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第4話 こいにおちーるおとーがしーたー


「次でお待ちのお客様」


 もうすぐカケルの順番が回ってくる。買う商品はもう決まっている。あとは素早く商品を手に入れ、これを手土産にココロへ精神誠意謝罪をする。カケルはこの後の予定を脳内でシュミレーションしていた。


『カケル、エビルの反応や』


 だからおいちゃんの発言にも無意識に無視した。

 しかし次の瞬間、視界が変わる。おいちゃんのテレポートによって、並んでいたケーキ屋の屋根へと移動させられたのだ。カケルはその瞬間愕然とした。


「あと、少しで買えたのにっ・・・・・・」

『いやいやいや、やるべきことはやれや』


 おいちゃんはキッパリ言い切ってカケルを変身させる。頭を抱えて悔しがるカケルだったが、顔を上げてギョッとする。商店街の中にエビルと思われる大きめの鳥が現れたからだ。耳をつんざくような鳴き声にカケルも顔を歪める。エビルはその場に降りると再び声を上げた。

 そして人々が逃げ出す中で尻餅をついて立ち上がれない少女を目にする。カケルが少女に向かって駆け出そうとするが、さきにエビルが動く。大きな翼を羽ばたかせると強い風が吹いた。あまりの強風に体が持って行かれそうになり、カケルの動きが止まる。しかし少女の方を見て、息をのんだ。

 看板が落ち掛けている。

 カケルはなんとか足を進めた。少女のすぐそばに行くつもりが、風に煽られて少女から離れてしまう。カケルはとっさに測定器を見る。しかし処女充電(メイデンチャージ)は貯まっていない。カケルはすぐさま少女に飛びかかった。

 看板が落ちる。少女に当たる前、カケルはそれに跳び蹴りを与えた。凹んだ看板が転がっていく。カケルは地面に両足を下ろすと、少女を見る。


「怪我はないか?」

「は、はい」


 少女は驚きつつも返答した。その少女を見たとき、カケルはどこかで会ったような気がしたが誰だかわからなかった。

 エビルが声をあげた。翼を動かさないので風はまだ吹いていない。少女を守るためカケルはエビルと少女の間に立ち塞がった。


「アイツはお・・・・・・私が引き受けるから。早く逃げろ」


 カケルは一人称をなんとか変えながら、少女に話しかける。しかし少女は震えたまま上体を起こしただけで、立ち上がることはできなかった。カケルがそれに気づいたと同時にエビルが翼を動かそうとする。

 その前にカケルがその腹に体当たりをしかけた。技を発動しない体当たりのためダメージは与えられないが、その衝撃でエビルの体が飛び転がっていく。

 エビルが起きあがる前に、カケルは少女を横抱きにする。少女は驚いて胸の前で両手を組む。その手が震えているのを見て、カケルは安心させるため微笑んだ。


「心配しなくていいよ。私が、守るから」


 カケルはエビルに背を向けた。


「動くから、掴まってて」


 少女が言われたとおり、カケルの首に手を回す。それを確かめてカケルは全速力で走り出す。

 カケルの背後をエビルが追う。商店街を駆け抜ける。

 スピードはカケルの方が圧倒的に勝っている。真っ直ぐ走り続けると一瞬だけ停止してしまうが、それは方向を転換することで解決する。ジグザグ走行だ。

 エビルの姿が少しずつだが離れていく。少女はそれを見て少し安心したらしい。震えが収まっていく。だが尻餅をついてからずっと心臓が強く鼓動し続けていた。

 ある程度エビルとの距離をとったのを見計らいカケルは足を止めた。測定器には処女充電が若干貯まっている。少女を落とさないよう努めながら、カケルはエビルに向けて右腕を突き出した。


《《乙女による防壁(バリアー・バイ・ザ・メイデン) 発動します》》


 女性の声が響くと、カケルの前に白い結界が壁のように張られる。

 エビルはその結界に激突し後ろへと吹っ飛んだ。まだ結界が壊れていないのを確認し、また走り出す。背後でエビルが結界を壊そうとするのを見て、上手くいったとカケルは喜ぶ。

 空を飛べるエビルが商店街の外に出ることをカケルは懸念していた。だからこそこの商店街の中でエビルと仕留める必要があった。だからこその先ほどの壁である。本当はエビル自体を結界で包みたかったが、それだとエビルの強さで壊れる心配があった。よって壁という一方向の結界を作り、それを強固なものとした。乙女による防壁(バリアー・バイ・ザ・メイデン)の活用法がわかれば様々な形を作り出すことはそう難しいことではない。

 エビルの足止めをして商店街を抜け出した。商店街の出口。そこにカケルは少女を降ろす。少女が震えながらも立てることを確認し、エビルのもとへ向かうため少女に背を向ける。


「待って!」


 少女がカケルの右腕を掴む。少女は青い顔のまま行かないでと小さく首を振る。カケルは困った顔をして頬をかく。早くエビルの元へ向かわなければ結界が壊されるか、別の方向から外に飛び出してしまうかもしれない。

 少女には悪いが無理矢理手を離してもらおう。そう思ったとき。



「トーカ!!」


 そう声が聞こえ、その方向を見てカケルはゲッと嫌な顔をする。

 打出透(ウチデトール)がこっちに向かって駆けていた。トールもカケルの姿に目を丸くする。カケルはなおさらここから逃げ出したかったが、それより先に少女が口を開く。


「トール、今更何しに来たのよ! 遅いわよこのバカァッ」

「なっ、呼んだのはトーカだろうが!」

「はぁ? 結局役に立たなかったら意味ないのよ」


 カケルの手を握ったままトールと少女、トーカは口論を始める。先ほどまで恐怖で震えていたトーカはどこにもいない。

 しかしカケルは思考も体も固まった。見覚えがあるわけだった。中学の頃から散々ココロが口にしていたモデルだったからだ。カケルの表情から一気に血の気が引く。

 カケルは掴まれていない手でトーカの頬に触れる。


(トーカに傷がつくようなことがあったら、ココロから絶交される)


 ただでさえトーカのことで、ココロから嫌われている状態。もしここでエビルによって怪我するようなことがあれば、一生口を聞いてもらえない可能性があった。それだけは避けたかった。


「怪我は、ないんだよね?」

「だ、いじょうぶです」


 カケルは真剣な目でトーカに顔を寄せる。トーカの顔は赤くなっているが、本人の言うとおり目立った傷などは見当たらない。


「それなら良かった。君が怪我したら大変だからね」


 ひとまず安心し、カケルは笑いかける。ちなみに「大変だからね」の後には、「(ココロと仲直りするのに)」という言葉が含まれている。

 カケルは何も言えずにいるトーカの頭を撫でた。トーカは黙ってそれを受け入れている。

 しかし第三者の手によってカケルの肩が強く押された。


「近ぇんだよ!!」


 トールが叫ぶ。カケルを突き飛ばすとトーカとの間に入った。

 そのトールの脇腹にトーカの拳がめり込んだ。クリティカルヒットし、トールが痛みに耐えながら脇腹を押さえた。


「何すんのよ!」

「何すんのは、俺の台詞だ馬鹿!!」

「邪魔しないでって言ってんのよバカァ!!」


 兄妹喧嘩に発展している2人。それを無視してカケルはエビルのもとへ駆け出そうとする。しかしそれに気づいたトーカが引き留める。


「待って。・・・・・・あの」


 トーカが両手を組んでカケルを見た。


「がんばって、ください」


 頬を染めたトーカの表情。カケルはそれを見て、ココロが彼女に崇拝することに納得した。冗談抜きで可愛らしかったのだ。ココロのほうが可愛いという気持ちは変わらないが。


「ありがとう」


 カケルは一言、そう告げて走り出す。




 ふと走りながらカケルは思った。


「トーカのサインとかもらえれば、ココロ絶対喜ぶよな!」


 幼なじみ至上主義者の意見だった。







 残されたトールとトーカ。

 トーカは胸に手を当て息を吐きながら、カケルが去っていった方向を見つめていた。


「うわあ、ドキドキしちゃったあ」


 心臓がバクバクと落ち着かない。顔も火照っている。こんなにも興奮したのはいつ以来かトーカは思い出せなかった。トールはケッと鼻で笑う。


「女相手にドキドキとか頭おかしいんじゃねぇの」

「うっさいわね。危ないところを助けてくれたのよ。役立たずのアンタより数万倍かっこいいわよ」

「んだと、もういっぺん言ってみろ!」

「何度だって言ってやるわよ! アンタより、今まで付き合った男より、数百万倍かっこよかったっつーの!」


 トーカの叫びにトールはギョッとする。トーカの目は真剣だった。トールを馬鹿にした発言ではなく、トーカが本気でそう思っての発言だった。トールは悔しさに拳を握りしめる。


「うるっせぇ、うるっせぇ! 俺だってなあ、やればできんだよ!」


 そう言って商店街に向けて走り出した。

 慌ててトーカが大声をかけるが、トールの耳には入らない。


「俺だってなあ、かっこいいとこ見せてやろうじゃねぇか!!!」



 トールは商店街をダッシュした。


めえええええるとおおあおおおお

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