WBC開幕前夜7
信玄がチーム入りし、辰巳もDHとして出場し、チームは強化試合に連戦連勝。
「いやあ、同じチームだと心強いな」
信玄が清々しい表情で言う。
「所詮十勝十敗の投手だよ」
辰巳は自嘲気味に言う。
「打線が悪い。お前さん防御率は三点前後だからもっと勝てるよ」
「かね」
勝ち運がないと思ったことはあるし、チームは確かに暗黒期だ。
辰巳をトレードの弾にして将来の有望株を数人もらう、と言う噂は例年のように出ている。
「友田流石だな」
信玄が言う。
「うん、流石だ。対戦した時も厄介な相手だとは思っていた」
ここまでチーム一の好調を保っているのはメジャーリーガーではなくNPBの名ショート友田だ。
この友田、元々はメジャー志向だったが自分は未熟だと判断して国内に残留し、そのままポスティングを認められず今に至っている。
海をわたっていればどれほどの結果を残していたかと思わずにはいられない。
「友田と翔吾はデキてるのか?」
信玄が怪訝そうに言う。
「そう見えるか?」
辰巳は慣れた調子で返す。
「うーん……」
信玄は考え込む。
辰巳は滑稽になってきた。
「あいつは誰とでもそう見えてしまう奴なんだよ。距離感バグってるんだな」
そう言った途端、エナメルバッグで乱暴に尻を押された。
「距離感バグっててすいませんねえ」
「やっべ」
翔吾その人がその場に居合わせていた。
視線は氷のように冷たい。
「だーってさ。お前昔からそういう噂多かったじゃん。NPBでも苦労してるんじゃないの?」
「憧れてくれる人もいるけど、すーっかりヒールだわ。けどいいでしょ、ただの幼馴染なんだから」
どこかで聞いたフレーズだ。
どこだろう、と考え込んでいる間に翔吾が信玄の腕を絡め取った。
「信玄、キャッチボールの相手になるよ。送球難改善だ」
「俺も守備離れて久しいからイップスは影を潜めてると思うんだけどなあ」
そう言いつつも、信玄はずんずんと進む翔吾に引っ張られていく。
その時、あることに思い至った。
監督室で発したあの言葉。
ただの幼馴染ですよ。
自分はたしかにそう言った。
翔吾がそれを聞いていたとしたら?
慌てて、駆け出す。
「お前さ!」
追いついて、翔吾の背中に叫ぶ。
「好きになってほしいなら、もっと素直になれよ!」
翔吾は振り返る。
顔を真赤にしていた。
「あんたが勝手に私を好きなだけじゃないか!」
「いいや、違うね」
断言する。
「お前は、俺に口説かれて、悪い気はしてなかった。そうじゃなきゃ、そんな反応になってない」
翔吾の顔がみるみる赤みを増していく。
「大丈夫か? 熱いぞ」
信玄が置いてけぼりにされた感じで言う。
「なにやってんだ、お前ら」
冷静な口調でそう言って会話に割行ってきたのは、春武だった。
「お前、いつ帰国したんだ?」
「騒ぎになるのを避けて隠密で」
悪戯っぽく微笑む春武だった。
辰巳はとりあえず宣告した。
「いいか、春武」
「なんだ?」
「悪い、納得行かないから一発殴るぞ」
春武はきょとんとしている。
その腹に辰巳は思い切り重いパンチをお見舞いした。
再会は衝撃とともにあった。
つづく




