第4話 持ちつ持たれつ
連絡先を交換し終えた2人は、その後も会話を続ける。どもって上手く話せないカナデであったが、それでもカケルは苦もなく耳を傾ける。
会話の中で2人とも同い年ということで、カケルはカナデと、カナデはカケルさんと呼ぶことに決まった。最初はヒビキと呼ぼうとしたカケルだったが、カナデの方から名前の方がよいと要望があった。あまり接点のない人ならば気にしないが、少しでも気のおけない人には名前で呼んでほしいらしい。
これに関してカケルは友人の安倍川を思い出した。安倍川はカナデとは逆で、名前が嫌いだから名字で呼んでほしいと言われている。
またカナデは相手に対しての謙虚さが抜けきれず、カケル「さん」と呼んでいる。これに関してはカケルはどうでもよく、変なあだ名でないならどう呼んでもいいと思っている。
大分長時間会話が続き、そろそろ店員の目も厳しくなってくる。
2人は帰り支度をして店を出る。カケルがスマホで時間を確認した。
「大分遅くなったな。この時間ならいっそココロ迎えに行って一緒に帰るかな」
「なな、仲、い、いんだだだね」
「そうだな。まあ、少なくとも親以上にはな」
「・・・・・・そ、っか。ぼ、ぼぼ僕も、い、い?」
再度学校へと戻り出すカケルに、カナデも一緒に着いていくことにした。カケルの隣にカナデが並ぶ。数時間前に店へと向かったときはカケルの背後を怯えながら着いていったが、今は横に並び、少しおどおどは残りつつも大分安心しきっていた。
「それにしても大分話したな」
「う、うん。ぼ、ぼぼ僕、はは初めてかも。こ、んな、かか感じで話すこここ、としたの。こん、こ、こんな、しゃべり方ににに、なっ、てから、は、話すの嫌になっ、ちゃって。と、友だち、とかも、いいい、いなくて。だ、だだだから、カケルさんと、話し、すすするの、楽し、かった。今は、たた、高瀬さ、んや、雲母さん、も、いるけど、男のと、友達とと、ここ、こん、こんなに、話せる、すすすごく、うれし、い。あの、あの、かかカケルさんがよかったら、ままま、また、こうやって、はな、話、できたらって」
「カナデ!!」
カケルの大声にカナデの肩が跳ねる。カナデが慌てて横を向けばそこにいたはずのカケルの姿がない。慌てて振り返るとカケルが早足でカナデを追っていた。歩いているときはわかりにくかったが、早足になると右足が若干引きずっている。カナデはそれに対してゾッと顔を青くする。
カナデのもとまでたどり着いたカケルは、カナデを見上げてホッとする。
「悪い悪い。やっぱり身長高くて脚長いと歩くの早いんだな」
「ごめ、ごごごめ、ぼ、僕、ききき気づかな、ななな、く、て。あああああ、僕、僕、僕、こ、ここここ、こんな」
「落ち着け落ち着け。これに関しては俺が悪かった。もう少し早くカナデを呼び止めるべきだった」
走るのは無理にしても歩く分には問題ない。しかし思いの外カナデの歩くスピードが速く、カケルは少々ムキになってしまった。元陸上部というプライドがあり、どうしても追いつこうと必死になった。しかし距離が縮まらず、結局はカナデを呼び止めてしまった。カナデの真っ青な顔色に、カケルも反省する。
「中学は陸上部だったんだけど、膝悪くして走れなくなったんだ。でもカナデの歩くスピードに追いつこうと必死になってさ。説明しなかった俺が悪い。だからカナデが気にすることないんだ」
カケルは未だに謝ろうとするカナデの肩に手を置いた。そして数歩先を歩くと振り返り、カナデを待つ。カナデはその姿にショボンとしつつ歩き出す。今度はゆっくり、カケルの歩くスピードに合わせている。
「それにしてもカナデの身長高いよな。正直うらやましい。中学時代、それぐらい身長あったらもう少しタイムよかっただろうな」
「い、いいいい、こと、な、んて、ないよよ。ま、周り、から、みみみ見られ、るし。こ、こんな、しゃべりかた、だだだから、みんな、びび、びっくり」
「・・・・・・うーん。怖いかは置いといたとしても、カナデとココロが並んだら巨人と小人だな」
カケルの脳内で並ぶカナデとココロの姿。思わず吹き出さないように気をつける。
対してカナデの顔色は未だに直っていない。ボソリと口を開く。
「僕、ぼぼ、僕は、そ、んな人のの、目が、目が、こわ、怖くて。だから、歩く、の、どうして、ももも、はや、速くなって。僕、僕がこここんなじゃ、なかった、ら、カケ、カケルさんも、こんな、こと、に」
ズーンと沈みきってしまっているカナデ。そんな隣の様子に、カケルは考え込む。そして、思いついた言葉に手を打った。
「持ちつ持たれつ、だ」
突然のカケルの言葉に、カナデは首をかしげつつカケルを見下ろす。カケルはカナデと視線を合わせて言う。
「カナデは話すのに時間かかるだろ。それを俺が聞く。そして俺はカナデに比べて足が遅いだろ。それをカナデが俺に合わせて歩く。互いが互いに合わせてるんだ。持ちつ持たれつだろ」
意味は通じたのだろう。しかしそれでも渋い顔をするカナデに、カケルはその腕を軽く小突く。
「俺、言っただろ。友達になろうって。だからカナデに何かあったら助けるし、俺に何かあったら助けてくれればいい」
その言葉にカナデは目を丸くするが、しばらくして真剣な顔でうなずいた。
それに安心したカケルは前を向く。そこで「あっ」と何かに気づいたように小さな声をあげる。
「ど、どどど、どうし、たの?」
「あ、ああ。いや、なんでもない」
カケルは笑ってごまかした。
気づいたのだ。自分が膝を壊して走れなくなったことを、普通に話すことができたことに。たとえそれがカナデを慰めるためだとしても、自分自身の口で何の苦もなく説明できたことに。そして自分が走れず「遅くなった」ということを素直に口にできたことに。さすがにまだ短距離走者としてのプライドは残っている。だからこそカナデの歩幅に追いつこうと必死だった。それでも自分が嫌だったことを、過去の自分がヤケになるほどのことを、自分自身が素直に受け止められていることに気づいた。
幼なじみのココロがいて、陸上仲間だったシュンヤがいて、高校で友達になった安倍川がいて、認めたくないがトールたちがいて、その他にもカケルを支えてくれた人たちがいる。だから、そう思うことができた。カケルはそう、確信した。
「カケ、カケルさんは」
カナデが話し始めカケルは黙ってそれを聞く。
「すご、すごいよね。ぼぼ僕、初めててて、ども、どもっても、だだだ大丈夫って、おも、おおお思えて。他のの、人がこわ、怖くて、速くななな、なったこと、こと、ことも、よかったって。・・・・・・・・・・・・あああああああああ、あの、あのああ、カケ、ルさんを置いてって、よか、よかった、じゃ、なく。誰かにあわ、合わせられ、られる、こことが、でき、できたことが」
あたふたしているカナデに、カケルは思わず吹き出した。
「違うよ。俺が凄いんじゃない。・・・・・・いろんな人に、助けられてんだよ」
(俺は、それに、返せているのか)
カケルは話しつつ、心の中でつぶやいた。
ーーゾッとする気配。
カケルは慌てて後ろを振り返り、そして顔を上げた。
2人から少し離れた空中。浮かぶ黒いもやに息をのむ。もやは徐々に大きさを増していく。もやは道路の半分を埋めるほどに大きくなり、地に降りる。そしてもやが霧散すると同時に、「それ」は現れた。
岩を基本パーツにしたようなゴツゴツとした皮膚。亀のような顔つきをしているが、鋭い牙が見える。ゴツゴツと丸い体をしているが、肩には鋭い石の破片。そして大岩のように膨らんだ両腕は、軽く腕を振っただけで車を吹き飛ばせそうだ。
まさしくそれは「化物」だった。
エビルとのバトルで下ネタ話が続いたので、
今回はちょいと真剣め。




