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第7話 すっかり仲が良くなったようでなによりである

 カケルも、トールも、エビルが完全に消滅したと確信した。

 そして同時に全力でため息をついたのだった。


 トールは今回が本格的な乙女戦士(ヴァルゴファイター)として戦ったための疲労だ。

 対してカケルは、初めての共同戦線による疲労だ。つまり、精神的疲労である。いつもよりもカケル自身が追いつめられたという自覚はなく(1度攻撃を受けそうになったのはカウントされていない)、トールという普段と違う異分子の登場によっていろいろと気が張っていた。


「俺1人の方が気が楽なんだが。あ、でも今回の敵は俺だけじゃ不利か」


 やはり乙女戦士の数は多いに越したことはないのだろう。戦隊物なども途中から人数が増えていくあれである。カケルは自分がトールと共に戦うことの必要性を無理矢理納得させようとしていた。


「1人の敵に数人で戦うのは卑怯だとツッコミが入るのが常だけど、普通に考えたら侵略者相手に個対個で戦う必要性はないんだよな。よくよく考えてみれば、戦国時代だって少数対多数なんて普通だし。暗殺とかザラにあったわけだし。正々堂々なんて言ってられないよな。負けたら終わりだもんな。うん、そうだそうだ」


 無理矢理、本当に無理矢理、カケルは自身を納得させた。

 ただチラリとトールと見て、「でもよりによってこいつかよ」と本人に聞こえないようつぶやいた。





 おいちゃんによってテレポートし、そして人気のない場所で変身を解除した。


「だあああああ、くそっ。こんなんいつまでやんなきゃいけねぇんだよ!」

『んなもん、エビルがいなくなるまでにきまっとるやろ』

「いつになったらいなくなんだよ!」

『・・・・・・しらへん』


 顔を横に向けたおいちゃんに、トールがウガアアアアと怒り叫ぶ。

 カケルはおいちゃんの様子に違和感を感じつつ、トールに話しかける。 


「打出。そんなことよりお前はさっさと行くところあるだろ」


 ぐるるると唸るトールだったが、カケルの言葉に黙り込む。そして意味がわからないという顔でカケルを見た。



「伊左次のところ、行かなくていいのか?」



 そしてその言葉に目を見開いた。すっかり忘れていたのである。

 トールが薄情というわけではない。ちっぽけな知能にあんな命辛々の戦闘をした後では記憶もすっとんでいるのも仕方ないかもしれない。

 カケルはその様子に、今後トールに勉強を教える際にどう教えるべきか、頭の中でシュミレートをする。結局は叩き込みでしかないのだが、どうすれば記憶力が上がるか悩み所である。



 トールはダッシュでその場を駆けた。しかし何故かすぐに戻ってきた。


「病院ってどっちだ!?」


 まさかの問いにカケルは思わず「馬鹿だ。こいつ本当に馬鹿だ」と声を漏らした。トールに勉強を教える未来を想像したら、少しばかり気持ち悪さが襲ってくる。


「もうおいちゃんにテレポートしてもらえよ」

「あ、それもそうだ」

『ええー・・・・・・』


 心底嫌そうな顔をするおいちゃん。おいちゃんもトールに呆れていた。

 考えてみればトールが乙女戦士になって幾日も経っているが、おいちゃんはカケルと共にいることが多い。トールと一緒にいると疲れるのか。それともトールに関してはほとんどカケルに押しつけているのか。

 先ほどの違和感と共に、いつかおいちゃんに聞かなくては。カケルは深く思った。



 おいちゃんの仕止めんばかりの勢いで、トールがおいちゃんに迫る。おいちゃんもその様子に早々に諦め、トールと共にテレポートした。

 カケルだけがその場に残った。左手を上げて手首を見る。乙女戦士になったとき、測定器がある場所だ。


乙女による防壁(バリアー・バイ・ザ・メイデン)、か」


 使い道が多い能力である。カケルは思った。使いようで、何にでもなるかもしれない。何ができて、何ができないのか。エビルがいないときに検証できることは検証していきたいと思っているが、おそらくすべてがそういうわけにはいかないだろう。戦っていくうちにわかることもある。


「ま、なるようにしかならないか」


 頭をかきながら思考を止める。こういうのはココロと話し合いながら進めていく方が効率がいいと理解しているからだ。






「大地!!!」


 聞き慣れた声にカケルが振り向く。するとそこには荒く呼吸する安倍川の姿があった。走ってきているが、そのスピードは遅すぎる。おそらく今まで方々を走り回っていたのだとカケルは思った。

 心配をかけてしまった。カケルはすぐさま安倍川のもとへと走ろうとする。多少の脚の痛みなど、気になるものではなかった。


「馬鹿野郎! 俺がそっちに行くわ、じっとしてろ!!」


 しかし走り出した瞬間、安倍川に叫ばれてカケルは脚を止めるしかなかった。

 カケルが見つかったからだろう。走るのをやめて肩で息しながら歩く。心配で駆け寄りたいが、そうすれば安倍川がまた怒るだろう。カケルはじっとするしかなかった。

 ゆっくりと安倍川がカケルに近づく。そして側まで寄ると、安倍川はカケルの胸元を掴んだ。まだ呼吸が荒く頭は下を向いており、安倍川の表情はわからない。

 ほっとしているのか。怒っているのか。ーー幻滅したか。

 カケルは安倍川がどう思っているのか不安になる。


「あ、あのな安倍川、俺」


 思わずカケルが口を開いたとき、安倍川が頭を後ろにそらす。



 ゴウゥゥゥゥゥゥゥゥウン

 そして勢いよく頭突きをかました。

 カケルは、そして仕掛けた安倍川もあまりの痛みに額を押さえて声が出ない。

 それでもしばらく経ってから、安倍川が口を開いた。




「大地、さっき俺が言ったことわかってんのか? 俺、お前が心配だと言ったよな? 言ったよな俺? だってのに大地はいなくなるわ。遠くで破裂音みたいなのは止まらないわ。事件現場は危ないから引き留められるわ。お前、俺の心配無視か馬鹿」

「あ、いや。あのな安倍川」

「うるせぇよ。いいか、俺は怒ってる。何もわかってない大地にめちゃくちゃ怒ってる。そこに直れ!」

「あ、はい」



 怒り心頭の安倍川にカケルは返事するしかなかった。

 これが理由のない怒りだったり八つ当たりだったりしたら、カケルは黙って聞くなんてことはしなかった。しかしこれが友人の、それも自分を心配しての怒りだとわかっているから何の返答もできなかった。

 中学時代でもカケルが友人に苦言を呈することはあっても、怒られるということはなかったはずだ。同級生でカケルを叱るのはココロしかいなかった。それをまさか高校生になって、友人から怒られることになろうとは考えもしなかった。



 その後カケルは10分以上、安倍川の怒りのお小言を聞くこととなった。










 そんなことがあった翌々日。

 大怪我をしたイサジだったが、なんとか無事に治療を終えた。出血量が多かったが、傷そのものは大事にはならなかった。治療したその日と、念のため翌日も入院することになったが、無事退院となった。



「よし、右田。英語のつづりの間違いが多いけど、文法としてはあってる。この調子だ」

「いやー、ダメでしょ。つづり間違ったらアウトじゃね?」

「というより大地。これ文法って言えるのか。主語述語目的語しかねぇじゃん」



 そして放課後。カケルのクラスで勉強会が行われている。

 ミギが出した解答に、カケルが誉めるもイサジが呆れて口に出す。カケルはイサジの言葉に首を横に振った。


「文法理解できるのは大きい。例えそれが中学レベルのド基礎だとしても。文法理解しようとしなかった某中学の友人に比べれたら、犬とハエほど違う。とりあえず基礎だ基礎。あとは長文問題やりながら覚えさせる」

「俺、俺、カケルの単語帳少しずつ覚えてるぞ。義姉さんが手伝ってくれんだ」

「よーしよしよし、よくやったよくやった」


 カケルが両手でミギの頭を撫でてやる。たった3カ目でカケルがミギに対する対応が犬を誉める飼い主と化した。カケルはミギをとにかく誉めることに決めた。健やかでいればいいと、ミギの両親が言っていた意味が今になってカケルはよくわかった。

 ミギが犬扱いされていることにイサジは若干ムッとするも、本人であるミギがまったく気にしていない、それどころか誉められて喜んでいるので何も言えずにいた。

 むしろもっと誉めてあげるべきだったかと悩むも、今更態度を変えるのもどうかと思い直した。そもそもカケルのように、ペットを誉めるようなやり方をイサジは知らなかった。ペットなど縁日の金魚くらいなものだった。

 安倍川はさすがに3日目ともなると、苛立ちや心配というものはなくなっている。普通に混じって勉強していた。しかし時折イサジの方をにらみつけるのは忘れない。安倍川のにらみにイサジは気づいていて知らぬ振りをする。そして安倍川もそんなイサジにケッ、と悪態を吐いた。

 カケルはミギから視線を別の方に変える。



「で、お前はどうなんだよ。打出」

「うるっせぇ! もうちょっと待ってろ!」


 そこでは打出がうんうんと化学の問題に唸っている。それにカケルは呆れながらも解き終えるのを待った。ちなみにカケルがトールを誉めることはない。ミギと扱いがまったく違うが、カケルもトールもミギのようにしたくもされたくもなかった。適度な距離感というのは人によって違うのである。

 トールがなんとか解き終えた問題を乱暴にカケルに見せた。


「どうだ!」

「はい、バツ」

「んだとおおおお!」


 見てすぐカケルが即答すれば、トールが喧嘩腰で反発する。

 だが反発しようが間違いは間違いなのだ。カケルは答えにほぼ近いヒントを出すと、トールは眉にしわを寄せながらも問題を解き直した。カケルに馬鹿にされるのが、よっぽど苛立つようで真剣に問題と向き合っている。カケルにとってこれは予想外だった。もっと難航するかと思っていたが、予想以上にトールが単純であった。



 ふと安倍川が思い出したかのように顔をあげてカケルを見る。


「そういえば大地は高瀬と勉強しないのか?」

「ココロと?」


 カケルが幼なじみの名前が出たことを不思議に思ったが、すぐに疑問に答える。


「まあ一緒にするときはするけど、そんな頻繁じゃないな。勉強の仕方が全然違うから」

「へぇ意外だな。高瀬も大地と勉強すりゃいいのに」

「言っとくけど。ココロ、俺より頭良いからな」

「マジで!?」


 カケルの発言に安倍川がびっくりして声をあげてしまう。

 だがカケルは気にすることなくうなずいた。


「あいつ、テストで90点以下とったことないんじゃないか?」

「え、えー。マジかよ。凄ぇ意外なんだけど。じゃあ大地が高瀬に質問するとか」

「ないない。ココロの勉強の取り組み方が個性的すぎて着いていけない。教え方は悪いわけじゃないんだけど」


 カケルがココロを思い出しながら苦笑する。

 それを問題を解きながらトールが聞いていて問題集から顔をあげる。




「へぇー、そんな頭良いようには見えねぇけどな。あのちんち、あだあっ!!」




 トールは言葉の途中で額を押さえてのけぞった。側で消しゴムがころころと転がっていく。

 消しゴムを投げたのは、意外にもイサジだった。というのもカケルを前にしてココロを貶すという行為は、カケルにとって1番タブーだ。勉強を教える際にもイサジはカケルに言われている。



 幼なじみを貶したら潰すと。



 おそらくトールはココロをちんちくりんと例えようとしたのだろう。

 それを察したイサジが、それを止めた。投げた直後にカケルの表情を見てイサジは自分の行動が間違ってなかったと確信した。

 カケルは無表情だった。無表情で、トールが痛がる様を見ていた。それはまるで能面のようで、周囲の者たちをゾッとさせる。


「・・・・・・トールはまだ言い切ってねぇよ」


 イサジはそれだけは伝えた。

 するとカケルは、


 チィッッッ!!!


 鋭い舌打ちを返す。

 誰もそれに関して何も言わなかった。

また数話番外編に移ります

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