第3話 ヒーローは遅れて現れる
「うわあ・・・・・・」
校舎の窓から外を見てミギが声を漏らす。その顔は真っ赤になっている。
安倍川はスマホを構え続けながら平常心を貫いた。無だ、無になるんだ。そう自分に言い聞かせる。
「うーわー・・・・・・」
そしてイサジはかなりドン引きした様子である。
外に触手を操る化け物が現れた。そいつは表面にボツボツした突起があり液体で濡れていて、ウネウネと動き続けている。
それが今、乙女戦士ヴァルゴブルーことトールを捕まえている。
両手は宿主で頭上にひと纏めにされ、持ち上げられている。両手だけでなく体や足にも触手は巻き付いている。そしてそれが発する液体によって衣装のところどころが溶けて素肌が見えている。幸いに見えたらマズい部分はまだ見えてないが、いろいろとアウトである。
「うっっわ、スッゲ。エッロ」
男子生徒たちがそれを凝視しながら次々と声をあげた。少し前にヴァルゴレッドことカケルの巨乳を目撃した生徒の数人はトイレへと駆け込んでいる。
「すっげえなあ、エロ本いらねぇよ」
「ホントにな。でもよう、捕まったのが青いほうなのがなあ」
「ああ、言いたいことわかる。青い方って胸小せぇし、なんかガキっぽいっていうかさ」
「そうそうそうそう。どうせ見るんならデカい方のエロのが見たい」
「おーい、化け物。どうせなら赤い方捕まえろよ。お願いしまーす!!」
男たちは口々に勝手なことを話し続けている。
顔をしかめるのはイサジだ。
「勝手なこと言ってんじゃねーっての」
「え、あ、俺何か言っちまったか!?」
「ミギにじゃねーよ」
イサジの言葉にミギが反応したが、すぐに否定で返した。
それに安倍川は何も反応しない。眼孔開きめで動画を撮り続ける。
「あんさー、安倍川」
「んだよ」
「楽しい? 盗撮」
「テメェみたいに他人の事情を覗きまくるやつに言われたくねぇっての」
安倍川の言葉にイサジは返す言葉をなくす。そしてため息をついた。
「ドンマイ」
その言葉は誰に向けて発したのか。それを知るのはこの場にはいなかった。
カケルは走りながら計測器を確認する。
ほどほどに処女充電は貯まっている。
「エビルの触手自体は、避けるのは難しくない。でもあの大樹を乙女による防壁一撃で倒すためにも、もっと走りたいしな。うーん、やっぱりすぐに攻撃に移れないのは辛い。ここ最近は打出の攻撃に頼ってる部分もあったし」
そうつぶやいたとき、エビルに捕らわれたトールと瞳が合う。
ところどころの服が溶かされていて、いろいろと際どい状態だ。しかし捕まっているのがトールとわかっているからか、何の感情も表れない。
ただグッと親指を上げた。
「ファイト」
「ふっざけんなああああ、このやろおおおおおおお」
息絶え絶えになりながら、トールは叫んだ。
カケルは知らぬ振りをして走り続ける。
だが、無意識の内に胸の前で拳を握りしめた。
「お前の方がふざけんな」
未だに、セクハラ(事故である)の恨みは消えなかった。
「く、そっ」
トールは触手に動きを封じられながら、苦しげに声を漏らす。
触手が発する液体によって全身がピリピリと痛み、思うように体が動かず力が入らない。ただ触手自体に力はないのか、絞め殺そうとすることはなかった。液体によって衣装はどんどん溶けていく。
「こ、こんな、ッア、ことに」
トールは腕に力を込めようとするが上手くいかない。カケルに助けを求めるがすぐに拒否された。怒らせたことは重々承知しているが、だからといって見捨てんなと声にならない文句をこぼす。
ふとぞっとした感覚にトールは背筋に寒気が走る。その感覚がした足元に視線を移す。視線の先には脚に巻き付いた触手。それはゆっくりと上っていく。肌を伝っていくそれにゾワゾワとした気持ち悪さで、トールの顔が白くなる。
ーーーー『乙女戦士は童貞処女しかあかんやろ。だから乙女戦士のシカクがなくなってめたもるふぉーぜ☆できんくなるんよ』
トールの頭においちゃんの言葉が浮かんだ。
ーーーー『だが乙女戦士はもともとのカラダからつくられている。そこにセーテキに貫通されたとしよう。そのダメージとヒガイはもとのカラダにうけつがれる』
おいちゃんの言葉の先を思い出して、トールは恐怖で小さな悲鳴をあげた。
ーーーー『かはんしんが、女になる』
ーーーー『つまり乙女戦士でなくなるが、チ○コもなくなる』
「いやだあああああああああああああああああ」
涙をこぼしながらトールが叫んだ。
「ふっざけんなあああああああ。いっそ殺せええええええええ」
プライドも何もかなぐり捨てる悲痛の声。
さすがのカケルもこれには反応した。トールのあまりに悲惨な状況は、見て見ぬ振りをするレベルを越えている。進行方向をトールを縛る触手へ変えて、乙女による防壁を使おうと意識する。ここで乙女による防壁使ってしまえば、エビルの核と思われる大樹への攻撃が遅くなる。しかしトールをこのまま見捨ててしまうのは、一応知り合いとして心苦しいものがあった。
カケルが右手に力を込める。
ーーーー寸前のことだった。
トールの傍に、人影が降り立つ。
それは前触れもなく現れた。
カケルは攻撃への意識を止める。
現れたのは、女だった。
緑の髪を纏めて、緑を基調とした服を身につけている。
彼女はトールの脚へと巻き付く触手へと、右の平手を押し出した。トールに当たる寸前で止まった手のひら。しかしその威力は、トールの脚に絡みついていた触手を破裂させる。脚に絡みついた部分だけでなく、体に巻き付いていた触手も破裂し消滅した。
トールの両手を纏めていた触手もダメージを負い、重さに耐えられずトールの体が地面へと落ちていく。しかし地面に落下する前に彼女はトールを抱える。
トールは呆然と抱えられたまま、助けてくれた彼女の顔を見る。
彼女は口端を上げて、微笑んでいるようだった。
何故、確信がもてないのか。
彼女はその目元を仮面で隠していたからだ。
カケルはポカンとしたままつぶやいた。
「緑の、乙女戦士・・・・・・?」




