番外編その2 良くも悪くも人間とは変わるものである
これも話に入れようとして収集つかなくなりそうな気がして止めた話。
トールが乙女戦士になった翌日のこと。
「ダメだ」
「ですよね」
水原はそう言い切った。カケルもその返答をわかっていたらしく深くうなずいた。
朝のHRが始まるよりも先に、カケルは担任の水原に呼びかけて生徒指導室へ移動してもらった。というのも昨日トールが乙女戦士になったこと、そして授業中にエビルが出たら抜けるかもしれないということを説明したのである。
しかし水原は速攻でNOを出した。
「そもそも奴は私のクラスとは関係ない。だから私に言ったところでどうにもできん」
「まあ、そう言われることはわかってましたが」
「それと奴はお前と違う。授業態度は悪い。提出物は出さない。私のも含めて授業はサボる。おまけに成績まで最悪だ。これで授業を途中退席するようなら、進学できなくなるぞ」
「あ、そうすか・・・・・・」
ここまで言われてしまえばカケルに返す言葉はない。本来カケルがトールのことまで心配する必要はないのだが、ふと気になったこともあり聞いてみたのだ。だが水原の言葉に、トールに対して呆れてしまう。
「それならおいちゃんに言っておきます。授業中に敵が来ても打出は参加させないようにと」
「ああ、そうしてくれ」
水原はそう言いながら、カケルの周囲を探し物をするかのようにキョロキョロと見る。水原の探し物を知っているカケルは首を横に振った。
「水原先生。今日はおいちゃんは来ていません。寄りたいところがあるそうです」
「そうか。まあ別に構わん」
そっけない態度をとる水原だが、その声には寂しさがにじみ出ている。
おいちゃんが学校に現れてから水原の雰囲気は柔らかくなった。冷めた顔つきや言葉遣いは変わっていないが、以前よりも付き合いやすくなった。これはカケルだけでなくクラスの皆の総意である。というよりも話してみてわかるが、意外と生徒相手には親身なのだ。
猫好きの猫アレルギーだとカケルは以前聞いていたが、アニマルセラピーでここまで人は変わるのだろうか。
「先生、おいちゃん来てから変わりましたね。クラスのみんな、今の先生のこと好きですよ」
「私は何も変わってなどいない」
「そうですか? おいちゃんを猫可愛がりしてから、大分先生の空気和らいでますよ。本当に猫好きなんですね」
言われた水原は口を閉ざす。腕を組み、何て言い返すべきか悩んでいるようだ。
別に返事を求めていなかったカケルは軽く笑う。会話の途切れたこのタイミングで教室に戻ることに決めた。
「では先生、俺は先に教室に戻ります。トールのことは聞かなかったことにしてください。結局はあいつの問題なんで」
そう言って生徒指導室を出ようとした。そのとき、水原がカケルに声をかける。
「私が変わったというが、それはお前にも当てはまるんんじゃないか」
その内容に今度はカケルが返事に困る。曖昧な言葉を返して今度こそ部屋を出た。
「変わったか・・・・・・。まあ、良くも悪くだけど」
頭をかきながら教室に向かうため階段を上る。そのカケルの肩にポンと手で叩かれた。叩かれた方を向けば安倍川がニッと笑いかける。
「おっはよう」
「安倍川か。おはよ」
それから2人は並んで教室へと向かった。その間に安倍川はカケルにいろいろな話題で話しかけ、カケルがそれに相づちを打つ。この2人、とても相性がいい。おしゃべりが好きで自分のペースで話したがる安倍川に対し、自分から話す内容はないが聞き手として優秀なカケル。安倍川といるときはほとんど会話するだけで済むため、脚を壊して運動全般があまりできないでいるカケルにとってはとても有り難い。安倍川はどんな話題もとりあえず聞いてくれるカケルは良い話相手であった。
そんな安倍川が口を閉ざし前をにらみつける。カケルも前にいる者たちに気づきため息をつく。
トールとその友人たちであった。
トールはカケルの姿を見るなり、ドカドカと近寄りその胸ぐらを掴み窓に押しつける。安倍川が今にも打出に掴みかかろうとするのを、カケルが首を横に振りそれを止めさせる。苦しさに少し顔を歪めるが、カケルはトールを見た。トールは怒りを隠さずカケルに言う。
「お前、どうしてくれんだよ! あの後からトーカのやつがおかしいんだぞ!」
「俺に言われても困るんだけど」
「昨夜、あいつヴァルゴレッドのファンクラブ作りやがったんだぞ!」
「どうしてそうなった!?」
カケルも思わず叫んでしまう。
トールとカケルの叫び声に、教室にいた生徒たちも2人の様子を注視している。
昨日ヴァルゴレッドのファンになったと言ってはいたが、まさかその日のうちにファンクラブまでできてしまうとは思っていなかった。昨夜はココロがトーカと連絡先を交換したと嬉しそうに話していて、喧嘩(一方的だが)していたことなど忘れていたため、カケルとしては一安心していた。
しかしまさかこんな急展開になるとは思わなかった。
だがそれ以上に安倍川も他の生徒もいる前で、乙女戦士のことは口に出して欲しくなかった。
叫んでしまってなんだが、とカケルは思いつつトールを宥めた。
「打出、とりあえず落ち着け」
「妹がわけわかんねぇ道に走ってて落ち着いていられるかっての!」
「じゃあそれに関して、俺はどうすればいいんだ」
「知るかよ!」
「丸投げかよ」
「うるせぇ! 一生童貞のくせに生意気なんだよ!!」
トールの言葉にカケルは固まる。返す言葉を失う。
カケルは頭痛を感じながら、ここにいないおいちゃんを恨んだ。今日は散歩の気分だと言っていたが、説明を全て自分に押しつけたのではないかと思った。
深くため息を吐いて、カケルはトールの肩に手を置く。
「打出、おいちゃんから何も聞いてないのか」
「今俺が聞いてんだっての!」
「俺が一生童貞って呪いの話だけど」
「それは今関係ねぇだろうが!」
「とりあえず場所変えるぞ。ここで話したら多分、お前が後悔する」
「意味わかんねぇこと言って話そらすんじゃねぇよ! 一生童貞野郎!」
(これは本当に話してないな、おいちゃんのやつ)
カケルは思わず乾いた笑いを吐いた。そして儚げにトールに笑いかける。
「お前も俺と同じ呪いかかってるぞ」
カケルの言葉に、トールはポカンとして真顔になる。
意外にも廊下にその声はよく聞こえた。聞こえてしまった。
「ぶほぉっ!!」
安倍川が盛大に吹いた。カケルの言葉にトールは顔色が赤くなったり青くなったりする。カケルは死んだような目で笑うしかなかった。
トールが勢いよくカケルのデコに自身のデコをぶつける。思わぬ痛みにカケルはうつむいたが、トールは汗をかきつつ尋ねる。
「ど、どどど、どういうことだよテメェ!」
カケルは口元を手で押さえ、周囲を気にしながらトールにしか聞こえないよう小声で話す。
「昨日、乙女戦士になっただろ。あれは精気をもとにして力を与えられるんだよ。だからつまり、乙女戦士になると・・・・・・EDになるんだよ」
「おま、じゃ、じゃあまさか」
トールの顔色が完全に青になっている。
カケルは自分が乙女戦士になった日の夜を思い出した。そしてトールに同情する。
「俺たちは昨日みたいな化け物を倒しきらない限り、一生DTでEDになるんだよ」
カケルがそう口にして、数秒後。
トールは頭を抱えてその場にうずくまった。
カケルは窓の外を見る。
「いい天気だなあ・・・・・・」
むかつくほどの晴天を、カケルは死んだような目で見つめていた。
改めて酷い設定だと思った。
大学生の自分、凄い設定の夢見たもんだ。




