第4話 乙女による防壁
『ムシ、スル、ナアアアアアアアアアアアアアアアア。コロス、コロスコロスコロスコロスコロスウウアアアアアアア』
魔物もといエビルの叫びと共に、触手たちが襲いかかる。
カケルはココロをしっかりと抱えたまま、触手たちの攻撃を避ける。前後左右に走り触手を翻弄していく。そして何本もの触手が絡み合い、結び目のように固まった。
『おおお。うまいことやるやん、カケル』
おいちゃんは興奮しながら両手をあげる。
戦い方のわからないカケルはただ触手の攻撃を避け続けただけだが、それが功を奏したようだ。
「今のはたまたま上手くいっただけだろ。で、どうやってあいつと戦えばいいんだ?」
『しらんよ。バトルスタイルはヒトそれぞれやし』
「おい、他人任せにしすぎだろ!!」
『しゃーないやん。いうたってヒトそれぞれトクギがあるんやろうし』
「特技って言ったって、俺武術とか格闘技の経験ないぞ!?」
カケルは触手の動きを、スピードに緩急をつけて避けていく。
ただ逃げるだけでは動きを悟られると思い、走っては止まり方向転換をしてまた走る。だが逃げるだけで戦う手段がカケルにはわからなかった。
(殴ればいいのか。蹴り飛ばせばいいのか。いや、あまりにもピンとこない。だって俺には何もない。何も持ってないだろ)
次第に不安が心中に色濃く広がっていく。
自分が誇れるもの。カケルにはそれがなかった。
表情が沈んでいくカケルにココロがおずおずと話しかける。
「あの、カケルくん」
「ココロ。悪いんだけど、その・・・・・・胸の話はまた後で」
「気づいてないの?」
「何が?」
「今のカケルくん、【走れてる】んだよ」
ココロのその言葉にカケルは目を見開き、ココロと目を合わせる。
二人の時が一瞬だけ止まった。走る度に感じた痛み。今はそれがまったくない。
過去のカケルにとって唯一誇れていたもの。そして失ったもの。その脚が問題なく動いている。走れている。
(俺が持つ特技。それが武器だというのならーー)
真剣な表情に戻ったカケルは、まっすぐエビルを見る。固まっていない触手たちがカケルたちめがけて突撃する。カケルはゆっくり息を吐き、ココロはカケルの首に腕を回す。カケルが息を吸い、呼吸を止めた。
(俺にはやっぱり【走る】ことしかない)
《《乙女による防壁 発動します》》
どこからか女性の声が聞こえた。するとカケルの周囲を白い結界が覆う。
カケルの脚が、地面を蹴った。
その走りは「瞬足」。それに尽きる。
カケルの全身を守るように白い結界が張られる。
触手たちは結界により弾き飛ばされる。さらにカケルはエビルめがけて突き進んだ。
「あああああああああああああ!!」
結界はエビルをも貫き吹き飛ばす。
エビルは悲鳴をあげる暇もなく、粉々となり光のようにキラキラ輝き消滅した。
カケルは脚を止め、振り向いた。そこにエビルも触手もない。
「やった・・・・・・のか」
カケルは力なくつぶやいた。そんなカケルのもとにギュイイイインとおいちゃんが飛んでくる。その表情はとても晴れやかだった。カケルは息を整えながら呆然と前を見つめている。
『ようやったカケル。なんかめっちゃ力技やったけど、まあよし。はつバトルにしちゃあ、がんばった』
「・・・・・・変身するとこんな速く走れるのか?」
『ん? せやなあ、めたもるふぉーぜ☆すればヒトよりステータスあがるなあ。でもいまの走りはカケルの特殊ステータスやろ。カケルだからあんな走りできたんよ』
「俺だから、か」
カケルは小さくつぶやくが、その声質はとても明るかった。ココロはそのつぶやきに気づき、顔がほころびる。
「カケルくんは、やっぱり速いなあ」
「今ならボ○トにも勝てそうだな」
カケルがそんな風に冗談混じりで話すのも久しぶりだった。子供のように笑うのも久しぶりだった。膝を壊してカケルが変わるまでは、普通のことだったのに。
ココロは嬉しさで胸が潰れそうになる。泣きたくなるのを必死に堪えた。
すると遠く離れたところから、人々の声が聞こえる。徐々にその声は近くなる。
「爆発音がしたのはこっちかー!?」
「爆風もひどかったぞー!」
「誰も怪我してないかー!?」
カケルは慌ててこの場所から逃げようとする。状況説明もそうだが、カケルはできるだけこの姿を見られたくなかった。この場を去ろうと思った瞬間、「あっ」とココロが声をあげる。
「どうしたココロ。どこか痛むのか?」
不安になったカケルがココロに声をかける。対してココロはあわわと焦っていた。
「・・・・・・学校、始まっちゃう」
一瞬で顔を青ざめたカケルは、ココロを抱えて瞬足で駆け出した。たった1歩で十数mもの移動が可能となった。だが数秒で、カケルの走りは止まる。
なぜ止まってしまったのか。カケルは思わず首をかしげる。しかし1秒にも満たないうちに、また走り出せた。しかしまた数秒で動きが止まってしまう。
「どういうことだ。数秒しか走れない?」
『もしかして短距離のみのマッハとちゃう?』
どうやらおいちゃんはカケルの疑問による答えがわかったらしい。ちなみにおいちゃんはカケルに置いていかれないよう、カケルのポニーテールにしがみついている。
おいちゃんの言葉を聞いてカケルはなんとなくそれを理解した。
「ちょっと待て。つまり一度に数秒間しか走れないってことか!? ハンデ多すぎるだろ!!」
『そんなんおいちゃんに文句いうたってしゃーないやん』
そんな2人の口論にココロがおろおろしながら口を出す。
「だ、大丈夫だよ2人とも。その数秒でも移動距離が桁違いだから。学校にも間に合うよ。・・・・・・多分」
ココロがそう言っても2人の言い争いは止まらなかった。
だから口論に未参加のココロにだけ聞こえた。
《処女充電Lv1 突破いたしました》
「ふえ?」
カケルの右腕に付けられた時計から女性の声がしたことに。
まだ続きます




