番外編その8 痲兪魂
ホラーグロゲームの説明が入ります。
ホラー・グロの描写は一切ありませんが、ゲームの概要を説明しています。
そういうのもアウトという方。
「痲兪魂」というゲームがあって「まゆたま」という派生が漫画アニメで人気だよ。ということだけがわかっていただければ十分です。
あ、あとおいちゃんがおしっこ漏らしてます。
とある日の夜のこと。
カケルの部屋にココロがテンション高めに入ってきた。両方の拳を上に伸ばし、小さな体で喜びをめいいっぱい表現している。
ココロがこんなにも嬉しがるのは、トーカの件ともう1つある。
「痲兪魂の新作キターーーーーーーーー」
そのまま小躍りでもしそうなココロに苦笑しつつも、彼女が持ってきた情報はカケルにとっても嬉しいものであった。カケルが両手を広げて上げるとココロがそれに手を当ててパチンと激しく音が鳴る。
『まゆたま?』
聞き慣れない言葉においちゃんが首をひねる。
にこにことしながらココロがおいちゃんを見て説明する。
「痲兪魂っていうのは、毎年この時期に発売されるホラーグロ推理ガールズゲームだよ」
『・・・・・・なんて?』
聞き慣れない言葉においちゃんが眉を寄せる。
「だから毎年この時期に発売されるホラーグロ推理ガールズゲーム」
『なんやねん。そのとりあえずなんでもくっつけました感のあるジャンルは』
「いや、一応ホラーゲームの部類。でもいろいろと要素がぶっこみすぎて、最終的に説明し難い代物になってるんだよな」
ココロの説明においちゃんがつっこむが、カケルがそれに補足で説明する。
「俺らが小5の頃にファーストが出たから、今度新作が出るときはシックスになるんだな」
「そうそう。次はどんな話になるんだろうね」
「俺としてはセカンドのラストが好きなんだよな」
「私としてはやっぱりファーストを越えられるものはないね。フォーもラスト以外は完璧だったんだけどなあ・・・・・・」
「ココロはあのラストダメだよな。俺としてはあのラストだったからこそ中盤からの展開に納得いくから、あの脚本書いた人凄いと思った」
ココロだけでなくカケルもウキウキとしながら、そのゲームの話をする。カケルがこんなにもキラキラとした表情で何かを語るというのは珍しかった。
『そんなおもしろいんか?』
「グロとホラーの耐性がないと無理だな」
おいちゃんの問いにカケルが即答する。
その答えにヘッとおいちゃんが鼻で笑った。
『おいちゃんはいくつかのワールドで乙女戦士のバトル見たんやで。そんなゲームぐらいでこわがってられっかい』
「じゃあ、今からやってみる?」
ココロの誘いに二つ返事でおいちゃんは答えた。
すぐさまカケルとココロが動き出した。ココロがソフトを取りに家に戻っている間に、カケルは物置からテレビとゲーム本体を出していく。そしてセットしている途中でココロがまたカケルの部屋へとやってきた。
「カケルくん、ソフトどうする? 一応全部持ってきた」
「そうだな。おいちゃん初めてだしなあ。ファイブ・・・・・・いや、サードがまだマシか? ホラー要素は強いけど、グロ度は弱いだろ」
「うーん・・・・・・。ラストまで行っちゃえばフォーが1番マシなんだけどね」
「ラストまでやる時間はないだろ」
ソフトを並べてカケルとココロが相談する。
そこにおいちゃんが不服そうな顔でカケルの頭に乗っかった。
『おいおーい、おいちゃんのことナメてんのかい。もんだいないっていうてるやろ』
「心臓弱い人は絶対やっちゃいけないんだぞ」
「これホラー・グロ要素でR指定入ってるんだよ」
『乙女戦士とともにバトルしたおいちゃんにコワイもんなんてあるかい!』
カケルの頭をテシテシ叩くおいちゃんに、カケルもココロもあきらめてソフトを選択するとゲームを起動させた。
数分後。
カケルもココロも懐かしさを覚えながら過去にクリアしたゲームを進めていく。基本はココロがゲーム機を握り、カケルがそれを横で口出しながらサポートする。ホラー部分もグロい部分も、「こんなのあったな」と2人で語り合いながら進めていった。
ふとカケルの後頭部と背中がしっとりと湿っていく。
カケルがその違和感に顔を歪め、そしてハッとする。そして両手で頭の上にいるおいちゃんの体を抱えた。そのおしりからポタポタと液体が落ちていく。
「おまっ、俺の頭の上でおしっこ漏らすなよ!!」
「うわー、スカトロ入りまーす」
カケルが思わず怒鳴る隣で、ココロがポツリとつぶやいた。しかし慌てていたカケルにその言葉は届かない。
おいちゃんはえぐえぐと涙も鼻水も流していて、至る所から液体がこぼれている。おしっこをかけられた怒りも、おいちゃんの様子を見てどんどん萎んでいく。そしてカケルは深いため息をついた。
「そんなに怖かったんなら、途中でギブアップしろよ」
そしておいちゃんを抱えながら立ち上がる。風呂場へと向かうためだ。
カケルは疲れた顔でココロを見下ろした。
「ココロ、今日はここで終了な。新作が出たらよろしく」
「うん。次の日部活がない日に徹夜プレイだね」
ココロがグッと親指を上げながら、カケルに返事をする。ココロはその後ソフトを片づけて向かいの家へと帰って行った。
風呂場の中でカケルはおいちゃんの全身をボディーソープで泡々にしていく。よっぽど怖かったのだろう。まだ体がブルブルと震えている。
『ありえん。ありえんわ。あんなんゲームとして一般ピーポーの目にとまってええもんちゃうわ。どないなっとんねん、このワールド。アタマおかしいんちゃうか』
「だからホラーとグロ要素あるって言っただろ」
『要素あるモンダイこえとるわ! なんやねんアレ! むしろアタマのうえにゲロはかなかっただけマシやとおもえ!!』
おいちゃんは真っ青な顔で体を縮ませた。
『いうとくけど。アレをふつうにプレイしとるおまえらが、ニンゲンとしてどうかとうたがうレベルやぞ。なに、シレーッとやっとんねん』
「まあ、俺も最初は苦手だったから」
カケルは過去を思い起こしながら話していく。
「小5のときにファーストが出てさ。登場人物の女の子がみんな可愛いからって、ココロが嬉々として買ったんだ」
『あー、ソウゾウつくわ』
「でもあのゲームって、ホラーグロ要素の他にも推理とかパズルとかの要素も混じってさ。あれ1人でクリアするのって難しいんだよ。今でも俺たち2人で討論しながらクリアしてるからさ」
カケルはふと遠い目をする。
「初めてココロとプレイしたとき、吐き気とめまいが起きたからさ。あと貧血」
『キョヒ反応おきとるやんけ!』
「でもさ、ココロは可愛い女の子がいればホラーもグロも平気で。ココロがそんなだから俺もなかなかギブアップできなくて。途中失神しかけたりもした」
『アウトやろそれ!』
「ココロが平気なのに俺が逃げるのは、男としてダメだと思っちゃって」
『がんばる方向性がおかしい』
「そしたらさ・・・・・・」
カケルはふっと笑った。
「頭の奥で何かが『プツッ』と切れて」
『それホンマ、ダイジョウブか!?』
「それからホラーもグロも何も感じなくなった」
『いっちゃいけない向こう側こえちゃった!!?』
「それから普通にゲーム楽しんでる。俺、基本的に痲兪魂しかゲームしないから」
『ニンゲンとしてヤバい域にたっしちゃっとるやんけ』
「意外とあのゲーム、めちゃくちゃストーリー作り込んでるからな。映像もイラストも音楽も、全て完璧だぞ。今でもセカンドはやりきったら泣ける自信がある」
「しらんがな」
おいちゃんはもうゲームの話をしたくないとばかりに乱暴に言葉を返す。
カケルはまだ語りたいという気持ちがあったが黙ることにした。両親にはおいちゃんの存在を感じ取れないため、カケルの独り言しか聞こえないからだ。
シャワーでおいちゃんの泡を落としてやると、おいちゃんは体を震わせて水気を飛ばした。その姿に思わずクスリと笑ってしまうカケルであった。
これ以降はカケルが知らないことである。
ホラーゲーム「痲兪魂」はそのホラーとグロ要素の高さから、一時期社会問題になるまでとなった。ゲームを始めて数分で嘔吐を催し、病院に運ばれる人が後を絶たなかった。精神に異常をきたす人も多く、訴訟問題にまで発展したほどだ。
しかしそのゲームのイラスト、キャラクター、BGMや主題歌といった音楽全てが作り込んでおり、ゲームをやらずとも痲兪魂ファンは増加していった。その後、同人界隈に「まゆたま」という登場人物たちのゆるふわ日常漫画が制作された。それは爆発的ヒットとなり、漫画化やアニメ化にまで発展していった。今では「痲兪魂」を未プレイの人でも「まゆたま」は好きという人がほとんどだ。
しかしゲーム会社はそんなの関係ねえと言わんばかりに、毎年神クオリティで新作ゲーム「痲兪魂」を作り出していった。何故1年でここまで作りこめるんだと、毎年ネットで話題になっている。今ではゲームをやらず、特典としてついてくる設定資料集や音楽CDやイラストレーターによる薄い冊子目当てで買う人ばかりである。
ちなみにカケルは「まゆたま」の存在を知らない。サブカルチャーに関してカケルはまったく関心がなかった。友人同士でも陸上の話がほとんどで、ゲームの話をすることが1度もなかったのだ。中学までの友人たちも、カケルが漫画やアニメやゲームに興味がないことを知っていたため、話題に出すことはなかった。
逆にココロは「まゆたま」大好きっ子で、一般コミックスは全て持っており、アニメも放送した全てのシリーズを視聴していた。
そしてこれはカケルだけでなくココロも知らないことである。
ゲーム「痲兪魂」を最後までプレイした人はいないとされている。
海外でファーストをクリアしたという証言がネットであがったことはあるが、その真相は掴めていない。その人はクリア後に失踪した、謎の不審死を遂げた、発狂して殺人に走った、という本当かどうかもわからない噂がネット上で広がっている。
常に限界を目指すかのごとく、どのシリーズもホラーとグロの要素が散りばめられている。気合いを入れて進めようとするも、誰もが途中で止めてしまう。さらにこのゲームの凄いところは、怖いからといってシナリオや映像を飛ばすことができないということである。途中で推理パートが何度もあり、それまでのシナリオや映像をしっかり見ないと解くことはできない。ある意味無理ゲーである。
それでもゲームに挑戦する人は後を絶たない。ゲームをクリアしない限り登場人物の女の子たちの真相を知ることはできないと、ゲーム脚本家が断言しているからである。いくら同人界隈が人気であろうと、原作派生による「まゆたま」の方が人気があったとしても、ゲームのスタッフは皆その内容を口外しない。だから多くのファンが何度もゲームに挑戦し、そして断念している。
カケルとココロのみが、嬉々として「痲兪魂」をクリアしていた。
そしてこの2人のみが、スタッフ以外で「痲兪魂」の真相を知っている。
それはこの世界で、誰1人として知らない事実である。
幼なじみにカッコ悪いとこ見せたくなくて、どこかがプッツンしてしまったカケルの話。ちなみにココロは女の子が可愛ければ、ホラーだろうがグロだろうが関係ありません。
番外編7で安倍川兄が描いてるのは「まゆたま」の百合本である。
ちなみに私も必要以上のホラーグロ無理なので、このゲーム内容に関して詳細な説明をすることはないと思います。




