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第6話 協力

 ピキッと、音がなり空間が裂かれる。

 やはり先に聞こえたのは、トールだった。そちらに目を向ければ手が空間の奥から現れるところだった。

 しかしトールはそれに気づいても足が動かなかった。球体が飛ばされて、慌てて影に隠れようとする。




 手が引っ込もうとするとき。カケルが全速力で追いかける。しかしカケルの伸ばした手がエビルを掴む前に、空間の奥へと引っ込んでしまう。

 上空に上がった球体が、今にも弾けようとした。

 カケルは乙女による防壁(バリアー・バイ・ザ・メイデン)を使うか悩むが、せっかくチャージした分を使ってしまうことに躊躇ってしまった。

 その躊躇が、球体の攻撃範囲に自身を留まらせた。


 瞬時に逃げるのは無理だと判断し、体制を低く、腕で顔を守る。多少大怪我をしたとしても、脚さえ無事なら走ることができる。致命傷さえ防げればいいとすら思った。




 その流れにぎょっとしたのはトールだ。

 逃げようともせず直撃で石片を受け止めようとするカケルに、正気かと疑ってしまった。


「っざ、けんじゃねえぞ」


 トールは語気を荒げ、一度投げてからグローブに収まったままのボールを右手で掴む。そして横投げでボールを放った。





 ボールが放たれたのと、エビルの球体が弾けるのはどちらが先だったか。

 しかし回転するボールがトールの手から放れた途端、ボールは徐々に形を大きくし、回転によって生じた空気の流れが強いものへと変わり石片を吹き飛ばした。カケルを攻撃しようとした石片も吹き飛ばされて、明後日の方へと落ちていった。

 元の大きさに戻ったボールはトールのもとへと返ってくる。その際、トールのいる位置より少し外れるので腕を伸ばしてキャッチする。


「ど、おだ、見たか!」


 口ごもりながらも自信満々でトールがカケルに言い放つ。

 立ち上がったカケルは口元に手を当てて、トールを見ながら考え事を始めた。



「おいちゃん」

『なんや』


 カケルが呼ぶ声においちゃんが反応して姿を現した。

 普段はカケルの側にいることが多いおいちゃんだが、今回のエビルは神出鬼没のため攻撃が当たらないように姿を消している。打出以上に隠れて何もしていないわけだが、カケルはそこに触れるつもりはまったくない。


「おいちゃんと打出。あのエビルの出現に気づくの、どっちが早い?」

『おいおい、バカにしてんのか? おいちゃんはケハイみてサッチしとるんや。トールはおそらく音でエビルにきづいとる。おいちゃんのほうがヨユーでかっとるっちゅうねん』

「気配を素早く俺に伝えられるか?」

『・・・・・・おおざっぱなら。だけどエビルの位置はあくしてトッシンしても、いまのままらならエビルにかくれられてまうのがサキやで』



 おいちゃんがエビルの場所に気づきカケルに説明したとしても、そこからカケルがエビルのもとへ向かう頃にはその姿は消えてしまう。そもそも間に合ったとしてもエビルが姿を完全に現さない状態でカケルの攻撃が効くとは思えない。

 しかしカケルの表情が曇ることなく、それどころか自信ありげだ。


「おい、打出」


 カケルがトールのもとへ向かった。

 おそらくカケル1人では倒すのは難しかっただろう。


「あいつ倒すためなら、協力してくれるよな」

「・・・・・・俺の力が必要なんです、って言えよ」

「おい、調子に乗るなよ」


 しかし返ってきた悪態に、カケルはイラッとさせられた。ただこのままだと話が進まないと考え、さっさと話を始める。



「打出。お前隠れてていいや」

「は?」

「だからエビルに気づいても、近づかなくていい」

「何言ってんだ?」

「まあ、俺も近づかないけど」

「はあああああ?」









 やることは今までとそう変わらない。

 ただ走り回るカケルのポニーテールにおいちゃんがひっつき、トールが大木の側にいながら周囲に神経を張り始めた。



 おいちゃんがピクッと鼻と耳を動かす。


『カケル。うしろヒダリ、ジョウクウ』


 おいちゃんの言葉にカケルは、さっと振り返り見上げる。

 ピキッと音がなり、トールが気づく。切れた空間からエビルの手が現れた。

 トールは現れたエビルに向き直るも、まだ動かない。


 球体を放り、エビルが手を引っ込める瞬間。




 カケルが右手をエビルに向けた。


《《乙女による防壁(バリアー・バイ・ザ・メイデン) 発動します》》



 空間が閉じようとする瞬間、切れ目の間に結界が張られる。多角柱の筒状の結界だ。閉じようとする切れ目を、結界が防いでいる。


 開いた空間にトールの瞳が鋭くなる。

 そしてその空間めがけてボールを投げ込んだ。先ほどとは逆にボールの大きさは小さくなった。そしてボールが空間の隙間に入ると同時に結界が砕けた。




『ぎぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ』


 空間は閉じられたが、エビルの悲鳴が聞こえた。

 カケルは駅の壁に、トールは大木に身を隠す。エビルの放った球体が弾けるも、それは2人を傷つけることはない。

 エビルはやはり消えたままだ。




「倒した、のか?」

『ケハイがもともとないからわからんわ』


 カケルが辺りを見回すが、先ほどの攻撃がエビルを仕止めたのかはわからない。

 そんなカケルのもとにトールが駆け寄った。


「大地!」


 トールの言葉にカケルがぎょっとする。トールが自分の名を呼んだのが信じられなかった。しかしトールは辺りに目を配らせていて、カケルの様子に気づいていない。


「まだいるぞ」


 きょろきょろと周囲を見ながら、トールは口にする。

 それはおそらくエビルのことだろう。カケルは何故わかるのかと疑問に思うが、尋ねるよりも先にトールが言った。


「俺が投げたボール。さっきからあちらこちらに動いてるんだよ。多分、エビルのいる空間に一緒にいるんだと思う」


 その言い分にカケルは納得する。

 トールの放ったボールはエビルのいる空間に入り込んだ。それがまるで発信器のようにトールに居場所を教えてくれている。おいちゃんすらも感じられない気配が、トールに感じることができている。



 トールが辺りを見回す。

 その間にカケルは測定器を覗いた。先ほどの結界はトールがボールをエビルに当てるまでの時間稼ぎだったため、強度はそんなに強くなかったのか、処女充電はそこまで減っていない。

 カケルの脳内にココロの声が浮かぶ。



『あと試してほしいのは、乙女による防壁(バリアー・バイ・ザ・メイデン)がバリアー以外にも使えるのか。壁やバリアー以外、例えば支柱とか土台とかに使えるのかどうか。武器の応用だからできなくはないと思うけど。これが可能ならカケルくんの武器は使い道が広がる』



 頼りになる幼なじみを思いだし、今日何かお土産に買っていこうと心に決めた。








 トールがぴくりと反応する。そして走り出した。


 しばらくしてピキッと音がして空間が切れ手が現れる。今回は上空でなく、逆に低い位置からの出現だった。その空間の奥から、トールの放ったボールが飛び出してきた。トールは走りながらボールをキャッチする。そしてエビルの手をガシッと右手で掴んだ。



「てめぇはぜってぇ逃がさねぇからな!!」


 トールは力みながらそう言った。

 エビルはすぐさま球体を放る。トールは顔を青くして球体が落ちていくのを眺めていた。そしてそれが弾く前。



 球体に結界が張られた。

 結界内で弾きただの石片の集合体になると、結界が壊れその場に石片が転がっていく。

 カケルが残っていた処女充電をすべて使い、強固な結界で防ぎきったのだ。




 すぐさまカケルもトールのもとへ着くと、カケルもエビルの手を掴んで引っ張った。

 切れた空間の隙間から、エビルの姿が見える。石膏のように白くゴツゴツした人型のエビルだった。

 カケルが歯を食いしばって力を込めつつ、トールを強い目で見つめる。



「打出!!」



 カケルの自分を呼ぶ声に、トールは右手を離し、すぐさまグローブからボールを握る。



投球用意(セット)



 トールは少しだけ距離をとった。カケルに当たらないよう、一点にのみ集中するために。コントロールがほんの少しもズレないために。



乙女入魂(ヴァルゴショット)



 トールが放ったボールは、カケルに当たるスレスレを過ぎた。

 そしてエビルのいる空間へ、その先にいるエビルに直撃した。





 カケルの掴んでいた手は、光を放って消えていった。

最後エビルが上空でなく、低い位置で現れたのは理由があります。

上空から四方八方の攻撃より、低い位置からの四方八方攻撃のほうが相手に攻撃できる範囲が増えます。

さらにそれまでずっと上空に球体を放っての攻撃だったため、エビルとしては奇をてらったつもりで現れました。

作中で説明しにくかったので、諦めてここで書かせていただきます。

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