第2話 キャラじゃない
騒がしいゲームセンターの中。
ガンゲームをしていたトールだったが、GAMEOVERという画面表示に苛立ちながら持っていた銃を乱暴に戻す。そして燻る怒りが抑えられず、機械に蹴りを入れた。近くを通りがかった人たちが嫌そうな顔をするが、トールはその者たちを一睨みしてその場から離れていった。
トールは1人で駅前のゲームセンターにいる。普段ならば共に行動するイサジとミギがいるが今は不在だ。その理由を思い出す度に、トールのイライラは収まらない。イライラを忘れるためにゲームセンターに入ったのに、居座れば居座るほど苛立ちがくる。このままここにいても所持金を消費するだけだと理解し、仕方なくゲームセンターを抜け出した。
特にやることもなくこのまま帰ろうかと思ったとき。トールのスマホが鳴った。取り出して画面を見れば、イサジからの電話だった。顔をしかめながら電話をとる。
「んだよ」
『今どこよ』
「何で教えなきゃいけねぇんだよ」
『まあ、どうせやることないから今の今までゲーセンにいたんでしょ。で、今の電話にすぐ出たってことは、ゲーセンから出て帰ろうかどうしようかってとこ?』
「だから予想たてんじゃねぇよ! お前ぜってぇどっかで見てんだろ!」
スマホに怒鳴りつけるトール。しかし通話越しのイサジはどこ吹く風だ。
『オレたちももうすぐ帰るから、ちょっと待ってろよ』
「ふっざけんな! 誰が待ってるかよ! 俺はもう帰るからな」
『そんなこと言わなくてよくね? トール、最近キレすぎだろ』
「誰のせいだ誰の! お前があいつに勉強教われとか言うからだろ!」
「そんなこと言っても、お前の頭じゃどうにもなんねぇじゃん」
最後の言葉は通話越しではなかった。直にトールの耳に届く。
急いで横を向けば、イサジとミギの姿が見えた。
ダッシュするトール。イサジはトールに向けて人差し指を向ける。
「ミギ、GO!!」
すぐさまミギがダッシュし、トールに飛びかかった。
背中に飛び乗ると、ミギの腕がトールの首に回った。
「ぐおっ。ミギ、てめぇ重てぇ」
「トールが逃げるからだろお!」
「腕、腕離せ! ギブ、ギブギブ!!」
トールが逃げるのをやめて、トールの腕を叩く。
それにミギが降りて、そのタイミングでイサジもトールたちの側に着いた。イサジはミギの頭を両手でぐしゃぐしゃに撫でてやる。
「よーしよしよし、よくやったミギ」
「犬扱いかよ! そしてミギもその誉められ方で喜んでんじゃねぇよ!」
「オレじゃ全力で逃げるトールを追えないし」
「ってか、近くにいるのに電話かけてんじゃねぇよ!」
「ああしないと、察せられる可能性あっただろ。現に電話に集中してたから、トールに近づけたわけだし」
イサジの発言にこれ以上は逃げられないと悟ったトールは憎々しげに2人を見た。
トールの苛立った叫びにイサジもミギもトールを見る。トールはぎりぎりと歯ぎしりをたてる。今にも噴火しそうな怒りに満ちたトールに、イサジもミギも一瞬だけ視線を合わせてトールに話しかける。
「イライラするなよ、どっかで食べていこうぜ。オレがおごるからさ」
「そうそう。俺も馬鹿なのにさっきまで勉強やったから、甘いもの食いてぇ」
「あ”ぁ?」
ミギの言葉にトールが低い声を出す。ヤベッと声を漏らしたミギの隣で、「馬鹿」とイサジが呆れながら口にする。トールは眉間にしわを寄せて、イサジとミギへ声を荒立てた。
「何が勉強だ! 何がテストだ! 何で俺が大地駆から仲良くお勉強ごっこしなきゃいけねぇんだよ!! 大きなお世話なんだよ!」
イサジの怒鳴り声に周囲にいた人々の注目が集まる。しかしトールは気にせず、牙を向けた動物のように2人を威嚇する。
イサジもミギもトールと高校でつるんでから、こんなにも怒りの感情を向けられるのは初めてだった。普段から常に苛立っているトールであるが、本気で怒りをぶつけられたことはない。トールの様子にこれはまずいと2人は思った。
すぐさまイサジがトールに近づく。ミギも共に進もうとしたが、イサジに手で制された。トールの前にイサジが立つ。
「イサジ、ごめん。オレが言い出したんだよ。大地駆に、トールとミギの勉強見てほしいって。怒るんならオレに怒れ。ミギは関係ない」
「ちょっ、イサジ!?」
イサジの発言にミギが慌てて口を出すが、イサジに鋭い目で見られ黙り込んでしまう。トールは苛立ちが収まらぬまま、イサジを見つめていた。
「ああ、そうかよ。じゃあイサジ言うぞ。俺は進学できようができなかろうが、退学になろうがならなかろうが、どうだっていいんだよ。どうせ俺の人生だろうが。どうなったって俺の勝手だろうが」
「勝手じゃないって。授業はつまんねぇしサボるけど、高校は卒業しなきゃまずいだろ。トールの人生はトールのもんだけど、トールだけしかいねぇわけじゃねぇ」
「だからなんだってんだ。仲良しこよしでお勉強して一緒に高校卒業しようねってか? そんなぬるいことしたいってんなら、俺とじゃなくたっていいだろうが! 説教こいてんじゃねぇぞ!」
トールの怒鳴り声にイサジは乱暴に頭をかいた。
「馬鹿だからはっきり言わないとわかんねぇのかっての」
ボソリとつぶやいた言葉に、トールが「?」マークを浮かべてイサジの言葉を待つ。
イサジは頭をかきながら口を開閉し、次第に頭をかいた手を降ろして顔を隠した。
「トールとミギとじゃなきゃ、仲良しこよしなんてやってられっかよ。お前らとつるんでんのがおもしれぇから、一緒に高校生活送りたいんだってわかれよ。オレはトールともミギともダチでいてぇんだっての」
顔を隠しているが、手からはみ出た部分が真っ赤に染まっている。耳まで真っ赤だ。
そんなイサジの様子にトールが、そしてミギもポカンとする。
2人の知っているイサジは常に余裕綽々で、飄々としている存在だった。感情のまましゃべったり行動したりするトールやミギと違い、何を考えているのか深層まで理解できなかった。そんなイサジがトールの目の前で恥ずかしがっている。
「え、イサジ。お前そういうキャラだっけ?」
「そういうキャラじゃねぇよ。トールは馬鹿だからどうせ回りくどく言ったところで、理解しないじゃん」
「俺のせいかよ」
「トールのせいだっての。くっそ、オレこんなんじゃねぇのに」
普段では考えられないイサジの姿に、トールも毒気を抜かれる。体内にたまっていた怒りのくすぶりが、ため息と共に吐き出された。
こんな風に言われてしまえば、反論することはできない。むしろトールの方まで恥ずかしくなってきた。イサジの背後に見えるミギは、イサジの発言に感動したのか目をキラッキラさせていた。
「おい、イサジ。どうすんだよ。これどうケリつけりゃ、このむず痒い状況が終わるんだよ」
「オレに聞くなって。もう、オレ無理。はずい。恥ずか死ぬ」
うつむいてしまっているイサジに、トールは深く、深くため息を吐いた。
ピキッ
空間に切れ目が現れる。切れ目の奥の黒い空間から、石膏の色をした手が現れる。その手にはゴルフボールほどの大きさの、ゴツゴツした球体が握られている。
それはトールたちのいる場所からそう離れていない。しかしそれに気づいたのはミギだけだった。手が球体を上空に放り投げた。球体は上空高く飛んでいく。石膏色の手は球体を投げると切れ目の中へと戻ってしまう。切れ目は綺麗に消えた。
ミギの本能が、緊急警報を告げる。そしてトールとイサジに向けて、叫んだ。
「トール、イサジ! 伏せろ!!」
ミギの言葉が速いか遅いか。
上空に放られた球体が爆ぜて、小石の破片が四方八方に飛び散った。




