第4話 速攻
速攻で倒す。そうカケルは言い切った。
次の瞬間、エビルの顔のすぐ前にはカケルの右足が浮いていた。カケルが俊足で飛び上がり、その足でエビルの顔を狙い撃ったのだ。顔面を蹴り飛ばされたエビルは地面を転がりながら跳ねていく。エビルがすぐに立ち上がろうとするも、その背後から体当たりをしかけた。
10秒にも満たない間のことである。
当然のことだが、処女充電は貯まっていない。
エビルが再度突っ込もうとするカケルに、両腕の鎌を振るう。しかし後ろに下がりそれを避けると、もう一度振り直す前にカケルが攻撃をしかける。本来の武器である乙女による防壁を使用していないため、エビルにダメージはあまりないのだが、それ以上にカケルのスピードがエビルの動きを制限していた。
「悪いけど、さっさと終わらせる」
カケルは右腕にはめられた時計型の測定器に目を移す。短針が処女充電のLv1を指している。それを確認するとエビルの攻撃範囲から距離をとる。エビルが両腕を振りかぶり鎌を千切ってカケルへと放った。余裕でカケルはそれを避ける。
しかしエビルにはまだ突っ込まない。カケルはエビルの両腕を見る。エビルの両腕はまだ生えていない。
「つまりまだ鎌は『生きて』いる」
カケルの後ろへと飛んでいった鎌は弧を描き、その横から攻撃しようとしていた。だがカケルのスピードはそれを上回った。当たる瞬間にカケルが数歩下がる。2つの鎌が互いにぶつかり地面に落ちる。鎌が溶け、エビルの鎌が生えようとする瞬間。
《《乙女による防壁 発動します》》
決着は過去最速でつくこととなった。
『めちゃめちゃはやかったー。いままでのバトルなんやったんってくらいはやかったー』
「言っただろ。速攻で終わらせるって」
『いうたけども。・・・・・・で、それどうするん?』
おいちゃんの言うそれとは、カケルが抱えている打出だった。カケルは乙女戦士のままで打出を肩に担ぐと、どっかに走っていた。おいちゃんは毎度のようにポニーテールに引っ付いて、気絶したままの打出を可愛そうな目で見つめていた。
「本来なら触れることも拒否したくなる残骸だが、このまま放っておいたらまた明日面倒なことになりかねないからな。安倍川にも苦労かけるし、水原先生にも申し訳ない」
だから、と続けるカケルは頬を染めて笑った。乙女戦士状態なのでとても可愛らしい笑顔である。
「これ以上厄介なことする前に、弱み押さえとくのが定石だよな」
それはそれはとてつもなく、可憐で綺麗な微笑みで言い切った。
おいちゃんは、思った。こいつは忠犬やない。忠修羅やと。
(ココロのじょうちゃんがあるいみ最強やなあ。いろんなイミで)
次の日の朝。
昨日と同様、教室でカケルと安倍川は席の前後で会話をしていた。
「安倍川、昨日は悪かったな。母さんの相手してもらって」
「いいっていいって。にしても大地ってお母さん似な。会ったときビビったわ」
「俺も母さんが凄く喜んでたよ。また呼んできなさいって言われたしな」
カケルの母もココロと同様、カケルが高校の友人を連れてきたことに感動したらしい。ココロが安倍川を連れてきたことに、母はカケルに憤慨し安倍川をもてなした。安倍川が誰とでも話せるタイプだったため、カケルが戻るまで心おきなくココロも交えたおしゃべりを続けていたのである。
「カケルの母さんも高瀬も、どっちも良い人で俺もおもしろかったわー。大地の負担になんない程度に遊びに行くわ」
そう言ってくれる安倍川に、カケルは嬉しさでにやけそうになるのを抑えた。
すると安倍川が廊下の方を見て、露骨に嫌な顔をする。カケルがそちらを向けば、案の定打出たちがニヤニヤと笑っている。嫌そうな顔をする安倍川に対して、カケルは涼しい表情をしている。
カケルがスマフォを取り出した。またアプリゲームのことかと安倍川は思ったが、それは違った。
「おい、打出」
カケルが打出の名を呼んだ。その行動に安倍川がカケルを見て驚愕する。
呼ばれた打出も怪訝な顔してカケルを見た。カケルは何も言わず打出のもとに近づくと、スマフォを下向きにして差し出した。
「打出だけが見たほうがいい。見られても俺は問題ないけど」
カケルからスマフォを受け取った打出は、そうっと離れて画面を見る。すると叫び声とともにカケルのもとへ急いで近づき、その胸ぐらを掴んだ。
「な、な、なっ、なんだよ、この写真!!?」
「上手くとれただろ。手ブレもないし、綺麗にとれたよ」
焦って汗が流れ出した打出に対し、カケルは爽やかで優しげに微笑んだ。胸ぐらを掴む手に、カケルは自分の手を添える。
「上手くとれたから、バックアップもさせてもらった」
「て、てめぇ。頭イカレてんじゃねぇのか!?」
「俺さ、平和主義者なんだ。俺の大切な人にこれ以上迷惑かけたくないんだよ」
カケルは表情をそのままに、瞳だけ笑顔が消えた。添えた手に力が入る。
「わかるよな、俺の言いたいこと」
その声に、打出が固まった。絞り出した言葉は
「ぜってぇ拡散すんじゃねぇぞ」
だった。カケルは当然だと返事をする。問題事を起こしたくないだけなので、わざわざ脅し材料を晒す必要はない。脅しは守るからこそ破られないものである。
打出はスマフォを返すと数歩後退り、
「ぜってぇだからな! ぜってぇだからな!」
とカケルと指して逃げていった。友人2人も慌ててその後を逃げていく。
カケルはそれを見届けるとスマフォをズボンぼポケットに仕舞い席に着く。
「で、今度家に来るときは夕飯もどうだって母さん言ってたから。それは安倍川の家の都合とかもあるから、気にしないでいいからな」
「えっ、ここでその話続けんの!?」
安倍川の台詞にカケルはいつもの表情でうなずいた。先ほどの打出とのことはカケルの中でなかったことになっていた。安倍川は確信した。
目の前の男の幼なじみには絶対に手を出さないようにしようと。
おいちゃんは複雑そうな顔でそれを見ていた。
『カケルにはしゃべらんとこ』
ボソリとおいちゃんはつぶやいた。昨日気絶した打出を運んでいたとき、おいちゃんは打出の頭の中を覗いた。そして判明したことがある。
『あのトールってボウズ、乙女座なんやって』
そのつぶやきは誰の耳にも入らなかった。
今回バトルシーンはなしで速攻に倒す予定でしたが、そうするとこの話が短すぎてしまうため無理やり入れてしまいました。
次回から更新頻度が数日置きになるかもしれません。ご了承お願いします。




