第2話 性格悪し
打出透は苛立ち気に舌打ちをするとスマフォをポケットに仕舞い込む。トールの側にいた友人2人はそれに気づくなり声をかける。教室の角にいつもの3人で固まっていた。
「トール、機嫌悪そうじゃね?」
「ミギ、トールの機嫌悪いのは今に始まったことじゃねぇだろ」
「そりゃそうだ」
机に腰掛けながら2人は揃ってギャハハハハと笑った。それにイスに座っているトールがにらみつける。しかし機嫌の悪いトールには慣れているのか2人ともまったく気にしていない。トールはギリギリと強く歯を食いしばった。
「他人事だと思って適当なこと言いやがって」
「だって他人事じゃん?」
「うっせぇな!」
トールは友人の1人、先ほどミギと呼ばれた男の脛を蹴りつけた。思いの外綺麗に当たり、ミギは脚を抑えて痛がった。それを見たもう1人の友人が呆れて2人を見ていたが、興味をなくしポケットからスティック付きの大きな飴玉を口の中に転がす。トールはそれを見て嫌な顔をした。
「イサジ、お前それ何味?」
「アンチョビ味。トールいる?」
「いらねぇよ! それ本当に菓子なのかよ!?」
「まあ、それなりにイケるけど」
イサジと呼ばれた男は別の飴玉をトールに差し出すが、トールは全力で拒否をする。ミギは未だに痛む気のする脚を押さえながら、思い出したかのようにトールを見た。
「ってかさ、トールが肩壊したってこの前初めて聞いたけどよ。何、お前野球部だったわけ?」
ミギは直球でトールに尋ねる。それに対しトールが目つきを鋭くし、イサジまでもが眉を寄せてミギを見る。空気が変わったことに気づいていないイサジが、心底不思議そうにトールを見ていた。それに嘲りも悲愴なく純粋に疑問を投げかけている表情に、トールは怒りを覚えるのが馬鹿らしくなった。
「ミギ、お前よくそんなん堂々と聞けるよな。ある意味尊敬するわ」
「えー、いいじゃねぇかよ。イサジだって気になるよな?」
「あん? オレは別に。ってか知ってたし」
飴玉を転がしながらのイサジの発言にミギもトールもギョッとする。トールに至っては、何で知ってんだと少しだけ後ずさる。イサジは何でもないように、飴玉を口から出した。
「情報として知ってたっての。人の噂なんて簡単に耳に入るわけだし。トールが話さないならわざわざ聞く必要ないって。むしろ本人に気兼ねなく聞けるミギの無頓着っぷりがすげぇ」
「んな・・・・・・俺はただ気になっただけだっつーの!」
ミギはイサジに怒鳴りつつ、申し訳なさそうにトールの顔を見た。その視線を直視できずトールは舌打ちしながら顔を背ける。特にイサジから感じる視線が鋭く、居心地悪そうにペットボトルのフタを開ける。中に入ってた炭酸飲料を飲み込み、未だこちらを観察するかのように見てくるイサジをにらみ返す。
「んだよ」
「別に」
「じゃあこっち見んなし」
「気にすんなし」
「気にするわ!!」
怒鳴るトールだが、イサジはまったく意に介さない。観察されているようなその目つきに、気にするなという方が難しい。トールが目つきを鋭くさせるが、その表情がほぼ常となっている現在、イサジにはまったく効かなかった。
「イサジ、マジでその目やめろ」
「その目って言われても、オレはこれが通常なもんで」
「あ、でもトールの気持ちわかるぜ。俺もイサジに見られると思ってること全部筒抜けって感じがして嫌だよなあ」
「いや、お前は俺でもわかるくらいわかりやすいぞ」
ミギが会話に参戦するが、トールはそれに呆れる。
というより、とイサジが話し出しながらトールを指す。
「オレからしたらお前ら2人ともわかりやすい」
「ミギだけでなく、俺もかよ!」
「まあな。例えばさっきトールがスマフォ見て苛ついてたけど、トールがスマフォでやりとりするようなダチなんていないだろうし。おそらく家族からの連絡だろう。かつお前が嫌悪感を出してくる奴だから、高確率で妹からだと思っただけだ。荷物持ちか迎えか頼まれたんだろ、どうせ」
「イサジ、それ俺がわかりやすいとかわかりにくいとかじゃなくて、ただのお前の推理じゃねぇか! 間違ってねぇけどよ!」
まっすぐトールをを見据えズバズバ言いきっていくこの友人に、トールは多少の恐怖を感じた。別のクラスにいるカケルのこともイサジからの情報で知り、先日はそれでからかい最終的にトールは弱みを握られた。それを思い出すとトールの腸は怒りで煮えくり返る。そもそもカケルの存在がトールをただただ苛立たせた。
ミギはというと、イサジの推理にへぇとだけ感心する。そして自身の太股を叩いて音を鳴らしながら、トールへと話しかける。
「そういやトールには双子の妹がいるんだったっけか? なあ、俺に紹介してくれよ」
ミギの言葉に、トールは素早く首を横に振る。トールの反応にイサジも深くうなずいた。妹をやれない、という兄心ではない。ミギのことを思い、やめたほうがいいという意味でだ。
「ミギ、悪いことは言わねぇ。トーカには関わらねぇほうがいい」
「んだよ。紹介してくれたっていいじゃねぇか」
「お前のために言ってんだよ。アイツ、すげぇ性格悪いぞ」
トールは妹のことを思い出し苦い顔をする。イサジもトールに同意するように首を縦に振る。ミギはそれに戸惑いつつ、なおもトールに話しかける。
「性格悪いっつったって、トールみたいなもんだろ?」
「おい、テメェそれどういう意味だ」
「トール、お前は落ち着け。それとミギ、オレもトールの妹はお勧めしないぞ」
ミギの一言にトールは立ち上がるが、イサジに手で制されて舌打ちしながら席に座り直した。不満そうに机に頬杖をつくトールを見て、イサジはミギに視線を移す。
「表向きは女性雑誌の人気モデルだ。だけどその実、男をとっかえひっかえする女だと聞いてんぞ。というよりトールの妹のトーカは、恋人だとか付き合ってるかとそういう考えはないんだろう。9股してるって噂は聞いたことあるけど、あながち嘘じゃなさそうだ。本人は恋人って感覚じゃなく、金蔓か暇つぶしってところだろ」
「イサジ、お前どこからその情報とってきた。何人かの男と交流あんのは知ってるけど、9股は聞いたことねぇぞ」
「悪い噂ってのは、けっこう広く伝わってるもんなんだよ。こういうのは尾鰭やら背鰭やらエラがついてるけど、間違っているとは言い切れないんじゃね?」
トールはそう問われ、口を閉ざす。その通りだと思ったからだ。
双子の妹である打出藤花は、誰もが認めるほど可愛らしい顔と美しいスタイルを身につけている。はっきり言って100人中99人がトールと双子だということを認めず、残り1人は「はいはい、妄想乙」とトールの頭を疑うであろう。それほどまでに2人は似ていない。
だがその可愛らしい姿だが、いやそれ故か、トーカの性格は決して良いとは言えたものではない。幼少の頃からお姫様扱いをされ自分の美貌を知り尽くしたトーカは、唯我独尊女王様と化していた。自分の我が儘は簡単に通り、誰も彼もが自分の意のままだと信じて疑わない。欲しい物は例え他人の物でも欲しがる。気になった男性は彼女がいようが、奪って物にする。奪われた方の女もトーカに対して怒り狂うのではなく、泣き寝入りに走ってしまうものだから、トーカはさも当然のようにそれを続けている。妹の本性を知り、そして常に比較され続けたトールはそんな妹が苦手となっている。
だがトールもトールで口が悪く尊大な態度をとっていることが多かったため、やはりそういうところは双子である。エースピッチャーだった頃はそれも長所と捉えられることもあったが、肩を壊して野球をやめた今は他人に迷惑をかけまくっている。しかしトールのそういった悪い点に関して、まったく自覚はないから困ったところである。
「そ、そっか。わかったよ。近づかないようにするって」
「それが賢明だな」
ミギもなんとなく空気で察したらしい。青い顔でうなずき、イサジが深く息をつく。
トールは先ほどスマフォに送られた妹からのメッセージを思い出した。
『最近、勘違い男がうるさいんだけど。どうせヒマなんでしょ? なんとかしてくんない?』
思い出した途端に苛立ち、ふとこちらを恐る恐る見つめるクラスメイトと目が合った。
トールは勢いよく側の机を蹴りつけた。
「こっち見てんじゃねぇよ! なんか文句あんのかよ!!」
そういう態度が、性格が良くないと言われることにトールは気づかない。
トールの友人
ミギ←右田くん
イサジ←伊左次くん




