第5話 息子に何の恨みがあるっていうんだ
野生のエビルが現れた。
エビルは股間のドリルを分離させ、宙へと浮かばせた。
さらにそこにココロとトーカが現れた。
カケルの精神に47のダメージ。
「もう・・・・・・死にたい」
カケルは両手で顔を覆って弱音を吐いた。
おいちゃんがカケルのもとへと飛んでいき、その肩にテシッと手を置いた。「いつかいいことあるぜ」と言いたげに。だがカケルにとって全てはこいつから始まったのである。
エビルの姿を見て、2人は身構える。
そしてモザイク処理必須のドリルの飛ぶ姿を見て、2人は悲鳴をあげた。
「キモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイ!!」
トーカが青ざめながら凝視する。ココロも顔色を悪くしながら顔を背けた。さすがのココロも例のドリルは直視できないようだ。
その2人の姿にエビルの目がキラーンと光る。
『さっそく獲物が現れたようだ』
そう言うやいなや飛んでいるドリルが2人に向かって突き進む。そのスピードはエビルが走るよりも速く、すぐに2人に近づいていた。
ドリルが2人に近づく、その寸前。
「ココロッ!!」
カケルが駆け寄って、ドリルを掴んだ。掴んだ手に痛みはない。
「うわああああああああああああああああ」
しかしすぐに掴んだドリルをその場に叩きつけた。触った感触が気持ち悪かった。
離れた場所でエビルがうめき声をあげる。
カケルもドリルを掴んでいた方の手を必死に振る。グニュッとした感触がまだ残っていてカケルの背筋を冷やす。
『き、貴様。そういうのはもうちょっとデリケートに扱え』
「知るか!」
未だに感触が残る手をグーパーしながら、カケルは短く怒りを含ませ返答する。
内股になっているエビルはさらにカケルに言い返そうとするが、トールがその前に攻撃をしかけた。背後からエビルを狙うがそれは相手にバレバレであった。すぐさま体勢を整えボールをドリルで打ち払う。
いったんエビルをトールに任せ、カケルはトーカを鋭い目で見た。
「何でここに来た」
「だ、だってヴァルゴレッドさんがいるって」
「だからって」
文句を続けようとしたがカケルは口を閉ざした。トーカの隣にいるココロが真顔でカケルを見つめていたからだ。
だからといって、ここにいつまでもいていいわけじゃない。自身を落ち着かせようとカケルは深く息を吐いた。
「・・・・・・ここは危ないから逃げた方がいい」
それだけを伝えた。
トーカもさすがに状況をやっと把握した。乙女戦士が現れたとファンクラブ内の通知で知り、無我夢中でここまで来てしまったが、それがいけないことだったとやっと気づいた。
「ご、ごめんなさい」
「いや、わかったのなら」
「やっと見つけたあああああああ」
じわっと瞳が潤むトーカにカケルが声をかけようとするが、外野からの声にかき消される。カケルがそちらを見て、やっぱりと落胆する。
声をかけたのは安倍川だった。安倍川までもがカケルたちのもとへと駆けつけていた。
「お前ら、何やってんだよ。危ないだろうが。人の邪魔してんなよ」
「な、なによ。安倍川には関係ないでしょ!」
「関係大ありだわ。高瀬になんかあったら大地に顔向けできねぇし、打出妹になんかあったら打出妹のファンたちに俺が殺されるわ」
「ってかその打出妹ってのやめてくんない? トールのついでみたいじゃない。あいつがアタシのついでなの」
トーカがそう言った瞬間、離れた場所でトールが「ふざけんなあああああああ」と怒鳴ったが、誰もそっちに気づかなかった。
はっとココロが息を飲む。
「ヴァルゴレッド!」
ココロの強い言葉に、カケルもそれに気づく。
地面に叩きつけたドリルが浮き上がりそうになるのを、カケルは強めに踏みつけた。またエビルが悲痛の声をあげる。
『おうっふううううう。ま、またも粗雑に扱いおって。だ、だが、何だ。ひどくされているはずなのに、高ぶるこの感情は。い、イイッ!!』
エビルがおかしな方向に目覚め始めているのを、カケルは気づかないふりをした。
キッ、と安倍川を見る。
「2人を連れて早く逃げろ」
「お、おお。わかった」
乙女戦士状態であるためカケルとは気づかず、安倍川は慌てて頷いて2人の腕を掴んでその場から逃げていく。
カケルがほっとした瞬間、踏んでいたドリルがヌルヌルと動き出す。そしてカケルが気づいたときには、踏んでいたはずのドリルがいなくなっていた。
慌てたカケルが足をずらせば、その地面には穴が開いている。カケルは周囲を見回しながらドリルを探す。しかしドリルが現れる気配はない。まさかココロたちのところへ行ったのではないか、と慌ててココロたちが逃げた方向を見たとき。
カケルの足の間の地面が盛り上がる。
『レッド!!!』
ドリルが地中から現れるのと、おいちゃんが叫んだのは同時だった。
カケルが気づいたときには、おいちゃんによってテレポートされていた。そしてカケルの目に先ほどいた場所から、ドリルが勢いよく地中に飛び出るのが見えた。
「サンキュー、おいちゃん」
『カケル、いっとくわ。トールもちゃんときいてな』
カケルが飛ばされたのはトールとそう離れていない場所。先ほどおいちゃんがレッドと叫んだのは、安倍川たちが近くにいた故の配慮だったらしい。おいちゃんはカケルと
トールにしか聞こえない程度の声量で話す。その声は深刻だった。
『乙女戦士のジョータイで、えっと、セーテキに貫通されたらな』
「貫通って言うなよ。本当に大丈夫なのか。ガイドライン的に大丈夫なのか」
『「性的感情を刺激する程度が低い描写しかされてない」ばあいならモンダイなりにくいって書いてあったからたぶんダイジョーブや。いろんなイミで、このエビルのていどは低い』
「・・・・・・で続きは?」
『せやった。でな、乙女戦士は童貞処女しかあかんやろ。だから乙女戦士のシカクがなくなってめたもるふぉーぜ☆できんくなるんよ』
おいちゃんの言葉にカケルもトールも同時においちゃんを見た。
乙女戦士になったら死ぬかエビルを倒しきるまでずっと乙女戦士のままだと思っていた。だがその運命から逃れられる方法が存在する。それに驚きがあった。
だが実行できるかと言われたら、2人とも速攻でノーを出すだろう。
だがおいちゃんはまだ話を続ける。
『だが乙女戦士はもともとのカラダからつくられている。そこにセーテキに貫通されたとしよう。そのダメージとヒガイはもとのカラダにうけつがれる』
「・・・・・・・・・・・・つまり?」
カケルは嫌な予感を持ちつつ、おいちゃんに尋ねる。
おいちゃんはキリッと真剣な目になった。
『かはんしんが、女になる』
カケルは絶句した。トールは恐ろしいことを言われたのはわかるが、理解できていない。顔色を悪くしながらカケルを見た。カケルは口に出したくないのと、先ほど感じていた吐き気がぶり返し、口元を押さえた。
おいちゃんがまたキリッとなる。
『つまり乙女戦士でなくなるが、チ○コもなくなる』
今度こそトールが黙り込んでしまった。
トールは深く息を吐き、そして吸い込んだ。
「乙女入魂!」
そしておいちゃんの顔面にボールを叩き込んだ。
うめき声と共においちゃんが吹っ飛んだ。カケルはトールの行為を支持するように深くうなずくだけだった。
戻ってきたボールを強く握りながら、トールは怒りに泣いていた。
「テ、テメェ、ただでさえ俺の大切な息子がうんともすんとも言わないのに、さらに俺から息子を奪おうってのかよ。どんだけ俺の息子をいじめれば気が済むんだよ。テメェは鬼か、悪魔か、卑劣の境地に達した大悪党か!」
うおおおおおおおお、とトールはひたすら嘆く。
その怒りと涙に、カケルは少しだけ落ち着いた。
『私のことを忘れているようだな』
エビルの声が聞こえ、カケルはトールを抱えて走り出す。カケルの背後でエビルが突撃したのを感じた。すぐさまその場を離れる。
エビルは両手のドリルを回転させて、カケルたちをにらみつけている。
「打出、効かなくてもいいからとにかくボール投げろ。それだけでもエビルの意識がそれる」
「お、おお」
打出は戸惑いながら返事をするが、ふとカケルの背後を見て悲鳴をあげる。何事かと走りながら振り返れば、宙に浮く第3のドリルがこっちに向かって飛んできていた。
おいちゃんの話を聞いた後では、ただの恐怖のモザイク処理である。
カケルは走るスピードをあげた。トールも抱えられたままボールをそのドリルに向けて投げつけた。見事ボールはドリルに直撃し、ふらふらと地に落ちていく。エビルも股間を押さえてうずくまっている。
カケルはその隙にトールを降ろし、おいちゃんを呼ぶ。顔がボロボロになっているおいちゃんが不満そうに現れる。
「打出、俺はとにかく走って処女充電を貯めていくしかない。だからお前は適度にエビルの気を引いてほしい。やばそうになったらおいちゃんのテレポートを使って逃げろ」
そう告げてカケルは走り出した。
告げた内容は、先ほど言った内容とほぼ変わらない。しかし現状ではそれ以外に方法が見つからなかった。
カケルたちから離れた場所で、ココロはエビルとの戦闘を見ながらぶつぶつ声に出す。
「エビルそのものにスピードはそこまでないっぽいなあ。レッドはもちろん、ブルーですら両手のドリルから逃げようと思えば逃げられそうだし。でも攻撃に対する守りは強固で頑丈。これに関しては乙女戦士に近距離攻撃がないのも問題だよね。で、面倒なのがあの空を飛ぶドリル。あれ小さいからエビルより速く動けるんだろうな。さっきからちょろまか飛び回るから、乙女戦士たちもそっちに気をとられるし。せめてエビルの両手のドリルが壊せるほどの攻撃力があったらなあ。ブルーの攻撃はすぐ使えるけど打ち返される。レッドは走る分だけ強くなるけど時間がかかる上、攻撃となるとレッドの身の危険性が高い。両方の長所を上手く使うことができたら」
「おーい、高瀬」
見かねた安倍川がココロに話しかける。はっとしたココロが安倍川を見た。
「ご、ごめんね。ちょっと集中しちゃって」
「いや、それはいいんだけど」
「ねえ、アンタ」
トーカがまっすぐココロを見る。いつもの強気な姿勢はなく、憧れの人の邪魔をしてしまったことに心を痛めているようだ。
「ヴァルゴレッドさんはアンタの名前を呼んだわ」
ココロはトーカの言葉にギクッとなる。
マズい、と思った。
「アンタはいったい、何を知ってるの?」
言い逃れるのは骨が折れそうだ。




