番外編その10 お付き合いいたしましょうか
ヴァルゴレッドの胸がポロリしたときのこと。
「はっ!?」
「ちょっと、ココロ。どうしたのよ」
「なんか今、すごく惜しい瞬間を見逃した気がする」
「意味がわからないわ」
ココロは残り一口の焼きそばパンを食べる口を止めた。そして発言した内容に友人が呆れた顔で言葉を返す。しかし友人の言葉を気にとめず、ココロは焼きそばパンを口の中に放り込んで食べきると、両手を机にバンバン叩きつける。その顔はとても悔しげだった。
「ちょっと、やめてくださらない。私、まだ食事終わっていないの」
「うー、ラブちゃん。なんかわかんないけど、すっごい悔しいの」
「ラブって言わないでって言ってるでしょ。この百合女」
友人はキッとココロをにらみつける。
「えー、だって本名でしょ」
「本名だから嫌だって言っているの。アイって呼びなさい。じゃなきゃ友達やめるわよ」
「そしたら、アイちゃんぼっち決定だけど」
「喧しいのよ、あなたって人は」
アイと自称する友人は、手を伸ばしてココロの耳を引っ張った。手加減なしのそれはとても痛かったが、ココロはその腕の内側を手首からツー・・・・・・と指でなぞる。アイは「ひゃうっ」と甲高い声をあげて思わず手を離す。
「アイちゃん、カワイィーネー」
「ああもうこの変態女ムカツク!!」
両手で友人を指すココロに、アイは周囲を気にすることなく叫ぶ。教室内には他にも生徒たちがいるも、この2人のバカ騒ぎはいつものことで誰も気にすることはなかった。
しかしアイは叫んでしまったことを恥じるように口元を手で押さえ顔を赤くする。
この友人の本名は「雲母愛」。ふりがなで読むと「きらら らぶ」となる。「愛」と書いて「ラブ」と読む、ネット上で公開されたら見た人を笑いどころかドン引きさせる名前である。さらに名字も珍しいものであり、名字も名前も合わせれば見事キラキラのダブルスコアだ。しかも繋げて読むと「ららら」になるのも、痛々しさがパワーアップする。友人はこの名前を心底嫌悪している。名字はどうにもならないので仕方ないとして、名前はなぜ英語読みにしたんだと親を憎んでいる。よって学校では自分の名前を「あい」と呼ばせている。
わざとらしくアイが「コホン」とせきをする。
「それで、一体ココロは何の凶行に走ろうというの。内容によっては私、たとえぼっちになったとしてもあなたの友人やめますわ」
「そんなこと言わないでよアイちゃーん」
「そう言ってるあなたのその手は一体何ですの」
アイはジトリとココロを見る。
そのココロはというと、両手の指をわきわきと動かしている。
「なんか、今にも突撃して揉みしだきたくなる感情が」
「もしココロが痴漢で捕まったのなら、私がテレビに出て証言してあげるわ。『いつかやると思っていました』と」
「ひどいよアイちゃん。私警察しょっぴかれるようなことしないよ」
「だったらその手をやめなさい」
未だにココロは両手をわきわきしている。そしてそのわきわきをアイへと向けた。
「安心して。アイちゃんも私にとって、可愛い女の子だから」
「今の発言に何も安堵できないわ。むしろ危険が増したわね」
「もー、アイちゃんはつれないなあ」
ココロはわきわきをやめると、イチゴ牛乳のパックのストローに口をつける。
小さなイチゴ牛乳のパックを両手で飲む小柄なココロは、友人の贔屓目抜きにしても可愛らしいものである。
ふわふわした感じのあるココロと違い、アイはつり目で気の強い印象を持たれることが多いためうらやましい限りである。
「あなたは本当にしゃべらなければ小動物みたいに可愛らしいのに」
「そんなこと言ったらアイちゃんだって、見た目と違って中身乙女で可愛いよ。そのギャップ凄くいいと思う。私毎日キュンキュンしてるもん。そしてハァハァするもん。もう興奮するよね」
「黙れ、変態」
「アイちゃんに罵倒されるのって、一種のご褒美だと思うの」
「・・・・・・ココロ、何度も聞くけどあなた本当にそっちのけはないのよね」
顔を赤らめるココロの発言にアイはドン引きしている。
そして尋ねた質問にココロは深くうなずく。
「もちろんだよ。可愛い女の子に興奮はするけど、欲情はしないもん」
「いえ、興奮する時点で危ない方へ傾いていると思いますわ。そもそもあなただって十分可愛い女の子の部類でしょう。だったら自分を磨いたらいかが?」
「むー、自分を可愛いとか思えないし」
アイに向かって膨れる顔をするココロ。小柄な体格と相まって、とても愛らしい。
しかし中身が残念だということを、アイはここ数ヶ月で理解している。
その可愛らしい見た目に、学校内でも早々男子生徒に目を付けられ告白されたこともある。しかしココロはNOが言える日本人であり、恋愛に興味がなかった。そして男子生徒への返事の内容が
『私、男の子に興味がないの』
である。しばらくココロ=レズ説が広まったが、本人は完全に否定している。曰く女の子や女子同士の絡み合いを見ているのは大好きだが、自分はそれに混ざりたいわけではないとのこと。二次元のキャラが大好きだが、そのキャラと恋愛をしたいのではないのと一緒である。
しかし未だに噂は消えていない。むしろアイとそういう仲なのではと疑う人たちが大半である。
「あ、あああ、あのの、た、たた高瀬さん」
急に男子生徒が盛大にどもりながら2人に近づいた。
ココロもアイもその人物に見覚えがある。クラスメイトの1人だ。
ボサボサの髪に、顔の半分を隠しているであろう前髪。そして顔は痩けている。バスケ部ほどの高身長だが、全体的に栄養がとれているのか不安になるほどのひょろい体格。その体を猫背にしておどおどしている。
「ご、ごごご、ごめん。ふ、ふふ2人ののの、じゃ、じゃま、じゃ、し、しししちゃって」
その男子生徒の声を、ココロもアイも久しぶりに聞いた気がした。
どもりがあるということで、彼は滅多に誰かと話そうとしない。
じゃあ何故彼はココロに話しかけたのか。アイは教室の隅に視線を送る。そこには数人の男子がにやにやしながらこちらを伺っていた。アイは思わずそちらをにらみつける。きっとあの男子生徒たちが、面白目的でこの男を送ってきたのだろう。
「あ、あの、あのあの、ああああ、あの」
彼はどもりながらうつむいている。ココロに話しかけているが、ココロの方を向けないようだ。
「ぼ、ぼぼ、僕とと、つ、つつ、付き合って、て、く、くくくださ」
その言葉を発した瞬間、教室の隅で笑い声が起こる。アイはさらに冷たい目線を教室の隅に送った。この男がココロに告白し、そしてふられるのを見て面白がっているのだろう。あまりにも悪趣味である。
告白してきた男は恥ずかしがっているが、本心でないのが丸わかりだ。申し訳なさそうな顔でココロに視線を向けすぐに避ける。
ちなみに告白されたココロはポカンとしながら彼を見上げている。そして教室の隅にいる男子生徒たちに気がついた。ココロは口元に手を当て、首を傾げて悩み出す。
そして何か思いついたようにニコッと笑った。
「うん、オッケー」
そう軽く返す。
アイも、彼も、教室の隅の男子生徒たちも、教室内にいた生徒たちも驚愕する。
ココロは気にせず、誰も座っていない近くのイスを勝手に拝借する。
「まあまあ、とにかく座ろう。カナデくん大きいから、見てると首痛くなっちゃうし」
そしてココロがそう言ったことで、この男の本名が響奏というのをアイは思い出した。
カナデはおろおろとしながらも、ココロに言い返すことができずおとなしくイスに座る。
ココロは歯を見せて朗らかに笑う。
「おい、誰だよ。高瀬さんに告白しろって言った奴」
「はああ? お前だって爆笑しながら勧めたじゃねぇか」
「俺だって高瀬さん狙ってたんだぞ。男に興味ないし、女の子が好きっていうから、あの根暗を送ったんだぞ」
「知るかよ。俺だってなあ」
教室の隅で男たちが喧嘩するのをアイは鼻で笑い、続いてココロの方を見る。
「どういうつもりかしら。ココロ」
「えー、付き合ってって言われたから、いいよーって返しただけだよ」
ココロは悪びれることもなく堂々と言い放つ。それにカナデの方が慌てだした。慌てるといってもオロオロするだけで、何の発言も行動もできていない。
ココロはにぃー、と歯を見せて笑うと、アイとカナデにしか聞き取れない声量で言う。
「だって『お友達』としての『お付き合い』なら、間違ってないもん」
その発言にアイもカナデもぎょっとして返す言葉がなかった。
ココロはカナデの目をしっかりと見る。
「カナデくん。私、高瀬心って言うの。これからよろしく」
「ねえ、ココロ。あなた男には興味ないって言いましたよね」
「うん」
「なら、あなたの話によく出てくる幼なじみはなんですの?」
「カケルくんのこと? カケルくんはそういうんじゃないしなあ。というより」
「というより?」
「カケルくんを男として見たことないや」
「・・・・・・あなた、本当にいろいろとどうかと思うわ」
最初、ココロの友人はボーイッシュの女の子にしようとしたんですが、男性キャラと性格がかぶりそうだったため急遽お嬢様口調の子に変更しました。
こういう感じの子を書いたことがないため、おかしいところがあるかもしれません。
一応言っておきますが
カケル主人公、ココロがヒロインです。




