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輪廻転世ルクスフェロー  作者: 一丸一
第5章〖人間に堕とされた神〗
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第63話

 木々が無くなり、開けた場所で目にしたのは澄んだ湖と、その中心に生えた領樹ガーランドだった。間近で見る領樹の巍然さに圧倒されていると、上空から大きな羽音が聞こえて来る。


「ようこそ、ティンクシャへ」


 美しい白に羽先が黒い翼をゆっくりと羽ばたかせて俺達の前に降り立った大柄の鳥人は、人懐っこい笑みを浮かべて歓迎してくれたのだが、種族としての特徴なのか目の周りに赤い模様が描かれていて、思わず威圧された気分になった。


「私は領樹への案内人です。領樹へ御用でしたら直ぐにご案内致します」


「そうかい、じゃあお願いするよ」


 申し出にロザリアが応えると、案内人もまた快く応じてくれた。

 カサパジェスに着いた時から薄々感じてはいたが、鳥人には友好的な者が多いようだ。多人種との交流が疎遠になっているご時世だというのに、よく警戒心もなく接せるものだ。しかし、案内するとは言ったが、湖から領樹までは船どころか橋も見当たらない。一人ずつ案内人が運ぶなんてことはないと思うが……そもそも樹の中にどうやって入るのか。

 俺が疑問を浮かべていると、案内人は数メートルだけ飛び上がって湖の畔へ移動する。


「そちらに風や水飛沫が飛んで行く場合がありますので御注意ください」


 注意を促されたので自然と俺達は数歩後退する。案内人は翼を数回小刻みに羽ばたかせると、力を溜め込むように大きく翼を広げて一時停止した。


「ふん!」


 息み声と共に翼を水面へ叩き付けるように羽ばたかせると、風圧により水は巻き上げられ、直上の枝葉がざわめく。巻き上げられた水がしたたり落ちる音を聞きながら成行きを見ていると、程なくして重厚な作動音と共に湖が割れて領樹への道が現れた。


「どうぞ、足元に気を付けてお進みください」


 再び地面に降り立った案内人は現れた道の方へ手を翳しながら深く礼をした。

 大自然の中でいきなり文明的な装置を見せられて驚いたのは俺とアイラだけだったらしく、他の皆は特別変わった様子もなく道を進み始めた。


「あ……。アイラ、俺達も行こう」


 置いて行かれそうになったので、隣りで目を丸くしているアイラに手を差し出す。道は人がすれ違ってもまだ余裕がある程度には広いのだが、水中から出てきたということもあって濡れて滑りやすい。転んで怪我をしたり湖に落ちたりしたら大変だ。


「はい。ありがとうございます」


 差し出した手を嬉しそうに笑って握ってくれるので俺にも嬉しさが伝染した。

 領樹へ向かう途中に湖の中を覗いたが、特に生き物が生息している様子はなく、澄んだ水でも見通せない程に底は深かった。綺麗過ぎて恐ろしさを感じた俺は無意識のうちに喉を鳴らした。

 先を歩いていた皆が領樹に近付くと、今度は軽快な作動音と共に領樹の幹が、まるで自動ドアを彷彿とさせる動きで開く。これ、本当は樹の皮を被った人工物なんじゃないか?


 領樹の中へ入ると、俺の抱いた疑惑は確信に近いものとなった。樹の中を大きな円形に削り取った空間は、さながら巨大施設のエントランスホールだった。中心部に受付のカウンターが配置され、壁には等間隔で両開きのドアが四つ。カウンターと壁の中間にはいくつかの長椅子が置かれている。

 間違いなく作られた物だよな。それにしてもこんな巨大な建造物を造る鳥人の技術力は凄いな。アジュフェの街並みを見た感じだと人間と同じぐらいの技術力だと思ったが、こんな光景を見たら考えを改めなくてはいけないな。

 

 ホール内に居るのは勿論鳥人だけだったが、歳や格好は様々なものだった。カウンターやドアの近くには正装の鳥人。長椅子に座って話し込んでいるのは平民風だったり、戦士風だったりする。広いスペースと高い天井を良い事に遊び盛りの子供が飛び回って親に怒られている様子も見られた。

 珍しい人間の来訪に鳥人達は一様にこちらへ視線を向けて来たが、それも一瞬だけで、直ぐに自分達の世界に戻った。


「こんにちは。遠方よりご来訪頂きましてありがとうございます」


 カウンターへ足を運ぶと、小奇麗な受付嬢が丁寧に対応してくれる。


「ヴィート大司教に取り次いでもらえるかい?フィアタが天子を連れて来たって言えば分かる筈さ」


「かしこまりました。フィアタ様ですね、少々お待ちください」


 受付嬢は一礼すると一旦座り、カウンターの内側でヴィート大司教へ連絡を入れてくれた。天子の名を出されても全く動じない辺り、こういった対応には慣れているのだろう。


「フィアタ?」


 対談の許可が出るまで少し時間がありそうだったので、先ほどロザリアが口にした聞き慣れない名前について聞いてみる。


「アタシのコードネームだよ。あんたがそっちで呼ぶ場面は無いと思うから覚えなくて結構」


 つまらないことを聞いてしまったと少し反省。ヴィート大司教に何を聞かれるか予想でもして待っていようと思った矢先、受付嬢が立ち上がり、変わらず愛想の良い笑みを向けてきた。


「お待たせ致しました。フィアタ様、ヴィート大司教が直ぐにお会いするとのことなので、あちらの第一昇降機より、頂上フェリチダ大聖堂においでください」


 手で指し示されたのはカウンターの奥の壁にあるドアだった。どうやらホール内の四方にあるドアが昇降機になっているようだ。

 受付嬢に礼を告げてから案内された昇降機の前に行くと、今度は優男風の鳥人が声をかけてきたので、ヴィート大司教と対談する旨を伝えて昇降機に乗せてもらう。

 昇降機とは言ったが、内装は木に包まれた小部屋で十五人ぐらいなら余裕で乗れるスペースがあった。床には不思議な模様が描かれており、この模様が黄色に発光すると心地良い浮遊感に包まれた。


「なんだか妙な感覚だけど、これも紋章魔法の一種なの?」


「いや、紋章魔法はレゲネラツィ独自の物だから違うね」


 それもそうか。模様が何か役割を担っていることは確かだろうが、だからといって直ぐに紋章魔法と結びつけるのは短絡的だったな。


「恐らくこれは聖術です。どうやって発動させているのかは分かりませんが」


 この領樹には大司教が居るのだから、ネイトの言う通り聖術である可能性が高い。けど、確か聖術って祈りによって発動する術だから、今のように自動で発動させるには何か隠し要素があるのだろう。


「うーん、術って奥が深いんだなぁ」


 術については主に戦闘で使用されている印象が強かったので、こうして生活の一部として使用されているのを見ると感慨深い気持ちが湧いてくる。エウメプでも術を日常生活に利用すれば便利になると思うんだけど、あんまり便利になりすぎると列車や電話など、漸く普及し始めてきた旧世界の科学の価値が下がってしまうだろうし、難しいところだな。


「わたしにも使える術ってあるんでしょうか」


 珍しく自国の発展に頭を悩ませていると、アイラの呟きが耳に入った。


「紋章」


 すかさずアメリーが詰め寄って来て赤色の紋章を握らせる。


「え?ど、どうやって使うんですか?」


「……?」


 使い方を聞かれたアメリーが何故か首を傾げる。教えられないのに勧めるなよと心の中で突っ込みを入れると、今度はネイトが二人に歩み寄った。


「そんな怪しげな術よりも聖術の方がアイラには向いています。使い方も簡単なので私と練習しましょう」


「むっ!」


 紋章魔術を蔑ろにされたからか、アイラを取られそうになったからかは分からないが、アメリーはあからさまに不機嫌そうな表情でネイトを睨み上げた。


「こら!これから大事な話しをするってのに喧嘩するんじゃないよ」


 一触即発の空気になる寸前でロザリアが仲裁に入ってくれた。同時に体に掛かっていた浮遊感も消え、昇降機が目的の階層に着いたことを教えてくれた。


「そうそう、術の話しはまた今度にしてヴィート大司教へ会いにいこう」


 状況に便乗して昇降機を降りるように促すと、何故かネイトとアメリー両方に睨まれてしまう。そんな様子をみてうんざりしたのか、ロザリアは髪を掻き上げてさっさと昇降機のドアを開けて出て行ってしまう。カイムも無関心に通り過ぎて行くかに思えたが


「……水晶魔法もあるぞ」


 さらっと宣伝していった。しかもその宣伝が鎮火しかけていた火に油を注ぐ形になってしまったようで、再びネイトとアメリーが静かに、重く互いを威嚇し始めた。オロオロとしているアイラの手を取ってこっそりとその場を離れようとしたが、神経を研ぎ澄ませた戦士を相手に一般人が逃げれる筈もなく、捕まった上に何故か二人から糾弾されてしまう。


 結局、アイラの取り合いは痺れを切らしたロザリアの怒声によって一時休戦となった。



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