第七話 違和感の正体に触れない者
昼休みの中庭は、穏やかな喧騒に包まれていた。
笑い声、足音、風の音。
どこにでもある学院の一コマ。
——その中で。
「……妙ね」
セレストは一人、木陰に立っていた。
視線の先。
リゼルとカイト。
—
「だからそこ、遅いって言ってるでしょ」
「いや今のはお前が——」
「うるさい!」
いつもの言い合い。
だが。
その距離。
—
近すぎる。
—
必要な距離ではある。
魔女と契約者は、離れれば魔法が使えない。
だから近くにいるのは当然。
—
だが。
—
(……それにしても)
—
揃いすぎている。
—
歩幅。
位置。
タイミング。
—
まるで測っているかのように。
—
「セレスト?」
後ろから声。
ミリアが顔を覗かせる。
—
「何見てるの?」
「……観察よ」
短く答える。
—
「リゼル先輩たち?」
「ええ」
—
ミリアは少し笑う。
「仲いいですよね」
「そう見える?」
「はい!」
即答。
—
セレストは少しだけ目を細める。
—
(仲がいい、か)
—
それだけで説明できるなら、簡単だ。
—
「……そうね」
それ以上は言わない。
—
まだ、確証がない。
—
—
「なあ」
カイトが言う。
「今日も行くのか?」
「当然でしょ」
リゼルが即答する。
—
「昨日より詰めるわよ」
「はいはい」
—
自然と並ぶ。
距離を測ることなく。
—
それが当たり前のように。
—
(……無意識)
セレストは思う。
—
意識していない。
それでも、合う。
—
それは訓練では説明がつかない。
—
—
訓練場。
—
「いくわよ」
リゼルが構える。
カイトが踏み込む。
—
「今」
炎が走る。
—
「もう一発」
「任せなさい」
—
連続。
途切れない。
—
「……速い」
セレストが小さく呟く。
—
昨日より明らかに。
—
成長が早すぎる。
—
(普通じゃない)
—
だが。
—
それが何なのかは、まだ分からない。
—
—
その時。
—
ほんの一瞬。
—
リゼルの魔法が“揺れた”。
—
「……っ?」
セレストの目が細くなる。
—
見間違いか。
—
いや。
—
確かに。
—
“ズレた”。
—
「……今の」
思わず呟く。
—
だが。
—
すぐに元に戻る。
—
何事もなかったかのように。
—
「どうかした?」
ミリアが聞く。
—
「……いいえ」
首を振る。
—
(今のは——)
—
分からない。
—
だが。
—
確実に。
—
“何か”が違う。
—
—
訓練が終わる。
—
「……悪くないわね」
リゼルが言う。
—
「だろ?」
カイトが笑う。
—
その距離は、変わらない。
—
(……やっぱり妙ね)
—
セレストは確信に近づく。
—
だが。
—
まだ足りない。
—
—
「……もう少し観察が必要ね」
—
その目は、完全に二人を捉えていた。
—
—
そして。
—
誰も気づいていない場所で。
—
「……順調だな」
低い声が響く。
—
屋根の上。
黒い外套の影。
—
リゼルとカイトを見下ろしている。
—
「少しずつ、歪んでいく」
—
その声に感情はない。
—
ただ、事実を確認するように。
—
「……いい」
—
風が吹く。
—
影は消える。
—
誰にも気づかれずに。
—
—
違和感。
—
それはまだ、名前を持たない。
—
だが確実に。
—
物語の深層へと繋がっていた。




