WBC開幕前夜6
その日、空港は俄に湧いた。
メジャーでホームラン王を取ったこともある長距離砲、信玄が帰国したのだ。
もちろん、侍ジャパンに合流するため。
ロッカールームに姿を現した信玄をチームの皆が歓迎した。
「信玄、今回は仲間だな」
「今回?」
信玄はとぼけた調子で言う。
「次回もだろ? 二連覇やるぞ」
ロッカールームが俄に湧いた。
「しーんげんっ」
翔吾が上機嫌で近づいていく。
信玄も片手を上げてそれを出迎える。
ハイタッチが行われた。
「高校卒業以来か? お前さんとはとことん会う機会がないな」
「信玄がNYでオフシーズン過ごすからでしょ。私からわざわざ会いに行く義理はないさ」
「御尤も」
「相変わらず守備難かい? 今回二刀流選手が多いからDH占有はできないぜー?」
「まあ一塁なら過去の勘もあるしなんとかなるだろ。多分」
そう言えば高校で対戦した時もセカンドの翔吾がファースト寄りに守っていたなあ。
そんなことを思い出し、ついつい苦笑した辰巳だった。
「何笑ってんの?」
翔吾が鋭い口調で攻めるように言う。
「なに、懐かしいな、と思ってな」
「キモっ」
そう言うと、翔吾はさっさと去っていってしまった。
「なんかあったのか? お前ら。確か、幼馴染だろ?」
「……なんかあった、のかなあ」
戸惑いつつ言う。
今回ばっかりは翔吾の心境がわからない。
もしかして、とあることに思い至る。
あの監督室の会話、聞かれたか?
自分はどんな内容を語っていたっけ。そんなことを思い返す。
「まあ、やるぞ、二連覇。まずはプールDを圧倒的一位で突破する。晋太郎も追々合流する。ホームラン争いじゃ何度か歯痒い思いをさせられたが仲間となれば心強い」
信玄の言葉で意識が今に引き戻される。
「……心強いなんてもんじゃないぜ。オールスタークラスのクリーンアップじゃねえか」
そう言って、信玄に手を差し出す。
そして、信玄はその手を取った。
「信玄ー。今日飲みに行こうよー」
翔吾が声をかけてくる。
「なんだよー、俺達も混ぜろよー」
友田が混ざってくる。
そのまま、皆で決起会という流れになった。
やはりこのチームのムードメーカーは翔吾。
さながら、勝利の女神。
その女神に冷たくされてる自分は何なんだろうなあとぼんやりと思う。
何処でボタンをかけちがってしまったのだろう。
自分が、彼女が春武と寝たという過去を告白されて少し引いてしまったせいだろうか。
まだまだ人間として未熟だな、と結論付けざるをえない現状だった。
つづく




