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輪廻転世ルクスフェロー  作者: 一丸一
第5章〖人間に堕とされた神〗
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第83話

 完全に自分達が優位だと思っていた士師団の面々に緊張の色が滲み出る。


「サムソン!何をもたついてるの!?」


 デボラーナは断ち切られた分銅鎖を投げ捨て、呆けていたサムソンへ苛立ちをぶつける。


「だ、だって、背後からいきなり敵が出てきたら驚いちゃうじゃないっすか」


(わたくし)達が傍にいるのだから、貴方は祈りに集中していれば良かったの!」


「……我輩が捕まえたバアルを取られたのにっすか?」


 口の減らないサムソンに叱咤の手が上げらるかと思われたが、二人の間にギーデが割って入る。


「戯言はそのくらいにしておけ」


 感情の籠らぬ言葉は頭に血を上らせていたデボラーナを落ち着け、憮然としていたサムソンを発奮させた。


「エフドア、障壁を展開。突破された場合は手前が対処する」


「ショウチ。甲鉄(ロバスネス)!」


 大剣を地面に突き刺して腕を振るうと、周囲が一瞬だけ発光し、透明な障壁が士師団を包む。それを確認してからギーデは抱えていたネイトとアイラを降ろし、デボラーナへ引き渡した。


「大して抵抗する力も無いと思うが、逃がすなよ」


「分かっています」


 釘を刺され、少々バツが悪くなってしまうデボラーナを隠れて笑うサムソンであったが、彼女の反感を買うより先にギーデに頭を掴まれる。


「集中しろ」


「う、うっす……」


 ただの一言に並ならぬ威圧を感じたサムソンの顔からは笑みが消え、喉を唸らせるのが精一杯だった。




「行かせるか!」


 どうにかバアルは奪還できたものの、まだネイトとアイラが捕らわれたままだ。大人しく転移させるわけにはいかない。体に巻き付く青白い光が何なのか、ルシファーから聞き出すより先に走り出す。すると俺の身体は弾丸のように飛び、一瞬でデボラーナの正面まで辿り着く。

 角付きが戦斧を構えて俺の進行を阻もうとするので、先ずはこいつをどうにか退けなくてはならない。今まで散々な目に遭わされた恨みもあるので、自然と右の拳に力が入る。全力で振るった拳であったが、それは角付きに当たる一歩手前で見えない障壁に弾き返されてしまう。


「あれ?くそっ!」


 バアルを取り込んだ分、見た目も変わっているし強化されているのは間違いないので障壁ぐらい突き破れるかと思ったが、どうやら期待外れだったらしい。俺が目を丸くしていると角付きは容赦なく戦斧を横薙ぎ一閃。少々反応が遅れてしまうも、今の身体能力ならば余裕で後退が間に合う。


「(この力、どう使えば良いんだ?)」


「(悪いが術に対して特別な能力はない。障壁は力尽くで破壊してくれ)」


 ええ……。苦労して取り戻した力なのに大して役に立たず、ごり押ししろとはどういうことなのか。


「でも、やるしかない!」


 両手に光りを集中させてから突き出し、光線を照射したが障壁は何事もなく存在し続ける。反対側でもロザリアが鎌と紋章魔術で攻撃を加えているが、やはり有効打には至らない。

 そうこうしている内にサムソンが転移の祈りを捧げ終わり、士師団の体を光りの繭が包んでいく。


「おい!待て!ネイトとアイラを返せ!!」


 声を張り上げて何度目か分からない拳を叩き付けるが、相変わらず障壁にはヒビ一つ入らない。徐々に士師団の姿が見えなくなっていく中、角付きと視線が交わる。兜を被っているので表情は見えないのだが、奴は無表情でこちらを見下しているような気がした。地獄の支配者二人の力を持ってしても仲間二人を助けることができない無能さを哀れんでいたのかもしれない。


「くっそぉぉぉぉぉぉ!!」


 いくら怒号を上げても状況は変わらず、ただ荒野に虚しく響き渡るだけだった。そしてとうとう繭は士師団の姿を完全に包み込み、霧散した。


「なっ……ぐっ、がはっ!」


 繭と共に姿を消したかと思ったが、士師団の姿はまだ同じ所にあった。この場に居た全員が状況を理解できずに驚愕し、更にサムソンは大量の血を吐いて膝を着いた。


「臭い、煩い、臭い」


 後ろでぼやくような声が聞こえ、反射的に振り返ると、そこには気怠そうに首を回しながら歩いて来るアメリーがいた。


「アメリー、起きて平気なのか?」


 サムソンに何が起きたのか分からないが、敵の心配より味方の心配が先だ。アメリーは俺の隣りに来てから顔に着いた血を腕で無造作に拭った。


「ん、平気」


 格好の所為か、普段と違う雰囲気を感じたが、口調はいつものアメリーだったので一安心する。


「術は何とかする」


「アメリー!」


 タイミング的に予想は出来たが、やはり転移聖術を妨害したのはアメリーだった。どうやったのかは気になるが、俺が何かを言う前に血相を変えたロザリアがこちらに走って来る。


「今すぐその眼を閉じな!」


「デカイのが倒れてない」


「あいつなら立ったまま気絶してるよ!いいから早く!」


 現場に居たのに一瞬にして蚊帳の外だ。一体何が起きているのか聞きたいが、ロザリアの険相を前にして口を挟む勇気は出て来ない。俺は二人の会話に耳を傾けながら敵の出方を伺うことに集中するしかなかった。


「ふぅん」


 つまらなさそうに頷いたところで眼を閉じ、安堵の溜め息が聞こえる。そこで敵にも動きが表れた。


「じょ……冗談じゃ、ないっす、よ」


 やっとの思いで吐血の止まったサムソンであったが既に夥しい量の血が体内から流出しており、自らが生み出した血溜まりに沈んだ。


「まずいわ!あの娘の前で聖術を使ったら危険なの!私達が持つ固有の物も対象になるわ!」


「チッ!」


 デボラーナの叫びに反応したギーデは、戦斧をサムソンの首を刎ねる様に振るった。突然味方を攻撃するとは、錯乱を疑いたくなるが、勿論そんなわけはない。戦斧は寸での所で光りに弾かれ、サムソンの身体は一度だけ痙攣し、やがて起き上がった。


「ああ~、抜けすぎだろ、血。だりぃ」


 起きて早々、自分の血を蹴り散らかす粗忽っぷりにデボラーナは引き気味だ。


「戦えるか?」


 数秒前まで血を吐いて倒れた仲間に言う台詞ではないだろうが、サムソンは何食わぬ顔で落ちていたトライデントを蹴り上げる。


「オレ様に二度とそんな質問ができないように、お前からぶっ倒してやろうかぁ!?」


 巧みに回転させたトライデントの切っ先を向けられるが、ギーデは一切動じずに手で退ける。


「そうか、ならばエフドアを連れて撤退しろ」


「はぁ?言葉が通じてねぇのか?俺は戦え……っとと」


 言葉を聞き終える前にギーデはトライデントを掴んで軽く押す。特別力を籠めたわけでもないのに、サムソンは体勢を維持できずによろけた。


「指示に従えないなら、ここで二度と戦えない体にしてやる」


「……くそ野郎」


 悪態を吐きながらもトライデントを背負い、エフドアの尻に蹴りを入れる。


「今回は従ってやる。おい、起きたんならさっさと走れ」


「むっ?ワレはイッタイ……」


「撤退よ」


 意識を取り戻したばかりのエフドアを置いてさっさと走り去って行くサムソン。状況が分からないと言わんばかりに辺りを見渡す巨漢の背中を優しく押すのはデボラーナだ。しかし、彼女はどさくさに紛れてネイトとアイラの身柄を押し付けていった。だが、そんなことに文句を言うエフドアではない。彼は大剣を背負うと少女二人の体を軽々と持ち上げ、先を走る二人の後を追った。




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