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輪廻転世ルクスフェロー  作者: 一丸一
第5章〖人間に堕とされた神〗
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第59話

 全員の自己紹介が終わるとヘルムートは船内に戻って行く。あちらはあちらで用事があるらしく、今日一日はアジュフェに停泊しているそうだが、用も無く会いに行く必要はないだろう。

 ちなみに、今回の自己紹介でようやくアガリアレプトと対面することが出来た。容姿は長身の痩せ型。黒の短髪は綺麗に七三に分けられ、黒地に薄紫色のストライプが入ったスーツをきっちりと着こなしている。話し方も丁寧で、とても悪魔とは思えなかったが、細い顔立ちには不釣り合いな、やや大きめの口から覗く鋭い牙を見て考えを改めさせられた。

 

 ロザリアに連れられて桟橋を渡り、出入国管理所に案内される。管理所といっても大仰なものではなく、簡易的な受け付けと門があるだけで、管理人の鳥人も気さくな笑顔で俺達を迎え入れてくれた。レゲネラツィの手回しがあるとはいえ、ほぼ顔パスで通過できたことに胸を撫で下ろしながら、晴れてカサパジェスに入国を果たす。


「早速だけど、これからのことについて……」


 話そうと思ったのだが、港を忙しく行き交う鳥人達に目と意識を取られてしまう。

 一言に鳥人と言っても、その容姿は様々だ。鳥をそのまま人間の大きさにリサイズした者から、人間の背中に翼が生えただけの者まで多種多様に存在している。


「ぷっ、ふふ……慣れない土地でそう急ぐものじゃないよ。ここじゃ落ち着かないし、どこか座れるところを探そう」


 おのぼりさん状態で落ち着きのない俺の耳に、ロザリアの軽い笑い声が妙に印象深く残った。仕方ないじゃないか、珍しいものは珍しいんだから。

 恥ずかしさで少し熱くなった顔を落ち着かせてから、先に歩き出したロザリア達を追いかける。

 

 歩きながら街並みを眺めていると、なんだか肩透かしを受けた気分になった。鳥人国家というものだから、もっとこう大樹を掘って生活圏を確保しているイメージを持っていたのだが、建物の外観や商店の位置取りなどがエウメプと大差ない。鳥の血が流れているとはいっても、やっぱり人間としての感性や知能の方が濃いのかな。

 俺が勝手な感想を思い浮かべていると、ロザリアは慣れた足取りで坂道を上り出す。「どこか」と言っていたが、予め目的の場所を決めていた、そんな様子だ。丁度いい、街並みを見るのも飽きてきたし、ロザリアに話しかけてみよう。

 歩く速度を上げ、先頭を歩くロザリアに並ぶと、こちらの存在に気付いて視線を向けてくれた。


「これって、どこか行く場所は決めてあるのか?」


「安心しなよ、何も怪しい所に連れて行くわけじゃないさ。ただ、あんたらに見せたい物があるんだ」


「見せたい物?」


 小首を傾げて考えてみるが、皆目見当がつかない。悩んでいる俺を見て、ロザリアはクスクスと笑っている。そこで俺の注意を引いたのは、ロザリアが首の後ろを通して両肩に乗せている、布に巻かれた長い物体だった。


「ん?これが気になるかい?」


 視線に気付いたロザリアが不敵な笑みを向けてきたので、何となく会話の展開が予想できたのだが、ここで否定してもつまらないので素直に肯定する。


「これは後々嫌でも分かるだろうから、その時を楽しみにまってなよ」


 やっぱり簡単には教えてくれないか。俺が笑って相槌を打つと、今度はロザリアの方から話題を振ってきた。


「あんたって、意外と神経が太い方?」


「え?そうでもないと思うけど、どうして?」


 何か変わった言動でもしたかと思い、アジュフェに来てから今までのことを思い出すが、これといって特別なことはしていない。


「だって、あんたからしたらアタシらは敵側の人間だったんだよ。そんな相手に家族をダシにされて協力させられて、けど、あんたはこうして何食わぬ顔でアタシと話してる。それが少し意外だった」


 そのことか。多少なりとも意識しないように気を付けてはいるが、レゲネラツィと手を組む経緯に関してはどちらかと言えばあまり気にしていない。もう選んで歩き出した道だ。今更この選択について考えるよりも、先にある可能性を信じ、目的を達成させることに集中するべきなんだ。


「うーん、俺を襲っていたのはヘルムートの独断だったわけだし、クオリアには二回助けられている。そもそも二人とは初対面だから、あんまり敵って認識は無かったかな。それに、相手のことを知ろうともせずに距離を置くのは……虚しいから。いがみ合うのは仲良くなる努力をしてからでも遅くはないさ」


 最後の方はおどけた調子で言ってみたものの、ロザリアは感心した様に声を漏らした後、屈託の無い笑みを浮かべた。


「初見じゃ少し頼りなさそうって思ったけど、ここはしっかりしてるじゃないか。あんたみたいなの、アタシ結構好きだよ」


 軽く握った拳で胸を小突かれるよりも、美女に好意的な言葉を告げられたことの方が心臓に与えた衝撃は大きかった。例え性的な意味での「好き」でなくとも、俺が顔に熱を感じ、視線を泳がせるには十分すぎた。


「告白」


 俺の様子に異変を感じたロザリアが口を開くより早く、直ぐ後ろを歩いていたアメリーから淡白な声が投げられた。


「ち、ちち違うよ!今のは単に仲間としての、す……アレで!他意はないからね!」


 ロザリアが頬を紅潮させて取り乱すが、元凶となったアメリーはどこ吹く風といった様子で先に歩いて行ってしまう。異議を唱える対象を失ったロザリアが短い唸り声を上げながらこちらを睨んだ。


「変な勘違いも期待もしないこと!いいね!!」


 噛みつく勢いでそう告げると、ロザリアは逃げる様に駆け出してアメリーを追った。


「はは……からかわれるの苦手なんだな」


 アメリーに追いついたロザリアが必死に不服を申し立てている様を見て、思わず苦笑する。


「この短時間の間に随分と友好的になったのですね」


 早口に、そして早足でネイトが俺の横を通り過ぎて行く。パッと見、様子に変化は無かったので気のせいかもしれないが、掛けられた言葉にはどこか棘があるように感じた。

 苦笑すら消え、足を止めて表情を曇らせる俺をアイラが心配そうに見つめてくれたが、上手く言葉が見付からなかったのだろう、会釈をしてネイトの後を追って行った。


「人数が増えた分、楽なこともあれば辛いこともある。あまり深く考えすぎるな」


「うん、そうするよ」


 言葉と共に背中を押してくれたカイムの手が、妙に温かく感じた。


「そういえば、カイムに謝るのを忘れてた」


 歩き出すと同時に思考も一新。船内で目覚めてから色々有り過ぎて忘れていたことを思い出す。


「謝る?何をだ?」


「ゴードヴィッドでの戦闘からこのアジュフェに着くまでのこと。面倒なことに巻き込んでいるのに、大事なことは何も相談しないで勝手に決めて、本当にごめん」


 歩き出して直ぐであったが、足を止め頭を下げる。天使との戦闘に巻き込んだだけでなく、敵対していたレゲネラツィと協力しなければならない。この現状に対し不満を抱いている可能性が高いのは、俺よりカイムの方かもしれない。厭味の一つや二つ、なんなら一発殴られる覚悟はしている。


「私が明確に協力できるのは戦闘ぐらいなものだからな、気にするな。レゲネラツィに協力するのは納得し切れていないところもあるが、今まで居所が知れなかった相手にやっと接触できたのだ。エフィムに感謝することはあっても、謝罪されるようなことは何も無い」


 いつもと変わらない落ち着いた口調で告げられ、俺はゆっくりと顔を上げる。見慣れた冷静な眼差しが俺を見据えていることに、不思議と安堵した。


「私のことは気にせず、自分自身やネイト達のことを考えていろ。楽な旅には成り得ないのだから」


 カイムも俺の仲間なのだから、気にしないわけにはいかない。そう言おうとしたが、声にはならなかった。カイムの言う通り、俺の選んだ道は決して楽じゃない。絶対者である神を、正義である天使を、世界である教会を相手にした旅だ。正直、自分のことで精一杯……と言うのすら淀んでしまう状況で、他人の心配など愚かにも程がある。

 ここで無理して笑ったところでカイムには何の意味も成さない。そう判断した俺は気を引き締め直し、だが空気を張り詰めさせることはせず、真っ直ぐに前を、カイムではなく先に広がる道を見た。


「気にするなって言って欲しかったわけじゃないけど、ありがとう。俺は俺の選んだ道を進むことに集中するよ」


「そうだ。自分と自分が信じたものを疑わず、真っ直ぐ進んで行けば良い」


 俺とカイムは頷き合い、もう随分と先に行ってしまった四人の背中を追いかけた。



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