第六話 見ている者
夕方の訓練場は、昼とは違う静けさに包まれていた。
風の音だけが、かすかに耳に残る。
「……もう一回いくわよ」
リゼルが杖、《アルカナ・コーデックス》を構える。
「何回目だよ」
カイトが肩を回しながら言う。
「納得いくまで」
「はいはい」
軽く返しながらも、剣、《ネメシス・リベリオン》を構える。
—
踏み込み。
呼吸。
距離。
—
「今」
炎が発動する。
滑らかに。
無駄なく。
「……いいわね」
リゼルが小さく呟く。
「昨日より安定してる」
「そりゃそうだろ」
カイトは剣を下ろす。
「何回やってると思ってる」
—
「次」
リゼルが言う。
「今度は連続」
「無茶言うな」
「できるから言ってるのよ」
—
再び構える。
カイトが剣を振る。
一度。
二度。
—
「はぁっ!」
炎が連続で放たれる。
少しだけ間が空く。
だが崩れない。
—
「……できてる」
リゼルが息を吐く。
その声には、確かな自信が混じっていた。
—
「なあ」
カイトがふと聞く。
「ん?」
「どこまでいけると思う?」
リゼルは少し考える。
—
「分からないわ」
正直な答え。
—
「でも」
杖を見つめる。
—
「限界は決めない」
—
その言葉。
迷いはない。
—
「……だな」
カイトが小さく笑う。
—
その時。
「——へぇ」
声がした。
—
振り返る。
—
そこにいたのは、セレスト。
静かに立っている。
—
「また来てたのか」
カイトが言う。
「訓練場は共有よ」
当然のように返す。
—
セレストの視線が、二人を捉える。
じっと。
観察するように。
—
「……息が合ってるわね」
ぽつりと。
—
「そうか?」
カイトが軽く返す。
「ええ」
セレストは頷く。
—
「異常なほどに」
—
一瞬。
空気が止まる。
—
「……どういう意味よ」
リゼルが低く言う。
—
セレストは少しだけ考える。
—
「言葉通りよ」
それ以上は言わない。
—
だが。
その目は確実に“見ている”。
—
「……気にしすぎじゃないか?」
カイトが言う。
「かもしれないわね」
セレストはあっさり引く。
—
「ただ」
一拍。
—
「興味はある」
—
その言葉だけ残して。
セレストは背を向ける。
—
去っていく背中。
—
「……何なのよ、あれ」
リゼルが小さく言う。
—
「頭いいやつってああいう感じじゃね?」
カイトが適当に返す。
—
「適当ね」
「事実だろ」
—
だが。
二人とも分かっていた。
—
“見られている”
—
ただの興味ではない。
—
観察。
—
「……やりづらくなるわね」
リゼルが言う。
—
「気にすんな」
カイトは軽く言う。
—
「いつも通りやるだけだ」
—
一拍。
—
「……そうね」
リゼルは頷く。
—
杖を構える。
—
「続けるわよ」
—
剣が応える。
—
距離は変わらない。
—
だが。
—
確実に。
—
“何か”が近づいていた。
—
それは敵か。
—
それとも。
—
真実か。
—
まだ誰も知らない。




