第3話 聞くよ、しっかりと
「落ち着いたか?」
カケルが苦笑しながら隣を向く。そこには「ひびき かなで」と思われる男が未だに真っ青な顔でブルブル震えながらイスに腰掛けている。
あの後2人は某コーヒーショップのカウンター席へと移動していた。ファミレスに行くことも考えたが、男の態度に対面席による会話は不可能だと悟りカウンター席のある店へと入った。
店内にいる間もガクガクブルブルする男に、カケルはもう何も言わず何も聞かず席へと促した。適当に2つ飲み物を頼むと席へと持って行った。ちなみに仕方ないとはいえすべて金額はカケル持ちである。カケルはこっくりさんに殺意しか覚えなかった。
カケルは飲み物を渡し、隣の男の様子がある程度落ち着くまでそちらの方を一切向かずに待ち続ける。男はブルブルと震え、カケルと飲み物へと交互に視線を動かす。カケルはそれを感じつつ、男を見ずに自身の飲み物へと口をつける。
男はオロオロしつつゆっくりと飲み物を手にとった。カケルをチラリと見つつ一口飲む。そして深く息を吐いた。
カケルはそこで声をかけたのだ。
男はまだ顔色が悪いが、先ほどに比べればマシである。
「『ひびき かなで』さんで、間違いはないかな」
「は、ははいははい。ひ、ひび、響、かかか、か奏です」
やはり男はカナデと名乗り、小刻みに首を動かした。舌を噛まないか思わず心配してしまうほどのどもりっぷりだった。
どうにもこっくりさんの言っていた「ひびき かなで」に怒りが沸いてこないカケルは、ここで自分の名前を言っていないことに気づいた。
「すいません。自分の紹介がまだでした。大地駆と申します。驚かせてしまったようですいません」
カケルの言葉にカナデは首を横に振る。
「あ、あああ、あのののの、ぼぼ僕のほ、ほう、こそ。ご、ごごごめんなさ。こ、こんなあああ、っで」
「ああ、焦らなくて大丈夫です。ゆっくりでいいですから」
その言葉にカナデもうなずいて、詰まらせつつも深く呼吸をする。そんなカナデにどうするべきか悩みつつ、今ここにいる理由を正直に告げてみた。
「あのですね。実は僕の幼なじみに高瀬心という女の子がいるのですが」
そうカケルが話し始めた瞬間。
カナデが息を止めて、急に立ち上がる。その際にイスが倒れそうになるのを、カケルがギリギリキャッチした。カナデはそのことにも焦ってしまう。
「ご、ごめ、ごめんな、ごめ、ごめんなさ」
「いえ。あのですね」
「お、おか、おかし、い、でで、すよね。こ、こんな、ぼぼ僕が、た、たか、せさんと」
カナデの拙いながらも発した言葉に、カケルの表情が固まる。まさか本当にこっくりさんの言ったとおり、ココロと付き合っているというのか。そんな不安でカケルの雰囲気が一気に冷える。一方、カナデはもうその前段階で焦りに焦っていて、そんなカケルの様子には気づいていない。
カナデはどもりつつ、言葉を続ける。
「と、とも、友達、づ、づき、あいいい、な、なななんて」
「・・・・・・へ?」
そしてカナデの言葉にカケルは呆気にとられる。
「友達?」
「へあっ!? は、はいいいいいい。ご、ごめ、ごめんな、さささささい」
「ああ、いや。とりあえず落ち着いて座って。ゆっくりでいいから話を聞いてもいいですか?」
カケルはカナデに対して席を勧める。これはどういうことかと、カケルは疑問を持つ。
カナデは少しずつ少しずつ、自身の感情を治めようと努める。カケルも辛抱強くそれを待った。飲み物の氷はほとんど溶けきってしまっていた。
辛抱強くカナデの話を聞くカケル。少しずつではあるが、その内容に脱力してしまった。
なんでもクラスの男子にからかいで無理矢理ココロに告白してしまうことになったという。告白されたココロはその状況を把握した上でOKの返事をしたのだという。
しかし「付き合ってほしい」という言葉に「友達付き合い」としてということだが。
「俺の怒りはなんだったんだ・・・・・・。くっそ、もっとファ○リーズぶっかけるべきだった」
机に突っ伏した状態でカケルはうなる。カナデが隣であたふたとしているのを感じ取り、机に伏したまま顔をカナデの方に向ける。
「俺が勝手に勘違いしただけだから。ヒビキさんは何も悪くないですよ」
「ち、違っ。ぼ、僕がこん、なで、す、から。ご、ごごごめ、なさい」
一生懸命謝罪の言葉を口にするカナデの姿に、カケルは疲労感を覚えつつ思わず笑ってしまった。最初に比べればどもりも少しだけ治まっている気がしないでもない。
カケルは体を起こしてカナデに笑いかける。
「それより、ココロと同じクラスってことは同い年ってことでいいのか?」
それに対してカナデはうなずくことで返事をする。そして再度どもりながら、カケルにたどたどしく話しかけた。先ほどまで真っ白だった表情は少しだけ色を取り戻している。
「あ、あああ、あの、た、高瀬さんの、お、おお、おさな、なじみ、な、ですよ、ね」
「そうだけど。あと、同い年だから敬語いらないぞ。癖なら止めないけど」
カケルの言葉を聞いて、カナデは話すのを止めて深呼吸をしてまた口を開く。
「高瀬、さんか、ら聞いて、て。仲のい、い、おおお、幼なじ、みのこと」
カナデはふんわりと笑った。
「すすす、すごく、素敵だ、な、って。おおお思ったんです」
ここでおさらいである。
カケルは幼なじみバカである。ココロのことを何よりも第一優先とするバカである。
そんな幼なじみが自分のことが話題になっていた。しかもその関係を素敵だという人が目の前にいる。
カケルがそんな人に悪感情を抱くか。抱くわけがない。
カナデの手を強く握るカケル。
「ヒビキさん。俺たち友達になろう」
「ふ、ふええええっ!?」
「考えるんだ。ヒビキさんは俺の幼なじみのココロと友達になっている。つまりココロの友人である俺だって、ヒビキさんの友達になっても不思議じゃないだろ」
「へ、えあ、そ、そそそ、う、かな」
不安そうにするカナデにカケルは問題ないと深くうなずいた。
「そういうことで、連絡先交換しようか。ほら、しゃべりにくかったら打ってくれればいいし」
「へ、え、ええええ?」
軽くパニックになっているカナデ。しかしその表情に嫌悪や嫌疑は感じられないため、カケルはぐいぐい攻めていく。
「あ、あああ、あのののの」
カナデは流されかけながらも、言葉を紡ぐ。
「ぼ、ぼぼぼ、僕、こ、ここんな、話し、かかかたで。いいいや、じゃ、ない?」
不安そうなカナデに、カケルは少しだけ考え込む。
なんと言うべきか悩んでしまった。下手な慰めでもいいかもしれないが、それは違うと思った。安倍川を思い出して、そして中学時代の友人たちを思い出す。そしてココロを思い出した。
「俺さ、話の提供するのが苦手で。いや、苦手っていうか話題を出せない、だな。聞き役が多いし、走ること以外自分から手を出したことがなくて。ココロや友人が、勧めてきたから始めたことばかりで」
カケルは恥ずかしそうに頬をかく。
「俺としては、ヒビキさんみたいに一生懸命話している人に、相づちしながら聞いてるほうが気が楽だよ。というより、俺はそっちのほうが楽しいんだな」
1人でいるのが平気だと思っていた。でも、やっぱり誰かといるほうが楽しかった。
カケルは改めて、カナデをしっかり見る。
「だからさ、嫌じゃないよ。話してくれるなら、俺は聞きたい」




