第4話 真実はいつもひとつかもしれないが、謎はけっこう残ってしまうものなのです
突如現れた緑の乙女戦士。
カケルもトールも呆然と彼女を見つめていた。
彼女はトールから少しだけ距離をとり、右腕を伸ばして前方180度を水平に右手を動かした。
すると彼女の周囲におよそ直径4mぐらいのサークルが出現する。トールもそのサークル内の中だ。
「精錬なる領域と成せ」
そして彼女がそう口にすると同時に両手をパンッと両手を1度だけ打ち鳴らした。するとサークルの中を薄緑の光が空に向かって輝く。彼女と、そしてトールがその光に包まれた。
光は数秒もかからずに消えていった。
「・・・・・・あれ?」
トールがパチパチとまばたきをしながら違和感に気づく。手のひらを結んで開く。腕を、体を動かす。先ほどまであった痛みも、麻痺も綺麗になくなっていた。
「おい、普通に動くぞ!」
驚きでトールの声が大きくなる。トールは思わず緑の彼女の顔を見る。
彼女は口元を優しげに微笑ませると、トールの頭に手を当てた。ぎこちなさそうになでるその手に、トールは文句も言えずに彼女の顔を見続けた。
呆然となるのはトールだけでない。カケルもだ。
目の前で行われた光景に言葉が出てこない。
(3人目の乙女戦士? おいちゃんが誰か新しく変身させたのか。だとしても、あの仮面は一体。あれも衣装のひとつなのか。いや、それにしてはあの仮面だけが浮いている。だとすると、変身後に仮面をつけたということか? 何のために? ・・・・・・俺たちに顔を知られたくないから?)
脳内でそう導いてもカケルには疑問が残る。乙女戦士になると多少なりとも姿形は変わる。カケルは顔つきが女の子になり、トールに至っては身長までもが低くなっている。余程のことがない限り、見ただけで誰だか判断するのは難しいはずだ。
それにも関わらず、現れた彼女は仮面をつけている。
(俺たちに見られたくない理由がある。ってことなのか)
晴れない疑問にモヤモヤが広がる。
おいちゃんならば答えを知っているだろう。しかしどうせおいちゃんに尋ねたところではぐらかされるのは目に見えていた。その流れが頭に浮かび上がり、カケルは苦い顔をした。
ふと、そこで殺気を感じその場を避ける。同時に触手が先ほどカケルがいた場所を襲ったが、それは空振りに終わった。
カケルは頭を振って目の前の状況に集中する。そこには緑色の彼女にも触手が襲いかかっていた。彼女は触手と向き合う。
「はあっ!!」
彼女は平手を前に突き、触手を迎え撃った。触手の先が彼女の手に触れる前に消滅した。それは1本や2本ではない。彼女が平手を放った前方180度に広がっていた触手が消えていく。彼女はその後も触れる前に触手を倒していく。
カケルは驚きでポカンとするのを必死に止め、走りつつ彼女の攻撃を見つめた。
(触れる前に触手が消える。俺と似た攻撃で見えない壁なのか。いや、違う。あれはおそらく攻撃の威力によるものだ。あれは、近距離の打撃攻撃だ)
乙女戦士の能力はその人の特技によって変わる。元短距離ランナーだったカケルが走ることで攻撃手段を得るように、元野球部ピッチャーだったトールが投球による攻撃を持つようにだ。それ以外での攻撃、例えばカケルが殴ったり蹴ったりしても、エビルをふっ飛ばすことはできたとしてダメージには繋がらない。
だが緑色の乙女戦士は平手を放つことでエビルと戦える。つまり「近距離攻撃」が可能な能力だと推察できる。
カケルはここにココロがいないことを悔しく思った。おそらくココロなら自分よりももっと詳細に状況を把握できるだろうと感じたからだ。
緑の乙女戦士が多くの触手を消していく。しかし消えていく分だけ、また新たに中央の大樹から触手が現れる。その数は減りそうで減らない。
しかし緑の乙女戦士に焦っている様子はない。彼女は向かってくる触手を消しつつ大樹に近づいていく。そして触手の群れの先に大樹を見つけた瞬間、体勢を低くとる。そして勢いよく大樹にぶつかっていく。
彼女の体が大樹とぶつかりあった瞬間、地響きのような音と地面の微弱な揺れが起きた。大樹がメキッとしなった。だが、それでも大樹の根を張る力強さはその攻撃を受け止めた。対して体当たりを仕掛けた緑の乙女戦士は、倒しきれなかったことに口元で悔しさを表した。
だがその攻撃は無意味ではない。
カケルは触手のスピードが弱まったのを感じ取った。
本体に大きなダメージがある今ならば、撃破は可能かもしれないと。
「俺が行きます!!」
カケルの声が聞こえたのか、緑の乙女戦士は大樹から身を離す。しかし後退しようとしたところで触手が彼女を襲う。
それを見てカケルは歯噛みする。乙女による防壁を攻撃として使う場合、がむしゃらに相手に突っ込むため、コントロールや周囲の配慮ができる気がしなかった。つまり第三者が近くにいると巻き添えを食らってしまう可能性があるのだ。だからこそエビル以外は近づかないでほしいのだが、そう上手くはいかないようだ。
せっかくエビルの大元であろう大樹に大ダメージがあっても、時間が経てばそのダメージは回復してしまうかもしれない。それを危惧して早めにケリをつけたいという焦りが生まれてくる。
緑の乙女戦士が退避できずに、触手を迎え撃つ。
ーーそのときだ。
触手が吹き飛ばされたのだ。
それはカケルにも見に覚えのある攻撃だった。
「やられっぱなしでいるわけねぇだろバーーーーーーカ!!!」
触手を吹き飛ばしたのはトールの攻撃によるものだった。
助けられた後、少し離れて避難していたトールだったが、緑の乙女戦士の攻撃によってボールを捕まえていた触手も倒され、ボールがトールのもとへと戻っていた。
意外な後方支援に緑の乙女戦士はすぐに逃げていく。その間もトールは触手に向かって攻撃を続けていく。ダメージのせいで動きの鈍っている触手は、先ほどのようにボールを捕まえることはできないようだ。
今だ。
カケルは大樹に向かって駆けだした。途中向かってくる触手を避けていき、大樹の傍までたどり着こうとする瞬間、右手に力を込めた。
《《乙女による防壁 発動します》》
女性の声が聞こえると同時に、貯まっていた処女充電をすべて使い大樹にぶつかった。
メキメキと音をたて大樹はへこんでいく。
そしてカケルの結界が壊れたと同時に、エビルの体は貫かれたのだった。
消えていくエビルにカケルは深いため息を吐く。そしてすぐさま緑の乙女戦士へと視線を向ける。それはトールも一緒だ。
彼女は一体何者なのか。それを問いただそうと口を開きかける。
『おーぅ、おつかれちゃーん』
しかし突如現れたおいちゃんの登場に、カケルは開きかけた口を閉じる。
そして次の瞬間、おいちゃんと緑の乙女戦士は消えてしまう。おそらくテレポートでも使ったのだろう。
おいてけぼりを食らわされたカケルとトールは、先ほどまで彼女がいた場所を見て突っ立ってしまっていた。
そしてしばらくしておいちゃんがまた現れる。
「おい」
『あ、セツメイは受け入れNOで』
カケルが話しかけようとするも、それにかぶせる形でおいちゃんは断った。
予想通り話すつもりはないらしい。納得はまったくいかないが、ここでゴネてしまったら変身を解かずにどこかへ行ってしまうかもしれない。
カケルは悔しそうに舌打ちをするのであった。
とある家の中。
1人の男がスクワットを行っていた。しかしピタリとそれを止める。
男は両手のひらを自分へと向けた。両手の指がピクピクと動く。
少し離れた場所で戦いが行われていたのだろう。男は建物内にいるにも関わらず、体に伝わる空気でそれを感じ取った。
怒り肩、そして太い手足。坊主頭の厳めしい男はギロリと前をにらむ。
いや、ここにはいないものを思いにらみつけていた。
「シシルシエール・ライ・オイ・チャン」
男はギリッと奥歯を噛みしめる。
「絶対に許してなるものか」
うなり声とともに低い声で言い放つのだった。
実は1番書きたかった話です。
この設定を考えたとき、絶対書いてやろうと思っていました。カケルの胸ポロリと、触手プレイ。
いやあ、スッキリスッキリ。
また数話、番外編に移ります。




