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輪廻転世ルクスフェロー  作者: 一丸一
第5章〖人間に堕とされた神〗
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第60話

 坂道を上り切ると直ぐにロザリアが目指していた店に辿り着いた。

 何の変哲もない海鮮料理店に見えて、実は裏でレゲネラツィと繋がっている……ということはなく、本当にただの食事処であった。坂の上なだけあって景色は良く、対になるように広がる海と平原を一望することができる。

 平原には嫌でも目に付く程の大樹が勇壮と立っていた。よく見ると大樹の近くには鳥人が数名確認でき、樹の上で何か作業をしているようだが、枝や葉で隠れていて何をしているかまでは分からない。

 

「やっぱりあの樹が気になるかい?」


 海鮮料理を美味しそうに食べながらロザリアが尋ねてくる。


「うん。もしかして、あれを見せたくてこの店に来たの?」


 店内に目立った物は無く、周りの景色も見晴らしが良いだけで特に気になる物はない。となれば、注意は自然と大樹へ向けられる。


「ああ、そうだよ。ああいった大樹は空翔籠くうしょうろうの発着場として各町に立ってんのさ」


「くう、しょう……?」


 初めて聞く言葉に疑問符を浮かべるが、発着場というのだから何か乗り物でもあるのだろう。各町に大樹があるということから、鉄道に似た役割を担っていると予想する。


「空、翔、籠!初めて聞くだろうから疑問に思うのも仕方ないけど、そんなあからさまに呆けた顔しないでくれよ」


 そう言うロザリアは呆れを隠そうともせず、額に手を当てて首を軽く振った。

 そんなに間の抜けた顔してたのかな。自分の様子を確認しようと、隣りに座っていたネイトへ小首を傾げながら視線を向けると、ネイトは俺の視線を受けると黙ってロザリアの方を向いた。


「その空翔籠というのはどういった物なのですか?」


 会話のバトンを渡したと誤解させる結果となった。俺の意思を汲み取ってもらえなかったのは少し残念だが、そもそも俺がどんな表情をしていたかなんてどうでもいい話しだ。


「鳥人が客を籠に乗せて別の町まで運んでくれるのさ。詳しいことはこの後、乗った時に確かめな」


 籠に乗って、ねぇ。なんだか随分揺れそうなイメージがするけど、交通機関として成り立っているのだから変な心配は無用か。


「でも、そんなに堂々と動いて大丈夫なの?多分、この国でも俺は指名手配されてると思うんだけど」


 もっと人目につかない道や移動法があるだろうに、わざわざ目立つルートを選ぶ必要があるのだろうか。実は、今こうして食卓に座っている間にも、教会に見つかってしまうのではないかと不安で落ち着かない。


「大司教」


 アメリーがこちらには目もくれず食事に勤しみながら呟き、ロザリアが補足の為に続く。


「この国の大司教はちょっと変わり者でね、実害を与えなければ問答無用で捕まえるようなことはしてこないよ」


「はぁ……?」


 相槌を打ったものの、いまいち理解ができていない。元ではあるがツァピン司祭も大司教であったにも関わらず、教会の思想に従順な感じではなかったようだし、大司教というのは変わり者が多いのだろうか。


「身の安全も、バアルの居場所もアタシらに任せて、あんたは自分の目的に集中しな。あんたにしか出来ない事なんだからさ」


「……うん、ありがとう」


「お礼を言うのは、この国で無事に目的を果たしてからにしなよ」


 ロザリアが肩を竦めて見せるが、これは呆れというより照れ隠しで言ったのかな。少しばかり視線が泳いでいる。

 五人も仲間がいるのだから、俺が全部を懸念する必要はない。所属や共に過ごした時間がどうであれ、仲間であることに変わりはない。信じよう。

 両肩に乗っていた重りが消えたような解放感に、気分が清爽としてくる。よし、俺も料理を食べてみるか。

 気持ちを切り替えて箸を伸ばすも、そこには数分前に見た海鮮料理は存在しなかった。肩透かしを食らい、虚しく空を摘まむ俺に向けられる沈着な眼差し。


「遅い」


 どうやらアメリーと信頼関係が築けるのはもう少し先になりそうだ。




 海鮮料理店を出ると、炎暑の日差しが服の上から肌を焼いた。船を降りてからここに来るまで、さほど歩いていないのもあるが、やはり意識が別の所に飛んでいて暑さを忘れていたのだろう。季節も然ることながら、このカサパジェスは熱帯と乾燥帯に位置しているので、これから毎日猛暑に照らされることを覚悟しておかねばならない。

 パーカーを脱ぎ、シャツの袖を捲ったところで暑さは変わらないが、じっとしていては余計に暑さを感じるので、皆を少し急かしつつ空翔籠の発着場へ向かった。

 ちなみに、俺とアイラは汗を浮かばせながら薄着になったわけだが、ネイトとカイムは普段と同じ格好で汗一つかいていなかった。同じ人間でも体の構造って全然違うんだな。





 発着場に着くと体格の良い鳥人達が籠や大樹の整備に汗を流していた。

 籠と聞いていたので、勝手に鳥籠のような物を想像していたが、実物は短冊状に加工された木材を組み合わせて作られた、言うなればバスケットの形をしていた。


「やあ、景気はどうだい?」


 ロザリアが近くにいた鳥人に話しかけると、相手は愛想の良い笑みを返してくれる。


「お陰様で整備不良とは縁のない仕事をさせてもらってやすぜ!」


 ここに来るまでも含め、客らしき人物は一人も目にしていない。籠の整備をしている者もいれば、大樹の太い枝の上で寝ている者もいる……暇なんだな。考えてみれば、翼を持つ鳥人の国にこのような交通機関の需要は低い。というか完全に国外の人間用に設けられた期間だな。


「そいつは安心だね。じゃあ六人が乗れそうな籠を用意してもらえるかい?隣町まで頼むよ」


「あいよ!ただいま!」


 威勢よく頷くと鳥人は翼を羽ばたかせて大樹の上の方へ飛んで行き、程なくして注文通り六人乗りの籠と数名の鳥人が降りて来る。人間が六人も乗れる程の巨大な籠を目にし、思わず苦笑いを浮かべると同時に不安が蘇ってきた。


「どうぞ、お乗りください!」


 籠の一部が開き、ロザリアとアメリーを先頭にして乗り込む。籠の中に入ると柔らかい木の匂いがし、未知の乗り物に対する不安が僅かに緩和された。籠の柵となる部分は俺の胸の辺りまでで、立っていれば景色を眺めることが可能であり、作りもしっかりしているので事故は起きなさそうだ。

 俺が入念に籠の安全性を確かめていると、上空で口笛が鳴った。


「それでは出発します!離着陸の際は揺れますが、この籠には大司教様の加護がかけられておりますので、快適な飛行をお約束します」


 籠から伸びた紐を体に結び付けた鳥人達が一斉に翼を羽ばたかせると、六人も乗っているとは思えない程、籠は軽い浮遊感を生じさせながら宙に浮いた。

 十メートル強浮いた所で籠は前進を開始。速度は船より少し遅いぐらいで、天井がないのに日差しの暑さが感じられず、鳥人の言う通り快適な飛行が出来そうだ。


「あの、わたしに何か?」


 外の景色でも眺めていようと思った矢先、後ろの方でアイラの声が聞こえる。


「気になる」


「うぅ……何がですか?」


 アメリーに詰め寄られても何とか踏み止まって話しをしようとするが、品定めする様に自身の周りを回られ、完全に

委縮している。


「魔力?封印?何故?」


「えっと、あの……」


「何歳?」


 正面に戻ってきたアメリーは足を止め、真っ直ぐに向き直る。さっきまでの質問を飛ばして答えていいものかと、アイラは少し悩んでから小さく口を開いた。


「十一歳です」


「ん」


 年齢を確認したアメリーは頷いてからアイラの頭に手を伸ばす。何かされると思い、反射的に目を瞑ったアイラだったが、頭部が感じたのは優しく手が置かれる感触だった。恐る恐る目を開けると、無表情のままのアメリーと目が合う。


「頼って良し」


「は、はい……?」


 何だかよく分からないが、少なくとも剣呑な雰囲気はなく、友好的な関係が取れたと見て良いだろう。

 アイラの頭をポンポンと軽く叩くと満足したのか、アメリーは柵に寄り掛かりながら事の成行きを見守っていたロザリアの傍らに歩いて行った。

 未だ状況が整理出来ていないアイラは左右に首を傾げていたが、やがて様子を伺いに来たネイトに引き連れられて行った。

 うーん、やっぱりアメリーの性格が掴めない。そういえば二人は何故レゲネラツィに所属しているのだろうか。所属する前はどこで何をしていたのか。聞きたいことはあるが、他人の過去はそう気安く聞いて良いものでもないし、俺も聞いてばかりいないで今後の事を少しは考えるとしよう。

 緩やかに流れる景色に視線を戻し、意識を自分の内側、ルシファーへと向けた。



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