


「いや、もうちょーっとややこしくてね」


 刺すような沈黙。

 そのうち、晋太郎が溜息を吐いた。


「そのややこしいのを整理しておいてくれ。俺も就職先が決まった。メジャーに上がれなくても日本で拾ってもらえる程度の実績は残すさ」


 そう言うと、晋太郎は通話を切った。

 京子は画面を見て黙り込む。

 サバ読んでましたごめんなさい、そう素直に言えたらどんなに楽だろう。


 以前、京子には万能の力があった。

 能力名はスキルユーザー。

 様々なスキルを社会の不穏分子に植え付けて世界を愉快にしてきた。

 そんな中で回収したスキルによって、若返ってみたり、戸籍を改ざんしてみたりした。

 まさにラスボスに相応しい立ち振舞だっただろう。


 その結果、晋太郎に惚れた。

 そして紆余曲折あって、京子はただの人間に戻った。

 戸籍も今では元のものに戻されているし、職場では違う名前で呼ばれている。


 そして何よりも。

 実際の京子は晋太郎より八歳は歳上なのだ。

 肉体年齢は同じだ。

 内部年齢に差がある。


 流石に八歳年上でしたーは引かれるかなあと思うし、実家に帰ればなんでお前はまだそんなに若いのだとツッコミが入るところだろう。

 元ラスボスも中々に世知辛いのであった。


「あー、明日の資料作りでもするか」


 気持ちのスイッチを変えるために呟いてパソコンを操作し始める。

 しかし雑念が湧いて上手くいかない。

 八歳年上でした、は不味いよなあ。

 実家に行けばボロが出る。


 そもそも、黄昏京子が本名じゃないという大きな嘘が知れ渡る。


「どうしようもないよ。どうしようもない」


 そう京子は軽薄に笑った。



+++



「という訳なんだよね」


「自分一人じゃ処理できなかったか」


 愛が玄関口で呆れたように言う。


「今何時だと思ってる?」


「夜の十時」


「皆寝る時間よ」


「良いじゃない。あんた個人事業主だし」


 この親友、Vtuberを生業としている。

 中学生の頃からだ。

 母親が日米双方で人気を博していた個人Vtuberで、恋人は甲子園五連覇の立役者井上春武。

 登録者数は莫大でがっぽがっぽと儲けている。


「ま、時間に余裕は効くけどね。飲みに行く?」


「それ、助かるー」


 二人して出かける。

 愛の車で三十分もしないうちに店に辿り着いた。


「カシスオレンジ! 愛は?」


 京子は手を伸ばして言う。


「芋焼酎」


 アメリカンな血を引いているはずなのになんとも和だ。

 注文の品が届いて二人で飲み始める。


「いやー卒業したら中々集まらなくなっちゃったね」


「あんたがブラック企業なんかに就職するからよ。戸籍いじって高校の勉強も覚えてないのに進学校に入ってきたもんだから卒業できなくて。泣く泣く中卒でも雇って貰える場所探したのよね」


「晋太郎が将来稼いでくれるんだ」


「ま、晋太郎君なら間違いないだろうね」


「そういや春武君メジャーデビューしたねえ」


「まだマイナー契約だけどね」


 愛は淡々としている。

 人生二度目の貫禄というやつだろうか。


「良いなあ順風満帆な人は。私は八歳年齢詐称してるのがバレるかもって泣き泣きだよ」


「ああ、その話、か。当時はあんたも結構滅茶苦茶やってたもんねえ」


「実家にも帰れなくてさー。けど晋太郎は両親紹介しろって迫ってくるしさー」


「まあ相手の親族と上手くやりたいってのは恋愛の先にあるものよね」


「帰れたら帰ってるっつーの。黄昏京子って偽名がバレてその時点で大騒ぎだわ」


「あんたの人生って……」


 芋焼酎片手に頭を抱える愛である。


「好き勝手やって来たツケよ。覚悟を決めなさい」


「愛なら止めてくれると思ってた」


 拍子抜けする京子である。


「楽な方向に背中を押してほしかったんでしょ? お生憎様、私はそんなに優しくないわ」


「愛私に厳しい」


「あんたの見通しの甘さにはつくづく愛想が尽きてるのよ」


 そう言って愛は芋焼酎を嚥下する。


「それにね、大したことないわよ。あんたが回収したスキルで若返らせたあずきさん、相手の両親に堂々と言ったらしいわよ。私、こう見えて四十代ですって」


 口をあんぐりと開ける京子。


「……肝、座ってるね。反応は?」


「ジョークと思われてその場は流れたけど戸籍を確認して吃驚って感じ」


「結婚できたの?」


「本人達が幸せなら良いかって具合でまとまったらしいわよ」


「そっかー……」


 京子はコップに視線を落とす。

 親に祝福された結婚。

 それはどんな幸せなものだろう。

 自分を育ててくれた親。

 結婚の報告ぐらいしておきたいものだ。


「私、実家、帰る」


「ん、そうしな」


 愛はそう言って芋焼酎をぐいと飲むと、一万円をテーブルに置いて去っていった。


「なんだなんだ、貫禄ついちゃって」


 呆れ混じりにテーブルの一万円を眺める京子だった。



+++



「本当だ。伊能家って書いてあるな」


 晋太郎が京子の実家の表札を見て腕組する。


「どういう絡繰りだ?」


「あのね」


 京子は深呼吸した。


「私の本名、黄昏京子じゃないの。ぜんっぜん違う名前」


「高校にいたのはどういう絡繰りだ」


「当時の私は魔法使いだったの。免許証見せるから」


 そう言って免許証を取り出す。

 晋太郎はまじまじとそれを眺める。


「生年月日おかしくねーか。お前、俺と同い年で八月生まれって言ってたよな。甲子園のホテルでお祝いしたじゃねえか」


「うん」


「この表記が正しかったら……お前、俺の八歳年上ってことになるんだが」


「うん」


 沈黙が漂った。


「こんな私でも、愛してくれますか」


 京子は縋るように、晋太郎を見た。

 晋太郎はまじまじと免許証を眺めていたが、そのうちふっと笑った。


「お前が好きなことは今更変えられめえ」


 京子の瞳から涙が溢れ出した。

 京子は晋太郎に抱きついておいおいと泣き崩れる。


「あー、かなり神経使ってたんだな。気付いてやれなくて悪かったな」


「晋太郎、ずるいよ。格好良い上に度量も広いなんて」


「ああ、良いぞ。褒めろ褒めろ。けど八歳歳上なんだから鼻水俺の服につけるなよな」


「うん」


 この日、京子は両親に晋太郎を紹介した。

 京子の外見を見た両親に吃驚されたのはまた別の話。



つづく

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