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コンビニで貰った特別クーポンを使ったら大変なことになった もーっと恋愛編  作者: 熊出


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物語の終わり2

 妙な夢を見た。

 自分はまだ小学生。

 背伸びして浴衣を着て目一杯着飾って岳志の前に出る。

 そっぽを向いておずおずと右手を差し出す岳志、

 その左手に六華がしがみつく。

 あずきが苦笑して六華を言いくるめ、ギシカが六華の手を引く。

 そして三人は去って行った。

 遥香が現れた。

 岳志は大人になって行ってしまう。

 その背中を見送ると、幼い愛が隣に現れた。

 愛はすくすくと育っていき、春武と手を取り合って去っていく。

 一人だ。


 永遠の牢獄。

 永遠の孤独。

 一人だ。


 一人だ。

 一人だ。

 その心の声だけがクーポンの世界のように白い世界へ反響し戻ってくる。


「嫌だ!」


 自分の叫び声で目が覚めた。

 涙で目を腫らしている。

 いつからだろう、こんな夢を見るようになったのは。


 確か、アリスが弱り始めてからだ。

 本能的に察していたのかも知れない。

 アリスがもう、長くないと。


 涙を拭い、起き上がる。

 そして、転んでしたたかに顔を打ち付けた。


「いったー……」


 夢から覚醒するには良い痛みだった。

 ヒールで痛みを消す。

 そしたら、もう普段通りのエイミーに戻っていた。


「甲子園も長くつづくねえ、お姉ちゃん」


 テレビを見ながらアリスは言う。


「七回制になっちゃったけどね。岳志、最後の最後まで抵抗してたね」


「選手回が声明とか出してたよねー。あの時の騒ぎって凄かったなあ」


「球団再編問題の時の古田さんも格好良かったよ」


「その頃は私日本にいなかったからなあ」


「私も人づてに聞いただけだけどね。ナベツネってオーナーがいてね。たかが選手が、なんて言っちゃったもんで、世間から非難轟々。混沌としてたものだったらしいわ」


「一リーグ制になるか二リーグ制を残すか、だっけ?」


「そうそう」


 自分はもう過去の人間だな、と思う。

 昔の話をしている時だけ、互いに活気が戻る。

 自分の人生はもう過去に置いてきてしまっている。


 その上で、失うことだけを繰り返していくのだろうか。

 そんなことをぼんやりと考えていたら、目から雫が一滴溢れ落ちた。


 いけない。アリスの前では気丈であろうと決めたのに。


「お姉ちゃん」


 アリスが、優しい口調で言う。

 天井を向き、何も見ていなかったかのように。


「生きがい、見つけなよ」


「生きがい?」


 予想外の言葉に、エイミーは鸚鵡返しをする。


「愛が死んでからないでしょ、生きがい。また配信するとかさ」


「もう世俗を離れて久しいわ。最新の情報にアップデートできないわよ」


「お姉ちゃんならすぐ適応できる」


 アリスは布団から手を出してガッツポーズをする。


「ファイトだ、お姉ちゃん」


 その手が細くなっていることに気づいて、エイミーは思わず目をそらした。

 金属音が鳴り響いた。


 実況が大声を上げる。


『藪原、打った! これは大きい!』


『完璧な当たりですね。彼の先祖はMLBでも活躍した信玄内野手と言いますが、彷彿とさせますよ』


「信玄君と瑠奈ちゃんの子孫かぁ」


 アリスが目を細める。


「私達、一時代を生きたよね」


「うん、生きた」


 テレビを見る視界が歪んでいく。


「同じ時代を、生きた」


「うん」


 涙を拭うと、アリスも目に涙を浮かべていた。


「私があっちで岳志さんに会ったら、どんな伝言がある?」


 アリスはからかうように言う。


「悪魔だから、行き先違うかな?」


「うーん、そうね」


 エイミーは乗ってあげることにした。


「来世では遥香さんから私に乗り換えない? って誘っといて」


「誘惑だぁ」


 アリスは鈴を転がすように笑う。


「お姉ちゃんも未練たらたらなんじゃんか」


「冗談よ。もう、遠い昔の話よ。遠い、ね」


「語り部になってよ。井上の血に翻弄された女達って。私のことも書いといて。小さい春武に誘惑されてたって」


「やあよ。暴露本じゃない。それに、当時の人は皆死んだことになってるわ。デタラメだーって言われるに決まってるわよ」


「けど映像データとか残ってるよ。この前確認したんだけどね。お姉ちゃんが岳志さんに再アタックした時の動画残ってた」


「なんつーもん見てんのよあんたは」


 苦笑交じりにアリスの額を叩くエイミーである。

 流石に照れくさかった。

 自分にまだそんな感情が残っていたのかと思うほど新鮮な感情が蘇る。


「けど、そうね。それも良いかもね。忘備録代わりにでも」


「やな忘備録だ」


「発案者のあんたが言うな」


 二人してケラケラ笑った。


「あー……」


 ひとしきり笑った後、アリスはポツリと呟いた。


「ごめんね、私は、ここまでみたいだ」


 アリスの体から急速に生命が抜けていく。

 手を握る。

 弾力のあった暖かい腕から硬い冷たい手へと。


 生命が物質に変わる瞬間を見た気がする。


「皆、来て!」


 気丈に声を張り上げる。

 ギシカ、アリエル、ガイエルが駆けてきた。


 アリエルはアリスの姿を見て察したようだ。


「そうか、もう限界にゃね」


「アリエル、お姉ちゃんのこと、お願いね」


「わかったにゃ。もう長い時間を一緒に生きた戦友にゃ。あんたもそうだったけどね」


「ガイエル。千紗の子孫へ過剰な仕送りは辞めなさい。あんた長生きなんだから」


「俺は最悪魔界に帰れば良いからな」


 鼻白むように言うガイエルである。


「けど、冥土の土産に参考にしよう」


 アリスは滑稽そうに笑った。


「あんたのそういう犬気質なとこ、春武みたいで懐かしかった。ギシカ、良く頑張って六華の後を継いだね。あんたの功績は今も褒め称えられてるよ」


「所詮世襲議員だよ」


 ギシカはアリスの手を握る。


「逝かないで……」


「無理言わないの。六華の時も言ってたでしょ、それ」


 そう言ってアリスは苦笑してギシカの額をデコピンしようとする。

 しかしもう視界が霞んでいるのかその指は空を弾いた。


「お姉ちゃん」


 アリスは、最後の力を振り絞って微笑んだ。

 エイミーは、やけに静かな気持ちでいた。

 最後の瞬間だ。聞き入れようと思った。


「私の言ったこと、覚えておいてね。きっとこれからお姉ちゃんが生きていく上で、必要だから」


「わかった」


 アリスは安堵したようにその返事を訊くと、目を閉じた。

 長い生涯が終わったのだ。


 その瞬間、アリスの体はさらさらと砂のように散っていき、最期には魔核が残った。

 それも、ひび割れて真っ二つに割れてしまった。


「お疲れ様、アリス」


 エイミーは微笑んで、その魔核を抱きしめ、しばらく動かなかった。

 皆が黙って、それを見ていた。


 どれほど時間が立っただろう。

 アリエルが、エイミーの肩を叩いた。


「うん、大丈夫」


 エイミーは顔を上げる。


「お墓にいれてあげないとね」


 そう言って、割れた魔核を崩さないように、ゆっくりと歩き始めた。

 これからやることは、既に決まっていた。



+++


 長い時間を生きたもんだ。

 呆れたようにそう思いながらアリスは宙を飛んでいた。

 ここはどこだろう。

 まるでクーポンの世界のように白い。


 向こうから、懐かしい顔が飛んできた。

 若い頃の姿だ。

 すぐに誰かわかった。


 岳志だ。


「お疲れ、アリス。現世はどうだった?」


「ちょっと生きすぎたかな。疲れちゃったよ」


「俺達も待ちくたびれたぞ」


「俺達?」


 その疑問には答えずに、岳志は言葉を続ける。


「エイミー、なんか言ってたか? あいつもこっちくるのは随分先になりそうだが」


「ああ、それはね」


 アリスは苦笑して、魔法の口説き文句を伝えた。

 岳志は目を丸くすると、天を仰いだ。


「あいつは変わんないな。肉体も若けりゃ気持ちも若い」


「まだまだ長生きするよ」


「まったくだ」


 そう言って、互いに握り拳を作ると、底と底をぶつけ合わせた。



+++



「それが私と岳志との馴れ初めでね」


『その話あちこちで聞いた』


『BBAなAI』


『婆ちゃるAI』


『しかし最近の生成AIは凄いな。いたこみたいだ』


『アリエルの生まれ変わりがデビューして今度はエイミーの生まれ変わりか。Vtuberの転生ってそういう意味じゃないんだけどなあ……』


 エイミーはVtuberとしての活動を再開した。

 声も一緒、喋り方も一緒、喋る内容も一緒。

 ただ、過去の知識に精通しているので、生き字引のように扱われている。


 世間一般的にはAIだと思われているらしいがまあそれも良いだろう。

 時代は変わった。

 エイミーもすっかり過去の人になった。

 登録者数は五桁。

 今の知名度なんてそんなもの。


 でもここから始めれば良い。


(私、まだまだそっちに行ってあげないからね、アリス、岳志)


 エイミーは涙を拭い、配信画面に向かった。


『泣いた?』


『欠伸したんだろ。AIなのにマメだな』


「泣いてないよー。あっくびでしたー」


 笑えてる。

 それが生の実感だった。




つづく

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