第7話 contain
「あんれえー?」
ココロは思わず変な声をあげてしまった。
というのも思いの外、ココロの作戦がカケルへと届いてしまったからである。
「高瀬、お前今何したかったわけ?」
「あえて聞きたいんだけど。安倍川くんには私が何がしたかったかわかった?」
「あれだろ、ふしぎなおどりを踊っただろ」
「うん。端から見て、まったく伝わってないってのはわかったよ」
真顔の安倍川に、ココロも真顔でもって見返した。
トーカにいたっては変な物を見る目で、ココロを見ていた。
ココロが何をしたか。それはココロが考えた作戦をジェスチャーでカケルに伝えるということだった。本来ならおいちゃんに言伝を頼むのが、1番スムーズかつ安全策である。しかし悲痛なるケツ穴への刺殺(といっても死んではいない、はずである)により、おいちゃんはただ今夢の世界へと旅立っている。真夏の夜のうんちゃら的な夢を見ていないことを祈るばかりである。
ジェスチャーと言っても、校庭の中心にいるカケルから端の方まで移動したココロまでの距離はそれなりにある。必死にジェスチャーしたところで伝わるものも伝わらないであろう。
ココロが行ったジェスチャー。
その1。左脇に何かを抱え、それを必死に右手で指す。
その2。投げるポーズを取り、すぐに両手で何かを包むような仕草をする。
それだけである。
ココロも自分自身で思っている。何故伝わったと。
「えー・・・・・・、本当にわかったのかな。カケルくん」
ココロは誰にも聞き取れない声量でつぶやいた。
一方、カケルとトールである。
トールはうろん気にカケルを見る。
「お前の言いたいことはたまに全然わかんねぇ。いや、むしろ全然わかんねぇ」
「containの和訳は?」
「わかんねぇ!」
「これ、覚えろって言ったばっかだろ!」
「知るかあああああ。野球ができない今、勉強できないということが俺の自慢じゃあああああ」
「それは自慢っていうんじゃねぇ、馬鹿っていうんだよ」
ケッと悪態をつくトールにカケルが呆れる。
しかしすぐさまカケルが駆けだした。そしてトールが反応するよりも速くカケルがトールを右肩に担いだ。そして右肩にトールを左腕にドリル入りの結界を抱えて走り出す。
側をエビルがドリルで攻撃するも、カケルは難なくそれを避けた。
担がれたトールは訳がわからないというように、カケルの背中をバンバン叩く。
「ってか意味わかんねぇんだけど、合体って何だよ!」
「俺と打出の力を合わせるんだよ」
「力?」
「さっきの英単語。意味は~~を含む。あるいは、~~が入っている。打出はとりあえず文法は無視しろ。単語覚えろ。その方が速い」
「で、それがなんだってんだ!?」
「とりあえずボール投げろ!」
乱暴に言い捨てるカケルはエビルを中心にぐるぐると走り回っている。
トールは理解しきれぬまま、不満そうにボールを投げた。
その瞬間、カケルが右手に力を込める。
《《乙女による防壁 発動します》》
女性の声とともに、トールが投げたボールを結界が囲む。結界に囲まれたボールはエビルに向かって進んでいく。
エビルが両手のドリルを回転させ、ボールをドリルで受け止める。今までと同じようにボールとドリルが合わさって火花が飛び散っていく。
しかしその大きさが段違いだった。
『ぐうっ!』
エビルはうめき声をあげる。足下が威力に押されて地面を滑って後退する。
バリン、と結界が弾けた音とともにボールが弾き返された。
返ってきたボールを受け止め、トールはエビルを見て驚く。
エビルのドリルが明らかに削られていた。
「おい、おい!! 攻撃効いてんぞ!」
「見ればわかる」
カケルは冷静にエビルの様子を伺っている。
逆にエビルは己のドリルを見て焦りだした。
『わ、私のドリルに傷が。何ということを』
エビルは先ほどと一転して、緊張した様子でカケルたちを見ていた。
トールは興奮に声を明るくしながら、カケルに問う。
「おい、テメェこんな作戦考えられるんならさっさと出せよ!」
「俺の作戦じゃない。ココロが教えてくれたんだ」
「ココロ? ああ、テメェの幼なじみのちっちぇーやつな」
「言っておくが今の打出、ココロとそんな身長変わらないからな。とにかくココロがジェスチャーで教えてくれなかったら思いつかなかった」
「ジェスチャー?」
トールは走り続けるカケルに担がれたまま、校庭の端を見る。
数m離れた場所にトーカを含む3人の姿が見える。
「ただでさえちっちぇーのに、あんな離れてて何伝えてんだかわかんのか」
「当たり前だろ」
カケルは真面目な顔で即答した。
ちなみにココロが行ったポーズその1の、左脇に何かを抱えそれを必死に右手で指したのは、今カケルが左腕に抱えている結界に包まれたドリルを指したのだろう。
そしてポーズその2の、投げるポーズを取りすぐに両手で何かを包むような仕草は、トールの武器であるボールを包みこめと言いたかったのだろう。
だが、端から見れば何やってんのか理解不能なのが普通である。
それでもカケルの顔は自信に満ちていた。
「ココロの言いたいこと、伝えたいことを、俺が間違えるわけないだろうが!!」
「ん? 幼なじみの絆とかそういうやつなのか?」
「そんな甘っちょろいものに例えるな。ココロの発信ならそれが俺の理解の範疇を越えたものでない限り、例え1文字だろうがなんだろうが意味を完全把握してみせる。」
堂々と言い切るカケル。その発言にどこか狂気めいた部分を感じ取ったトールであったが、カケルに担がれている今の状況では余計な一言で自分の生命に危険にさらされると危険性があった。だからトールは何も言わなかった。
ただ、気持ち悪ぃなコイツ。と心底思うのだった。
「打出、お前の武器が頼りだ」
「気持ち悪ぃな」
しかし急にカケルからかけられた言葉に、トールの心の声が漏れる。しかし幸いにもカケルは別段気にすることはなかった。タイミング的に、気持ち悪いへのベクトルを勘違いしたようだ。
「俺も『頼り』とか打出に言われたら気持ち悪いって思うだろうけど。でも打出の攻撃なら危険がなく、それにこれ以上なく有効だ」
「まあ、だろうな」
「次はもっと強固な結界を張る。もう少し走らせろ」
「了解。でも適当に投げとくぜ。さっきの攻撃でドリルが削れてるんだ。弱めの攻撃でも今までとは違ぇかもしれねぇだろ」
トールが強気に発言してエビルを見る。そしてすぐに眉間を寄せた。
カケルもエビルを見て異変に気づく。
エビルが片膝をつき、左手のドリルを回転させる。そしてそれを地中深くまで埋め込んでいった。屈んだ体勢のままエビルは動かない。
その様子にカケルは寒気が走る。そして顔を上げたエビルの悪意に満ちた目に、カケルは担いでいたトールを乱暴に放る。そして左腕に抱えた結界もトールに向かって投げ渡す。
瞬間。
地中からドリルが飛び出しカケルを襲った。
走り続けていたためか運良く直撃は免れるも、攻撃の威力に吹っ飛ばされる。体を地に叩きつけられ、何回転か転がっていく。
地中から飛び出たドリルは再度回転して地に戻っていった。
放り落とされたトールはなんとか着地しており、グローブに結界をキャッチしている。結界をその場に置いて、トールはボールをエビルに投げつける。しかし左手が埋まっていて体勢が悪いにも関わらず、右手のドリルでそれを弾く。もう一度投げつけ方向を変えて背後を攻めるも、エビルは左腕を軸に体を回転させ右手でそれを弾き返す。
『もうこれ以上の失態は、私にとっての恥となる。来い、乙女戦士』
エビルの声は落ち着いていて、そして殺意に満ち溢れている。
「大地!」
「大丈夫だ!」
トールの呼びかけにカケルが力強く返し、ゆっくりと立ち上がる。
カケルは測定器を確認した。今回はそこまで乙女による防壁を使っていない。だから処女充電はそれなりに貯まっている。しかしカケルはこのチャージを全て次の攻撃へと使いたかった。エビルの防御が右のドリルしか使われていない今だからこそ、全力でもって攻撃するべきである。
しかしそう簡単に攻撃に移ることはできなかった。
「うおおっ!?」
トールの足下を地中からドリルが突き上げてきた。反射神経はカケルよりも圧倒的に高いトールは危なっかしくも攻撃を避ける。そのとき放置されていたドリルの入った結界がドリルの攻撃による威力で宙に飛ぶも、カケルが走ってキャッチする。無意識に強く結界を張ったのだろう。未だにそれは壊れそうにない。
エビルの左腕による攻撃はスピードを上げていく。埋まっては飛び出てくるスパンが思いの外速い。ドリルはトールを中心に攻撃しており、トールがボールを投げる隙がない。
ゴンゴンゴンゴン
カケルのキャッチした結界の中でドリルが暴れている。
「あ」
カケルはそれを見て言葉を漏らした。
『このまま攻撃し続けていれば、いずれは私の左のドリルが乙女戦士の体を貫く。さていつまで逃げられるかな』
エビルはニヤリとしながら、攻撃をし続けていた。
しかし殺気を感じ、すぐに意識をそちらへ向ける。そこにはカケルがエビルに向かって突っ込んでいく姿があった。
『馬鹿め。この期に及んで私に突進するとは愚か者め』
カケルが右手のドリルを回転させてそれを迎え撃とうとする。その間もトールが隙を見て攻撃しないよう注意し左手のドリルで攻撃し続ける。
右手のドリルがカケルの体を貫こうと突き刺した。
エビルの攻撃は間違いなく当たった。
しかしドリルが当たったのはカケルではなかった。
ドリルの先に、カケルが持っていた結界を叩きつける。ドリルの威力に耐えきれず結界が砕け散る。結界の中にあったのはエビルの股間についていたドリル。エビルはそのドリルにまで攻撃をしてしまった。
『あvなfgmhkれw、cmれk、vykj!!!!!!!』
あまりの痛みにエビルの断末魔が響く。あまりの痛みにエビルの体は硬直し、左腕のドリルも地上に飛び出たまま動きを止めた。
カケルは飛び退いてエビルから距離をとりトールを見る。トールもその視線に気づいてうなずく。
「投球用意」
トールがボールを振りかぶる。
カケルが右腕に力を込める。
「乙女入魂!」
《《乙女による防壁 発動します》》
ボールが結界に包まれる。そしてエビルへと勢いよく突き進んでいく。
エビルは痛みに耐えながら右手のドリルを突き出してその攻撃を防ごうとする。
しかし両手でなんとか耐えれたその威力に、右手のみで耐えられるわけがなかった。結界を壊すことはできず、徐々にドリルの先が崩れていく。
そして右手のドリルがなくなったと同時に、結界に包まれたボールはエビルを貫いたのだった。




