第7話 仲良くできそうにない。それが問題だ。
切るタイミングが掴めず、いつもより長めです。
商店街のとある店の中。店員はもう逃げてしまい、ここにいるのはテレポートで飛んだおいちゃんとカケルだけだ。
『ちょいとまっとれよ』
おいちゃんが話しかける。ぼんやりとした思考でカケルはそれを聞いていた。
そしておいちゃんはテレポートで消え、カケルだけが残される。
(頭がグラグラする)
頭を打った衝撃で未だ体に力は入らない。
しかし痛みはまったくない。心臓はバクバクと鼓動する。
(十秒数えたら、立とう)
カケルはこの感覚を知っている。
違和感があって、でも妙に頭が冴えている。
痛みがあるはずなのに、痛くない。
(じゅう、きゅう)
目をつむり、心で数を唱える。
(はち、なな、ろく)
少しだけ休む。そうすれば動ける。
(ご、よん)
そうやってカケルは走っていた。
痛みはなく、違和感を覚えながらも少し休めばそれすら消えた。
(さん、に)
カケルは集中状態に入ると、痛みに鈍くなる。
本人が感じるよりも先に体にガタががくる。
現在走ると右脚が痛むのは、組織そのものが損傷してしまったから。走れば不自然な動きとともに痛みが起こる。歩けるだけ、まだマシだったのかもしれない。
(いち)
思考がハイになったとき、カケルは痛みを感じない。
だからカケルは
(ぜろ)
脚を壊したのだ。
カケルはゆっくりと立ち上がる。静かに呼吸を整えて目を開ける。
痛みはない。動ける。何も問題はない。
「エビルは、どうなった」
すぐに店内を出ていった。何度もいったことのある商店街。人は皆逃げて誰の姿も見えないが、建物は変わらない。場所は把握できた。
「進め、進め、前に、全力で」
カケルは走る。走る。ひたすらに。
そして
「捉えた」
鳥型のエビルがアーケードから飛び出そうとする瞬間だった。
カケルは右手に力を込める。
《《乙女による防壁 発動します》》
女性の声とともにアーケードに結界が張られた。結界にぶつかったエビルがその場に落ちていく。
カケルの視界に、青い服の少女が映る。ぱっと見、知らない少女だ。しかしこの状況でこの場にいるのは、カケルを除いておそらく1人。
「今だ! ぶっ倒せ打出!!!」
カケルは叫んだ。
エビルの落下。そして聞こえた叫び声。
トールは立ち上がり、前をしっかり見据えた。そして白い球体を握る。そのまま右手をグローブに叩きつけた。
「うっしゃあ」
そう気合いを入れて、振りかぶる。浮かぶ言葉を口にする。
「投球用意」
トールは思わず口角を上げる。
投げるということはトールにとって全てだった。いつまでもいつまでも投げていられた。速い球を投げてキャッチャーミットに収まったとき、これ以上とない快感になった。あのときの高揚感が今、トールに芽吹いている。
「乙女入魂」
トールの技名とともに球が放たれる。トールの手から離れた瞬間、それは巨大な球体へと形を変えた。球はエビルを捕らえ、今度こそその体を貫いた。
貫かれた部位からエビルの体が崩れて、光とともに消えていく。
それを見たカケルはほっと安心して、トールともとへと近づいた。おいちゃんの姿は今は見えない。どこかに隠れたのか、それともテレポートで逃げたのか。
「それにしても打出が乙女戦士か・・・・・・。ヤバい、協力できる気がまったくしない」
カケルが思わずそう口にした。
トールも複雑そうにカケルを見ている。トールの今の姿にカケルは首を傾げる。
「女になったからって、トーカに似るわけじゃないのか」
まだ近づいて見たわけではないが、ぱっと見でもまったく似ていない。女になったからと言って、双子の妹に似るわけではないらしい。だが顔つきは完全な女の子になっていて、ぱっと見でトールだと気づかれないだろう。
やはり以前シュンヤにバレたのは自分のせいなのだ、とカケルは再確認する。
「ん?」
ふとカケルは違和感を感じ始めた。でもそれがなんなのか、わからない。しかししばらくしてその違和感の正体に気づく。トールもカケルと目を合わせて瞠目する。カケルはトールの目の前に立つ。
そしてカケルが口を押さえ、ブフッと吹き出した。
「ちっさっ!!」
乙女戦士のトールは縮んでいた。男のときはカケルと似たり寄ったりの身長であったが、今はそれよりも小さくなっている。ココロよりも高いとは思うが、それでも150cm前半くらいだろう。
笑われたトールは怒りに顔を赤くして、トールを蹴ろうとする。しかし難なく避けられトールの怒りはさらに上がった。
「うるっせぇ! むしろ何でお前はそんなデカ乳生やしてんだよ!!」
「あ、そっちなのか?」
トールの反応に、カケルは笑うのを止めて怪訝そうにその顔を見た。
確かにトールの胸はわずかな膨らみしかないのに対し、カケルはココロに太鼓判を押されるほどの巨乳である。だが身長より真っ先にそっちに目がいくのはどうなのか。カケルは疑問を持ったが、男としては間違ってないのかと思い直すことにした。
トールは未だに怒っている。
「つうか、身長も何でお前だけ高いんだよ! 不公平だろうが!!」
「確かに打出は縮んだな。ココロにちんちくりんと言った打出自身がちんちくりんになってやんの。・・・・・・ってか気にしたことなかったけど、俺も少し縮んでるのか?」
今まで乙女戦士になっているとき、そんなことを気にする暇などカケルにはなかった。だが思い返せば、変身する前と後では少しだけココロと目線が変わっている気がしなくもない。
「お前の身長なんか知るか! この雌牛野郎!!」
「雌牛て・・・・・・。俺だって好きでこの胸になったんじゃないって」
普段のトールならば苛立つが、縮んで女の子になった現状では、小動物の威嚇に見えてしまう。カケルは呆れながらも怒る気にはなれなかった。
「カケルくん!」
カケルの耳にその言葉が聞こえた瞬間、すぐさまそっちに顔を向ける。その振り向くスピードにトールがどん引きした。
商店街の向こうからココロがこちらに向かって走っている。ココロの側にはおいちゃんが飛んでいる。おそらくエビルとの戦闘が終わったことを、ココロに伝えたのだろう。
すぐさまカケルはダッシュして目の前にまで近づいた。ココロはとても焦っていて、昨夜喧嘩をしたことなど頭から抜けているようだ。
「ココロ!」
「おいちゃんから、カケルくんが怪我したって聞いて。だ、大丈夫?」
「いや、怪我はしてないって」
『せやけどアタマうってうごけなかったやろうが』
おいちゃんの言葉にココロは顔を青くする。そしてカケルの腕を掴んだ。カケルはジト目でおいちゃんを見るが、おいちゃんはどこ吹く風である。
「カケルくん、この後病院行くよ」
「いや、痛みとかないし。それに乙女戦士になってるから多少丈夫なってるだろうし、大丈夫だろ」
「行かないとダメだから」
ココロの目はとても真剣で、引く気がないとカケルは諦めた。了承の言葉を伝えたとき、2人の側にトールが走り寄った。全速力で走ったため、息は荒い。
「て、てめぇ大地。ど、どんだけ、お前速く、走ってんだ」
「あ、いや悪い。でも、そんな追いかけると思わなくて」
「こんな格好で1人でいられるかあああああああ」
涙目になりながらトールが叫ぶ。
「きゃああああああああ」
そんなトールをココロがキラキラした目で見つめた。カケルから手を離すとトールに近づく。やはり今のトールの身長はココロよりも若干高い程度だ。するとココロはトールの腕に抱きついた。ぎょっとするカケルとトール。トールが顔を赤く染めココロの肩に手を置いた。
「おい、お前」
「ああああああ、二の腕。二の腕ぷにんだああ。この肌触り、弾力、もちもち具合。二の腕の筋肉と脂肪の付き方が神がかってるよお。触れたら離れがたい、この腕。やばいよお、くんかくんかしちゃうよおおおおおおお」
「お前すぐに離れろ!」
トールが顔を赤から青に変えた。ココロは気にせずに至福の表情で腕に頬ずりをする。トールの腕に鳥肌がたった。ふとトールがカケルを見れば、今にも人を殺しそうな目でトールを見ていた。
「あの写真、拡散されたいみたいだな」
「ちょっと待てえええええええ。これどう見たって俺のせいじゃねぇだろうが!!!」
トールがカケル(別名幼なじみ馬鹿)に向けて叫んだ。
タッタッタッタッタッタッタッタ
足音が近づいてくる。皆がそっちに顔を向けた。
そしてそれが誰だかわかった瞬間、ココロはトールを突き飛ばした。
「ぐぼっふぅ」
トールがそう声をあげたが、気にする者は誰もいない。
ココロは両手を口元に当てて、今にも泣きそうな表情で名前を呼んだ。
「ト、トーカちゃん・・・・・・」
神が光臨したとばかりに、ココロは涙を一粒流した。おいちゃんはそれを目撃し、何て言うべきかわからず、結局何も言えずに顔をそらした。
走り寄ってきたトーカは、カケルから数歩離れた場所で立ち止まる。そして周囲を見てエビルがいないことを確認すると、再度カケルを見た。
「あの、先ほどの化け物は」
「さっき消えた。だからもう安心していいよ」
カケルの言葉にトーカは安心する。そして深々と頭を下げた。
「さっきはお礼も言えなくてごめんなさい。助けてくれて、ありがとうございました」
「いや、お礼とかいいから」
「そういうわけにはいきません」
「あの、お願いだから頭は上げて」
その姿と声に、それが心からの謝罪だとわかる。ココロの視線が怖くて、カケルはトーカに謝罪の中止を促した。
一方トールは、トーカが頭を下げたことにただただ驚愕した。
してもらうことが当然。してあげてることに感謝しなさい。トールの知っている妹はそういう性格をしていた。お礼なんて猫をかぶっているときにその場凌ぎしか知らない。他者に対して感謝も申し訳なさも感じない女。そうトールは思っていた。
だからこそ目の前のこの光景が信じられなかった。トールは思う。お前は誰だ。
カケルの必死の言葉にトーカはやっと頭を上げた。
頬をほんのりと染めて、胸に手を当て興奮しながら笑いかける。
「でも凄い強いんですね。あんな化け物やっつけちゃうなんて」
「おい、ちょっと待て。それはそいつが倒したんじゃねぇ。俺が倒し」
「失礼じゃなければ名前を聞いてもいいですか?」
聞き捨てならないとトールが話に割り込むが、トーカはまったく視界に入っていない。トーカはうるうるとした瞳でカケルの両手を掴んだ。トーカと目線がほとんど同じ高さで、真っ正面から見えるその瞳にウッと声を漏らす。ココロの方が可愛いとは今でも思っているが、いざ近距離で見つめられると反応に困る。
「ヴァ、ヴァルゴレッドです」
とりあえず最近命名された名前を答える。トーカはそれを聞いて小声でつぶやいた。忘れないように何度もだ。
未だに手を握られているカケルはどうするべきなのか、対応に困った。いつまでもここにいたら商店街の人が戻ってくるかもしれない。どうにかして別れを告げようとしたとき。トーカがさらに顔を近づけた。もう息が当たるのではないかという近さだ。
「アタシ、あなたのファンになりました!」
「へっ?」
「はあ!?」
トーカの発言にカケルだけでなく、トールも驚きの声をあげる。
「アタシ興味もつとか、何かに熱中するとか今までなくて。人も仕事も、その場だけっていうか。でも今日ヴァルゴレッドさんと会ってからドキドキが止まらなくて。初めてなんです。こんなこと」
それは吊り橋効果のようなものではないだろうか。カケルはそう思っているが、キラキラと瞳を輝かせるトーカに言えるわけがない。何も言えずにいると、顔を近づけたままトーカは言葉を続ける。
「だから読者モデルなんかやめて、ヴァルゴレッドさんのファンになろうと思うの」
そんな発言にカケルの目が見開く。そして冷や汗をかいた。
見えないはずのココロの視線がカケルにはとても痛かった。
(まずい。このままトーカがモデルをやめてしまったら、ファンであるココロに殺される。あるいは一生、口をきいてもらえなくなる)
カケルはここが勝負所だと、カケルはトーカの目を真剣に見つめた。
強い視線で見られたトーカは自分から近づいた距離に気づき、慌ててカケルの手を離す。その手を胸の前で組み、カケルの視線を受け止める。
「あのトーカにそこまで言ってもらえるなんて嬉しいな」
カケルは自分で言って、鳥肌が立った。しかしトーカに感づかれる前に、そっとトーカの肩に触れた。
「でもね私、モデルをやってるトーカが凄くかっこいいと思うんだ。もしやりたくないって思ってモデルやってるなら止めないけど、そうじゃないならもう少し続けて欲しいんだ」
「アタシがモデルやってること知ってくれてたの?」
トーカの言葉にカケルは「しまったあああああ」と叫んだが、なんとかその言葉を飲み込むと微笑んだ。
「うん。だから私のファンになってくれたように、私もトーカのことが大好きなんだ。だからできればやめてほしくないかなって。迷惑、かな?」
首をかしげるカケルに、トーカは顔を赤くしてぶんぶんと首を横に振る。カケルはトーカに触れた方と逆の手をグッと握った。ミッションコンプリートである。
カケルはトーカから数歩離れると、手を振った。
「トーカとまた会えたら嬉しいな」
カケルはそう言って、おいちゃんを見た。「早くテレポートを」と視線が語っている。おいちゃんも悲しそうな顔で、うなずくとカケルにテレポートをかけた。
カケルが飛ばされたのは商店街から少し外れた裏路地。
おいちゃんはカケルをテレポートするとすぐ姿を消した。おそらくトールにテレポートをするため戻ったのだろう。
「あああああああ・・・・・・。自分で言ったとはいえ、気持ち悪っ」
側の壁に両手をつくとうなだれた。
そしてカケルの側にトールが現れる。側にはおいちゃんがいて、すぐさま変身を解いた。カケルもトールも元の男子高校生の姿に戻る。
トールはすぐさまカケルの服を腕を掴み叫ぶ。
「大地てめえええええええ、兄の前で妹口説くとかいい度胸じゃねぇか」
「口説いてない。そんな気、これっぽっちもない。別に俺、お前の妹のファンでもなんでもねぇし」
「はああああ!? んじゃその気にさせてんじゃねぇよ!」
「その気ってなんだその気って。俺だってな、ココロがトーカの大ファンじゃなければ何も言ってないわ。いや、大ファンってもんじゃない。あれはココロの中で神格化されてんだよ。そのトーカが俺がきっかけでモデルやめたなんてなったら、一生口聞いてもらえなくなるんだぞ」
「テメェのそのどうでもいい都合なんて知るかあああああああ」
「打出、お前またココロ馬鹿にすんなら今度こそ容赦しねぇぞコラア!!」
『たのむから、エビルとのバトルのときはキョーリョクしてくれや』
おいちゃんはその2人の口論を聞きながら頭を抱えた。
書きたかったけど書けなかった話があるので、しばらくは番外編として書かせていただきます。
ヒロインが変態になっていく毎に、主人公もどんどんおかしくなっていく……。




