第3話 馬鹿とドリル
前もっていいますが
この作品にはキーワードに下ネタ入ってます。
「ヴォッホ、ゴホッ、ゴホッ、ウェア”、オエッ、ガハッ」
「おい、大地。生きてるか」
気管に水が入ったカケルは全力でむせた。胸に手を当てて、うつむく。うつむいた際に頭に乗っていたおいちゃんが転がり落ちる。グラスに当たる直前で安倍川がグラスをどかしたため、机に頭が直撃する。
心配する安倍川に何も返せず、片手で制した。しかし言葉を返せるほど回復はしていない。
「えーと・・・・・・、どうしても知りたい?」
「当たり前でしょ。私はあの方のファンであり、ファンクラブの創始者なのよ。会員番号No1よ。なのにヴァルゴレッドさんのことを全然わかってないなんて馬鹿みたいじゃない」
「それに関してはトーカちゃんの行動力パネェなって心底思ったよ」
一方、ココロはトーカに詰め寄られていた。ココロもチラチラとカケルたちのいる方向に視線を向けて、返答に困っている。
全てしゃべってしまってもココロとしては構わないのだが、さすがにカケルが不憫だということと、話したとしてトーカがそれを信じるかという不安があった。だがココロが1番心配しているのは、トーカが今後一切ココロと関わりがなくなるということである。
ココロは頭を回転させる。いかにしてこの場を切り抜けるか。
しかしココロが解答を出す前に、トーカが動いた。
身を乗り出しココロの手を握る。
「アタシ、こんなに真剣になるの初めてなのよ。今までは周りが勧めるがままにやってただけで、自分から行動したことなんてなかったのよ。だから、どうすればいいかなんてわかんないの。自分でもはちゃめちゃだってわかってるわよ。でも、勝手に動いちゃうんだからしょうがないじゃない」
瞳を潤ませてココロを見るトーカ。ココロの心臓が何かに貫かれ、思わず「ヴッ」と声が漏れた。ココロだけでなく、店内のほとんどの者がトーカの表情に見とれていた。普段馬鹿にしているはずのトールも、その顔に心がぐらつきつつあった。
対してカケルはトーカに見とれることはなく、ココロが余計なことを口走るのではないかとひたすら心配していた。トーカに憧れ続けていたココロなら、自分を売る可能性がある。むしろその可能性は高いとすら考えている。
「トーカちゃん」
ココロが口を開く。
「乙女戦士は、トーカちゃんの側に(現在進行形で)見守ってくれてるよ」
際どいボールを投げたココロに、カケルは反応しないよう無の境地へと入ろうとしていた。とにかく余計な反応をすべきではないと判断した。
「そんな『例え姿はなくとも、あなたのことを見守っているからね』みたいな良い話っぽいのはいらないのよ! ヴァルゴレッドさんが何者で、普段はどうしているのか知りたいの!」
ココロの発言はそう間違っているわけではないのだが(実際、カケルとトールが側にいるので)、トーカにはそう判断することはできない。トーカは強い口調でココロに言い放つ。
ココロがここで「そんなの私も知らないよ」と言ってしまえば済む話ではあるが、それをしてしまうとトーカの関係が途絶える可能性があるため決して口にすることはない。
「大体ねぇ!!」
トーカは続けて叫ぶ。
「乙女戦士ってひとくくりにしないで! アタシはヴァルゴレッドさんだけでいいのよ! ブルーなんてどうだっていいんだから!」
「んだとこらあああああああああああ!!!!」
トールが立ち上がって叫んだ。それに続くようにトーカも立ち上がった。
「何でトールが出てくんのよ。邪魔だから口はさまないでよ」
「テメェがヴァルゴレッドなんぞに熱中してるからだろうが! ブルーがどうでもいいとかぬかしてんじゃねぇよ!」
「どうでもいいものはどうでもいいんだからしょうがないでしょ。何でトールにそんなこと言われなきゃいけないのよ」
呆れたトーカに、トールの怒りがピキッと音を鳴らす。
カケルは嫌な予感がした。なぜならトールが馬鹿だと知っているからだ。
トールが親指を自分の胸に当てた。
「俺がヴァルゴブルーだからだよ馬鹿がああああああああああ」
店内がシーンとなる。
カケルが声にならない叫びをあげた。
おいちゃんが愕然とする。
ココロが瞠目して固まった。
トールはドヤァアア、という顔で鼻で笑う。
「馬鹿じゃないの」
そう返したのはトーカである。その表情はとても冷め切っていた。先ほどまで怒りで熱くなっていたのに、今はその温度も低い。
「トール、馬鹿だ馬鹿だと思ってたけどここまで馬鹿だといっそ哀れよ」
「ああ?」
「ちょっと待って、話しかけないで。知り合いだと思われたくない」
「どういう意味だよ!」
かなりドン引きしているトーカにトールは苛立ちが増していく。
だがドン引きしているのはトーカだけではなかった。
「打出、お前、それはねぇよ。引くわー。ちょっと・・・・・・ねぇよ」
安倍川も打出にかなり引いていた。
安倍川の言葉を聞いたカケルは突如出てきた吐き気に口元を押さえる。そして別の手でノートをしまい、財布を取りだした。
「安倍川、ごめん。俺・・・・・・、気持ち悪いから、帰る」
「待って。待って大地。俺も帰る」
「いや、安倍川、来たばっかだし。俺のことは、気にしなくて、いいから」
「いやいやいや、俺を打出と2人にしないで。大地、お願いだからあああ」
少し涙声になりながら、安倍川は必死でカケルを引き留める。だがそれでもカケルは青ざめた顔でそれを断る。しかし逃げようとするカケルに、トールが口を開く。
「おい、テメェ何逃げようとしてんだよ。テメェも同罪だろうが」
「打出、俺を巻き込むな。お前の神経が理解できない。ちょっと待って。本気で吐きそう」
軽くめまいもしてきたカケルは急いで席を立つ。伝票を持ちながら、ふらふらと去っていった。
安倍川がカケルを呼ぶ声がしたが、気にとめる余裕すらカケルにはなかった。
カフェから少し離れた建物の影になる場所で、カケルは両膝に手を当ててうなだれた。その瞳はとても虚ろであった。
「あんだけ馬鹿だったら人生楽しいんだろうな」
出した声はとても乾いたものであった。
置いてきてしまった数名を思い出しながら、カケルは疲れた声をあげた。
「打出、お前・・・・・・、そんな堂々と言っていいことなのか。お前にとって女になって敵と戦うことは恥ずかしくないのか。いや、平和を守ることに恥ずべきことなんてないのか? ・・・・・・いやいやいやいやいや、違うだろ。落ち着け俺。ちょっといろんな意味で概念が崩れる」
吐き気が止まらない。胸を押さえながら、うーうー唸る。
考えれば考えるほどカケルの脳内にトールのアホ面が浮かび、壁に拳を叩きつけた。
『カーケールー』
「来やがったな諸悪の幕開けが」
『何いうてんの?』
突如現れたおいちゃんをカケルがギロリと見るが、呆れ顔で返された。
『エビル、でたでー。トールはまだ口論しとるからカケルからコンタクトとることにしたわー』
「ああ、そうかよ」
どうにでもなれ、と投げやりな顔でカケルがおいちゃんを見た。人目に付きにくい建物の影にいたため、その場で乙女戦士へと変身した。すぐさまおいちゃんのテレポートによって飛ばされる。
飛んだ先はカケルが通っていた中学校の校庭だった。部活動をしていたであろう生徒たちが逃げていく姿が見える。
その校庭の真ん中に、エビルはいた。
『ドリリリリリリリリリリリリリ』
そのエビルは人型で、体は金属のような素材で覆われている。両手にはドリルが装着されており、全体的にどこか刺々しい。エビルはカケルの姿を見つけるなり、右手のドリルをカケルに向けた。
『来たな、乙女戦士。私をこれまでのエビル共と同じだと思うな。貴様はここで潰える定めとなるのだ』
そして流暢な日本語で宣戦布告をする。おいちゃんよりも日本語が上手であった。
思わずカケルは感心してしまう。今まで意志疎通ができるエビルがいなかったからである。
「しゃべれるのか?」
『当然だ。私は並のエビルとは頭の作りが違う』
フッ、と不敵に笑うエビル。カケルはおいちゃんを見た。目があったおいちゃんは了承したとばかりに両手を握る。そしてトールを呼ぶためにテレポートをして消えていった。
カケルはエビルと対峙する。
「なあ、話せるならいくつか聞きたい」
『何だ?』
「お前らエビルはどこから現れる? いや、それよりも何でこの世界に現れるようになった?」
カケルの質問にエビルが固まる。そしてしばらくして『ドリリリリリ』と声をあげた。おそらく笑っているのだろう。
『何を聞くかと思えば、そんなものお前の側にいる精霊にでも聞けば良いではないか。何故、私に聞こうとする』
「おいちゃんには話そらされるんでね。追求すると姿消すしな」
『そうか。不憫だな。勝手に乙女戦士にさせられて、その詳細は話されないとはな』
「だからここでお前が話してくれると気持ちが楽なんだが」
カケルの言葉にエビルが笑う。疑問に答える気はなさそうだ。
だがカケルとしては望んでいる解答が出ることは一切期待していなかった。むしろカケルがここで話し、人々が逃げる時間とトールが来るまでの時間を稼ぐことが目的であった。もちろん前から疑問に思っていたことに答えが出るのならそれに越したことはない。
おいちゃんはカケルたちにエビルとの戦闘を求める。しかしその詳細は口にはしない。倒したその先に何があるのか、まったくわからない。おいちゃんに聞いても、はぐらかされ逃げられる。テレポートがある限り捕まえることもできず、カケルは問うのを半ば諦めていた。
エビルは両手のドリルを回転させる。
『おしゃべりはもういいだろう。貴様の思い通り、人々は大抵避難できているのだからな』
その発言にカケルは顔をしかめる。カケルの思惑はエビルには筒抜けだったようだ。
『だが笑わせてくれたお礼に、私の目的を話そうではないか』
「目的?」
『そもそもエビルの使命は人間共を傷つけることだ。それは別に死というわけではない。まあ下等なエビルには殺すという方法しか見出せないがな』
初めて聞く内容にカケルは目を丸くする。
今まで殺意の強いエビルにしか対峙しなかったため、エビルとは人間を殺すものだと思っていた。だが言われてみれば、駅前で倒した石膏のようなエビルはそれに近いものがあった。飛び散った石片がイサジの背中に直撃しても、怪我は深いものではなかった。確かに当たり所が悪ければ死ぬような攻撃だったが、威力はそう高くなかったのかもしれない。
『だからそれを邪魔する乙女戦士を私は倒さなければならない。貴様らを倒し終えたら私は私の目的を果たす』
そう言ってエビルは『ドリリリリリリ』と声をあげる。
すると股間の部分が開いた。
そして現れたのは両手の素材とは違い、柔らかく殺傷能力のなさそうなドリルであった。
ブルルルルルルと震えるそれは、映像だったら間違いなくモザイク処理されていただろう。
カケルの表情が強ばった。
『私が傷つける行為。それはこの両手のドリルによる肉体の貫通のみではない。無垢な少年少女の上も下も前も後ろも、貫通させることだあああああああ』
カケルはその場で両膝と両手を地面につけた。
「馬鹿の次は変態かよおおおおおおおおおおおお」
そして、ただひたすらに、カケルは嘆いた。




