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番外編その6 とあるカフェにて

カケルとココロの家の傍にあるカフェにて。

 カフェ「ゴローズコーヒー」。

 そこに2人の女性が席に座って、コーヒーを飲んでいた。


「それでカケルったら、やっと高校での友達連れてきたってわけ」

「へぇ、よかったじゃない。ココロなんて本当に友達できたのかわかんないのよ」

「心配いらないって。うちの馬鹿息子と違って、ココロちゃんはコノハに似て明るく可愛いんだから。学校だってここから数駅離れてるし、ここまで気軽に呼べないだろう」

「あら、そんなこと言ったらカケルくんだってかっこいいじゃない。昔のカンナちゃんそっくりよ」


 会話の内容でもわかる通り、2人はそれぞれカケルとココロの母親である。

 カケルの母であるカンナと、ココロの母親であるコノハは高校時代からの付き合いである。そしてここにはもう1人、2人と高校時代からの腐れ縁がいた。

 その腐れ縁に向けてカンナは手を上げる。


「ゴロー。コーヒーお代わり」

「この店では店長って呼ぶように何度も言っているんだが。いつになったら理解してくれるんだ」

「うるさいねぇ。そんなんだから奥さんに逃げられちまうんだろ」

「関係ない上に、私の傷を抉るな」


 このカフェの店長であるゴローが、カンナに呆れながらも新しいコーヒーを作り始めた。毎度毎度来店する度に交わされるやりとりであり、一向に改善されないカンナにもうゴローは半ば諦めていた。しかしこのまま引き下がるのもカンナに完敗された気がするため、いつも同じ問答を続けている。

 ゴローは新しいコーヒーをカンナに運ぶ。


「何でカンナさんはこんなにも理解が足りないんだ。息子のカケルくんなんて友達に勉強教えるくらい頭いいというのに」

「何言ってんだい。ココロちゃんの方が頭いいっての」


 コーヒーを受け取りながら、カンナはケッと悪態をつく。

 ゴローははいはいと軽くそれを受け流した。くそう、とカンナはゴローをにらみつつコーヒーに口をつけた。一口それを飲むと、溜飲が少しばかり下がった。


「相変わらずコーヒーだけは一級品だねえ」

「だけは余計だ」

「何か間違っているって言うのかい? コーヒーしか取り柄がない男だろうがお前は」


 カンナの威圧的な言葉に、ゴローは返す言葉もない。

 しかしカンナは間髪入れずに、言葉を重ねた。


「8年前、急にイタリアから日本に戻ったかと思えば急にコーヒー店開くようになるわ。しかもコーヒーしか出さないわ。軽食も何もないわ。場所が場所だったら繁盛するかもしれないけどね、こんな気軽に入れそうなカフェでコーヒーしか出さないって馬鹿かお前は」

「私のコーヒーに不満があるのか」

「ないね。まったくないね。ただコーヒーしかないんだよ。あんたからコーヒーをとったら裏の世界の人にしか見えないね」




 カンナが言った言葉はゴローの見た目である。

 店長であるゴローの見た目は甘く言っても強面、普通に言ってヤーさん。かつては視線だけで人が殺せるという噂まであったほどだ。

 ちなみにゴローの気にしている点でもある。

 ゴローは口端を引きつらせた。

 そんな2人の会話にふふふ、と口元に手を当ててコノハが笑う。


「ゴローちゃんのコーヒーは絶品よね。ゴローちゃんの顔が怖くなかったら大繁盛間違いなしだったわ」

「本当だよ。扉開けたらこの顔だよ。はっきり言って武器商人と思っちまうよ。イタリアから帰ってきたってのも、イタリアマフィアが日本にまで仕事場を広げたと勘違いされてもおかしくないからねえ」

「それを本人の前で堂々と言えるあなたたちに、怒りを通り越して尊敬を覚えるな」


 ゴローはこめかみを指で押さえた。

 ちなみに2人以外に客はいない。客がいないからこそ、昔なじみの3人トークができるのである。客が来ればゴローは奥に引っ込むし、カンナもコノハも2人だけで話をする。今回は人が来ていないため、ゴローもホールに現れているのだ。






「そういえば前にカケルくんとココロちゃんが来てたよ。それと中学の友達かな。最初は険悪・・・・・・まではいかずとも変な空気だったが、途中からはすっかり打ち解けたようだ」


 ふとゴローは以前、カケルとココロがシュンヤと再会した日のことを思い出した。

 カンナもそのことは知っていて、頷いている。


「シュンヤくんのことだね。この前の子といい、やっとカケルも冷静になったみたいだよ」

「心配してたもんね、カケルくんのこと」

「心配なんていつもだよ。ここ最近は部屋で1人で怒鳴ることも多いし。カケルは友人と電話してたって言い訳してるけど、どうなんかねえ」

「カケルくんも一時期荒れてたからな。まだあれから1年も経ってないのか」

「うちの息子は陸上一筋だったからねえ。ショックは大きかったと思うよ。吹っ切れた後も、人生投げやり状態だったし」


 息子のことを思いだしため息をつくカンナ。

 ちなみに怒鳴るのはおいちゃんに対してであり、処女でないカンナにはおいちゃんの姿は見えないし声も聞こえないのである。

 疲れた表情をするカンナに、コノハもつられて眉を下げる。


「ごめんねカンナちゃん。元々はうちの娘が、」







「ココロちゃんはまったく悪くないよ」






 コノハの言葉を遮ってカンナは力強く言った。先ほどの疲れた表情を一変し、コノハを真剣に見つめる。


「あれはカケルの問題だ。ココロちゃんには何の落ち度もない。そこは間違っちゃいけないよコノハ」

「・・・・・・ありがとね、カンナちゃん」


 カンナの言葉に肯定も否定もせず、コノハはお礼の言葉を返した。

 その場が静かになる。暗い空気になってしまい、3人が気まずい表情でいた。









「あの、ちょっといいですか」


 そこに声がかかる。優しげなテノールの声だ。


「試しにスコーン作ってみたんですが、できれば試食していただけますか」


 皿に乗せられたスコーンを持って、この店の従業員である小塩が爽やかな笑顔で現れる。

 そしてカンナとコノハがいる席にそれを置いた。焼きたてのそれは見ているだけでも美味しそうだ。カンナもコノハも嬉しそうに声を上げる。

 喜ぶ2人に、ゴローが小塩を見た。視線で感謝すると、小塩は微笑みながらそれを受け止める。



「ゴロー、あんた本当に小塩くんに感謝するんだよ。小塩くんいなかったら潰れてるよここ」

「そんなことないですよ。店長の腕があってこそです。僕は店長のところにお邪魔しているようなものですから」

「でもモーニングとか軽食は小塩くんが用意するんでしょ。それに接客だって小塩くんが全部やってるじゃない」

「軽食と言っても形だけですよ。本来ならお店にお出しするレベルではないですから」


 口々に誉める2人に、小塩はへりくだった態度でそれに答える。

 カンナとコノハが言ったように、この店の接客は全て小塩が行っている。物腰柔らかな接客と、小塩がこの店で働くようになってから少しだけ増えたメニュー。ゴローにはできなかった部分を埋めていた。なんとか潰れずにいるのは小塩の存在が半分を占めていると言っても過言ではない。それともう半分は単純にゴローのコーヒーの味が認められてのことだ。



「小塩くんみたいな息子がいてくれたらよかったわ」

「その通りだ。小塩くん、ゴローのやつがチャカ持って脅すようなことがあったら、すぐに知らせるんだよ。絶対になんとかするから」

「カンナ。君は私を何だと思っているんだ」


 カンナの言葉にゴローが冷たくそう言い放つ。

 小塩は声を出さずに笑って、そしてカンナが飲み干したカップを片づける。ゴローがお代わりを持ってから話し始めたため、まだ片づけられていなかったのだ。

 コノハの飲み物が少なくなっていたため、小塩はお代わりを尋ねるが、コノハはしばらくはいいとそれを断った。小塩は笑顔で了承し、厨房へと下がっていく。


 小塩の後ろ姿を見て、カンナは口を開く。



「くそう、小塩くん独り占めしてんじゃないわよ。ゴローのくせに」

「独り占めをしたつもりはない。そして何だそのゴローのくせにってのは」

「まだ21歳なのに落ち着いてるわよねえ。彼目当てのお客とか多いでしょ」


 コノハがゴローに尋ねる。ゴローはその問いに頷いた。


「彼に声をかける女性が結構な頻度で現れるんだが全て綺麗に受け流しているよ。親しみやすいんだが、ある程度のラインで線を引いているみたいで相手が先に折れてしまうようだ」

「ゴローちゃんにも?」


 コノハがそう問い返せば、ゴローは口ごもってしまう。

 そんなゴローの様子に、コノハはにっこりと笑った。


「早く養子としてもらっちゃえばいいのに」


 そしてその発言にゴローもカンナもぎょっとした。








 厨房へと引っ込んだ小塩は試作品のスコーンが乗った皿を見て微笑んだ。

 そこにはカリカリカリカリと一心不乱にスコーンを食べるおいちゃんの姿があった。

いったん番外編終了。

次から話進めます。

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