番外編その9 知らぬが幸せなことは多い
話の内容が基本的に下品です
安倍川は深い息を吐いた。心中に留めておけないほどの思いに、安倍川は瞳を閉じて何度もうなずいた。その手にはスマホが力強く握られている。
「いいものを見させてもらったぜ」
「しみじみ言う話じゃなくね?」
イサジがその言葉にツッコミを入れる。
安倍川がそんなイサジの方を見る。その瞳はとても熱がこもっていた。
「誰が何と言おうと、俺は満足だ。兄貴は陵辱エンドも好きな頭トチ狂ったやつだけど、俺個人は手に汗握るヒーローエンドが好きだからさ」
「その兄貴の情報、まったくもって知りたくなかった」
「とりあえず、見たいものも見れたし撮れたし。満足満足。兄貴もこれで次のネタ決定しただろうし」
安倍川はスマホのファイルを開く。
そこには先ほどの乙女戦士の戦闘シーンが保存されていた。もちろんヴァルゴレッドのポロリや、ヴァルゴブルーの触手による拘束も撮られている。
もしヴァルゴブルーへの触手の辱めがもっと進行していた場合、年齢規制がかかりそうな画像である。文章で言うならば「小説家になろう」でなく「ノクターンノベルズ」でないといけなかったかもしれない。
イサジはそんな安倍川に、いろいろと言いたいことがあったが、それが上手く言葉にならなかったため黙り込んでしまう。
そして傍にいたミギの様子がおかしいことに気づく。
「ミギ、どうしたのさ」
「うう、イサジィ」
痛みを堪えるようなミギの台詞に、イサジがぎょっとする。どこか痛むのかと心配な表情をするイサジに、「う”ぅ」とミギが苦しげに声を漏らした。
「俺、ちょっとトイレ」
「・・・・・・・・・・・・」
イサジはそれを聞いた瞬間、無の表情へと変わった。
この場合、ミギが訴えているのは小でも大でもないだろう。ミギは股間を押さえながら若干前屈みになっている。
安倍川もミギの状態に気づいたのだろう。にやっと笑った。
「おいおい、右田。どっちだ? どっちにキタ? 赤か、青か」
「ミギに変なこと聞かないでくれる?」
「あおぉ」
「ミギも答えるな・・・・・・・・・・・・って、青!?」
イサジはぎょっと驚く。ここまでイサジの表情が大きく変わるのを安倍川は初めて見た。
ミギは必死に首を縦に振る。尋ねた安倍川も意外だったのか目を丸くしていた。
「マジで!? 俺、絶対右田は巨乳好きだと思った」
「いつもはそうなんだけど。なんか、なんか、青の方が俺のチ○コにきた」
興奮混じりでの安倍川の問いにミギは馬鹿正直に答える。
「なん、か・・・・・・キャンキャンやかましかった青が、タコみたいな敵に捕まって泣きそうな怯えきった顔に、背中の方がゾクゾクってきた」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
思わずイサジも安倍川も無言になる。しかし兄姉のエロ同人活動の手伝いをしている安倍川の方がダメージが少なかった。
「右田、トイレ行ってこいよ。あ、でも胸ポロリの時点で何人かトイレに駆け込んでるから、多分男子トイレ悲惨なことになってると思うけど」
「ううう、行ってくる」
プルプルと震えながらミギは安倍川に言われるまま男子トイレの方へと向かった。
ミギがいなくなり、イサジは窓枠に肘を乗せて手を組み額を乗せるとズーンと沈んでいた。そ安倍川は可哀想な者を見る目で、イサジを見ていた。
「あのさ、いくら犬っぽいバカな男でも、性欲は10代男性なんだぞ」
「うっさい。追い打ちかけんな」
いつも飄々しているイサジがここまで沈んでいるのを安倍川は始めて見た。以前カケルが、イサジがトールのことを友人として大事に思っていると言っていたのを思い出した。同じようにイサジにとってミギという友人は、清い目で見てしまうほど大切な存在なんだと理解する。
「ちなみに伊左次はさっきの乙女戦士の姿とか見てくるもんとかねぇの?」
「ない。ありえない」
キッパリと言い切ったイサジに、安倍川はあり得ないと言いたげに驚いた。
「え、何、不能?」
「まさか。性欲は10代男性なんだけど」
「えー、でもおいちゃんが見えるんだからお前だって童貞だろ。それなのにまったく何もないって・・・・・・あ、ごめんもしかして」
「違う。性的対象は女だからな。そこ、絶対勘違いするな」
安倍川がもしやと考えた内容に、イサジが先制で言い切った。姉への土産話になるかもしれないと思った安倍川は内心で舌打ちをする。
イサジは苦々しい顔で校庭を見る。先ほどまで乙女戦士が化け物と戦っていたが、今その面影はまったくない。
「ミギが青色の方に反応したのが、本気でしんどい」
「そこまで言うか? 口が悪くて生意気そうだけど、可愛い顔ではあるだろ」
「・・・・・・知らないってのは、気楽でいいよな」
バカにしたようなイサジの言に安倍川は口端が引きつけるのを感じた。しかし哀愁漂わせるイサジに、荒い言葉をかける気にはならなかった。
安倍川はその後、トイレから帰ってきたカケルにこのことを話してみた。
カケルはなんともいえない顔で、それを聞いていた。
「なあ、安倍川。頼むから、打出にはその話してやるなよ。さすがに可哀想だ」
意味がわからなかったが、カケルの必死な様子に安倍川はうなずくしかなかった。
だが、ヴァルゴレッドの胸ポロリ画像は、カケルがどんなに説得しても安倍川が消去することはなかった。




