第4話 クラウチングスタート
2章ラスト
カケルは背後から飛びかかる殺気に気づくとココロを抱いて地を蹴った。飛びかかったエビルは見事に空振る。
軽やかに駆けながら、カケルは校庭の隅まで移動する。いったん息をつこうをとココロを見ると、自身の胸に思いっきり押しつけていた。息もできないほどに。カケルは慌ててココロの肩を掴み胸から顔を外す。ぷはあっ、とココロが深く息をする。
「良かった、生きてた。大丈夫か?」
「むしろご褒美だった」
「は?」
「ううん、なんでもないよ」
えへへ、とココロが笑いながらカケルの腕から離れる。そこへおいちゃんが慌てながら近づいてきた。
『ココロのじょうちゃんだいじょうぶか!? しんでまうかとおもったんやで』
「確かにあの圧力は昇天ものだと思う」
『は?』
「ううん、なんでもないよ」
ココロがおいちゃんに笑いかける。おいちゃんは首を傾げたが、カケルの後ろを見て再度わたわたと慌てだした。背後を見ずとも、カケルにはわかっている。
振り返ると同時に走り出す。向かってくるエビルに真っ正面から突っ込んだ。当たる直前に右足を蹴って避けつつ、今度は左足を蹴りエビルの横っ面に体当たりをかます。衝撃にエビルは吹き飛んだ。カケルにも反発で力がかかるが、それはなんとか持ちこたえる。
起きあがって睨みつけるエビルに、カケルは片手の甲を見せると人差し指を上げてクイクイと挑発する。
「来いよ、獣野郎。お前の相手は俺だろ?」
その挑発が効いたのかはわからないが、エビルはカケルに狙いを定めた。低く吠えながら、カケルに飛びかかる。カケルはエビルの動きを見ながら避けていく。
捕まらなければ、カケルの方に利がある。
獣の形態をとっているからかエビルのスピードは速いが、走力が特化しているカケルの方がそれを上回る。さらに直線行動しかとれないエビルに対し、カケルは小回りが利く。数秒経つと一瞬だけ足が止まるというハンデがあっても、逃げるスピードと反射神経がそれを十分カバーしている。しかし捕まったら最期、今度こそエビルの牙と爪でお陀仏だろう。
カケルは適度な距離を保ちつつ走り続けた。途中エビルを殴ったり蹴ったりしてみるが、無意味ではないにしても威力は弱い。やはり得意とするもので攻撃しないと効果は見込めないようだ。
カケルは足が止まったところで右手の測定器を見る。長針がもうすぐ1週するというところ。短針もそれに合わせて進んでいる。カケルがエビルを避けて走り出すと、長針がちょうど真上に止まる。
《処女充電Lv1 突破いたしました》
測定器から女性のつぶやくような声が聞こえる。
「なるほど。この音量じゃ、他に集中してたら聞こえないな」
納得してうなずきエビルを見れば、体勢を低くしこちらの状況を伺っている。
本能によるものか、それとも知能があるのかは不明だが、近づく気配はない。
(避けられたら、厄介だな)
カケルは一瞬だけ頭によぎる。スピードではこちらが確実に勝っているが、どうにも素直に勝たせてくれる気がしない。攻撃が空振るときどうなるかが、カケルには予測できない。
(でも、行くしかないよな)
カケルは深く息を吐き、エビルに向かって飛び出した。
しかしカケル自身の意志で、技は発動させない。
エビルもカケルが飛び出すと同時に、駆けだした。
当たる直前にカケルが右に飛ぶ。先ほどまではここでエビルを避けて攻撃に移った。
しかしここでエビルも左に飛ぶ。
(やっぱり、学習している!)
エビルの牙がカケルを狙う。牙の奥から息を感じる。エビルは全力を持ってカケルを仕留めにかかった。
カケルは、笑った。
地面に右足を付けると、勢いよく背後へ飛ぶ。
(スピードで、負けてたまるかよ)
エビルの方向へと体を固定。左足で動きを止め体勢を低くする。両手を地面につき、右足を後ろに下げると膝を落とす。頭を落として腰を上げる。それはかつて部活で行ったスタートダッシュの姿勢。
エビルはカケルを食らうため、全力を使った。つまり次の体勢をすぐにはとれない。
右足で、カケルは地を蹴り出した。
測定器が反時計回りに回り、2本とも真上に止まった。
《《乙女による防壁 発動します》》
カケルの体が、エビルを貫いた。
カケルは深く息を吐く。エビルの姿はどこにもない。
ココロたちの方を向けばゆっくりとココロが歩み寄ってくる。うつむいていてその表情はわからない。カケルが急いでココロに近づいた。ココロは眉間を寄せて唇を噛んでいる。痛めた左腕が辛いのだと理解し、カケルもまた心が刺されるように痛む。
「ココロ、病院行こう。ここも人が戻ってくるだろうし、その前にここから」
「・・・・・・して」
ココロが何か言おうとしたのを感じ、カケルは口を閉じココロの言葉を待つ。
カケルを見上げたココロの顔は、とても不満そうだった。
「どうして最後、こっちにお尻むけてくれなかったの!?」
「・・・・・・は?」
「だってカケルくん、バトルしてるとき鉄壁スカートなんだもん。あれだけ走ってるのに。あんなに跳ねてるのに。最後のクラウチングスタートなんて、後ろからみたら絶対スカートの中覗けたのに!」
「いや、あの、ココロ?」
ぷんぷんと可愛い顔で怒るココロに、何て声をかけるべきなのかカケルはわからず戸惑ったままココロの名を呼ぶ。
するとココロが右手でカケルのスカートに手をかける。反射的にカケルはスカートを全力で押さえた。
「ココロ、待て。それはさすがに嫌だ」
「えええ、どうして? 中どうなってるのか見てみようよ。カケルくんもどうなってるのかわかってないんでしょ。カケルくんそういうの気になっても、恥ずかしがってできないもんね。だから私が確認する」
「いや、いいから。気にしないから。まったく興味ないから」
「興味ないなら見てもいいでしょう?」
「だめだ、こらっ、ココロ、めっ!」
「どんな感じなんだろう。可愛い系かな。あ、でももしかしたらアダルティ系かもしれない。紐とかレースとか。コスチュームからして色は赤だと思うけど、白とか黒とか捨てがたいと思わない?」
「少なくとも、自分のパンツの色とかどうでもいいから!」
「カケルくん、もしかしてノーパ」
「違う!! 早く病院行くぞ!!!」
カケルが顔を真っ赤にして、叫んだ。
そして呆れた顔をするおいちゃんをキッと睨む。
「おい、今すぐ変身解け」
『それがヒトにものたのむタイドなんかい』
「くそっ、・・・・・・解いてください。お願いします」
『っちゅーか、むりやりほどけばええんやない? ココロのじょうちゃんよりパワーあるやろ』
「それでココロが怪我したらどうするんだ!!」
『めんどくさいやっちゃな』
おいちゃんは腕を組んで、半目になりながらヘンッと鼻で笑う。
『どーしよかなー。おいちゃん、ヨウカイやからなあ。ノロイかけたわるーいヨウカイやもんなあ』
「別にそれは間違ってないだろ」
『・・・・・・ほー』
「あ、いや、その・・・・・・悪かった。言い過ぎた」
『ゆるしてください。ぷりちーできゅーとな、おいちゃん。までいうてなあ』
「こ、んの・・・・・・。許してください、ぷりちーできゅーとなおいちゃん。・・・・・・これで十分か?」
『んじゃあ、1分たったらもどしたる』
「今すぐ戻せええええええ!!」
約束通り、1分後に変身は解かれた。
カケルとココロの攻防がどう収拾がついたのか。想像にお任せする。
ヒロインがどんどん変態になっていく。
個人的には鉄壁スカートの中身を想像するのが好きなので、別に見えなくても構わないです!




