表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輪廻転世ルクスフェロー  作者: 一丸一
第3章〖絶対的な悪〗
46/85

第46話

 地表に照り付けていた日差しが幾分和らぎ、動きやすくなったにも関わらず、俺とアイラは人通りの少ない路地を手を繋いで歩いていた。会話もなければ和やかな雰囲気もない、見方によればアイラが俺に無理矢理連れられていると思われるかもしれない。日が暮れるまで多めにみても三時間弱ほどしか無いというのに、俺はただ闇雲に街を歩いていた。

 俺がアイラと一緒に街を歩かせて欲しいと頼んだ時、始めは不満そうにしていたブレーンス司教だったが、何度も強く頼み込んだ結果、見張りを連れて行く事を条件に承諾してくれた。見張り役は近くにいた丸眼鏡のシスターとネイトに任せられた訳だが、正直言って不適任だと思う。あまりガチガチに見張られても歩きづらいので、こちらとしては助かるのだが、教会側としてはどうなのだろうか。可能性は低いが、ブレーンス司教が気を遣ってくれたのかもしれない。

 今、見張り役の二人は俺達の遥か後方にいるが、これはネイトの計らいだろう。見失うのではないかと心配になるが、徽章があればそれはないので構わず歩き続ける。


「あ、あの……」


「うん?」


 何も考えずに歩いていた為、アイラに呼び止められたのに素っ気ない返事をしてしまう。


「家に……いえ、昔家があった場所に行ってみたいのですが、ダメですか?」


 控えめに尋ねられた内容に、俺は頭を強く叩かれた気がした。アイラにとってテイングは産まれ故郷なのだ。過ごした時間は少ないかもしれないが、思い出は確かにある。折角貰った少ない時間を、どうして無駄に使っていたのか。反省するのは後にして、今はアイラの行きたい場所に向かおう。

 俺は一度アイラの手を離して深呼吸を一つし、両手で思い切り自分の顔を叩いた。


「ど、どうしました!?」


 アイラが驚きつつも心配してくれるので、俺は努めて明るく笑って見せる。


「よし!ごめんね、変に歩かせちゃって。アイラの家に行こう!」


 そう言って俺はアイラを抱き上げ、光りをもたらす者チェージディ・アルチェンズィを発現させた。ルシルの許可を貰った訳でもないのに、不思議なくらい自然に力を出す事ができた。サンヤスクの時みたいに服装が変わっていないので全開ではないのだが、街中を跳び回るには十分だ。

 俺は跳躍して屋根を跳び移って行き、駅の近くまで戻ってきた。というのも、街を見渡した方がアイラも場所の把握がしやすいと思い、高所を目指していたら自然と駅の近くに辿り着いたのだ。

 前にアリナと共に街を一望した時計台に上り、アイラにテイングを見渡させる。西日が屋根や窓ガラスに反射して目を刺激するので、時々眩しそうに目を細めているものの、アイラは感慨深そうににテイングの町並みを瞳に焼き付けていた。


「まさか、町をこんな風に見られるなんて思ってもみませんでした」


 一頻り町を見渡した後、アイラが静かに呟いた。妙に感傷的な気分になってくるのは、アイラがもう少しで外の景色を見れるかも分からない所に幽閉されるからだろうか。俺がどう反応を返したら良いか考えていると、アイラがある方向を指差した。


「家があったのは向こうの、大きいお屋敷がいっぱい建っている辺りです」


 アイラが指し示したのは町の北東、上流居住区の方だった。そういえばブレーンス司教がアイラの家は没落したと言っていたし、アイラの父親は爵位持ちだったのだろうか。まぁ、今アイラの家柄を訪ねても意味はないだろうし、時間は限られているので急いで上流居住区へ向かおう。


 屋根と屋根を軽々と跳び移って行くと、ものの数分で上流居住区の前に辿り着いた。下に誰もいないのを確認してから屋根を跳び下り、抱きかかえていたアイラを下ろす。


「ここからは歩いて案内頼める?」


「はい、大丈夫です」


 しっかりと頷いた割りに、アイラは中々歩き出そうとせず、ちらちらと俺の方を見ては自分の手をコソコソと動かしている。もしかして俺の体に何か変な物が付いているのかと思って見てみるが、特別変わった様子はない。


「どうかしたの?」


「あ、え……っ!!」


 アイラが何を気にしているのか分からなかったので素直に聞いてみると、アイラは一瞬だけ慌てた後に僅かに頬を紅潮させて俺の手を握ってきた。いや、握ったというのはあまりにも控えめなので、指先を抓んだと表現した方が適当か。どちらにせよ、アイラが手を繋ぎたがっているのが分かったので、俺はアイラの手をしっかりと握り返してやる。


「さぁ、行こう」


 手を繋ぎたいなら素直に言えば良いのに。と思ったが、口には出さないでおこう。言ってしまえば、控えめな性格のアイラをきっと気落ちさせてしまうだろうし、何年も誰にも頼れない地下で監禁されていたのだから、自分の意思を素直に出せなくても無理はない。アイラの過ごしてきた境遇を考慮せず、平穏な人生を過ごしてきた俺が、当たり前だと感じることをアイラに向かって口にするのは無神経というものだ。


「はい!」


 安堵の笑みを浮かべたアイラは、繋がれた手を見て笑顔を一層輝かせた。手を繋いだだけでこれだけ喜ばれるなら、いつでも繋いであげたいと思うが、俺とアイラに与えられている“いつでも”は、もう僅かな時間だけなのだ。無邪気に笑って歩き出したアイラに気付かれない様に俺は下唇を噛んだ。


 何度か迷子になりかけたり、誤って他人の家の庭に侵入しそうになったりしながら石畳の道を歩いて行く。以前はアリナと一緒だったので分からなかったが、この上流居住区は開けた道が多いにも関わらず妙に歩きづらい。というのも、屋敷一軒ごとの敷地が一般的な一軒家の三倍程度なのだから、回り道もそれ相応に長くなる。回り込んだと思ったら倉だか何だか分からない建物があって行き止まり、なんて事もあった。

 昔住んでいたとはいえ、四年前の厄災の所為もあって街並みがかなり変わっているらしく、アイラも大分まごついていた。あまり目立ちたくはないが、この際仕方ない、跳んで探そう。そう思って光りを呼び起こそうとした瞬間、俺の背後から思わぬ救世主が声をかけて来た。


「天子、様?」


 聞いた事のある声に驚きながら振り向くと、そこにはプルオーバーの白いブラウスに、藍色のラッフル・スカートを纏ったアリナが立っていた。今日は緩いウェーブの長髪を、ポニーテールにしているので一瞬人違いかと思ったが、上流居住区で俺を天子と知って声を掛けて来る人物はアリナぐらいだろう。

 突然の再開に喜びよりも驚きが勝ってしまい、俺は言葉を出せずにいたが、アリナは嬉しそうに頬を紅潮させて優雅に歩み寄って来た。


「やっぱり、天子様ですわね。お久しぶりですわ」


「あ、うん……久しぶり。ごめんね、また街を一緒に歩くって約束したのに勝手にいなくなって」


「そんな、天子様が謝らないでくださいませ!わたくしの方こそ、天子様のご厚意に甘え過ぎて申し訳ありませんわ」


 アイラの事で頭が一杯で、アリナとの約束を反故にした事を忘れてしまっていた。俺がバツの悪そうに謝ると、アリナは何倍も丁寧に謝り返してきた。明らかにこちらに非があるのだが、今ここで謝罪の応酬をするのは時間が勿体ない。こちらの都合に付き合わせるようで気が引けるが、話題を変えさせてもらおう。


「話しが変わるんだけど、アリナはルベイル家の屋敷がどこにあったか知ってる?」


「ルベイル家と言いますと、あの厄災の元凶となった家のことでしょうか?それならばご案内できますわ」


 アリナの申し出にありがたく応じようと思ったのだが、俺の右手が一瞬だけ強く握られ、意識をアイラの方へ移す。いつの間にか俺の後ろに隠れる様に立っていたアイラは、とても不安そうに俺の顔を見つめていた。

 四年前ならば当然アリナも厄災に遭った筈だし、天使への信仰が強い彼女が悪魔を宿しているアイラの事を知ったら、とてもじゃないが穏やかな雰囲気にはならないだろう。アリナには申し訳ない状況が続くが、アイラを最優先にさせてもらおう。


「申し出は本当に嬉しいんだけど、その……今はこの子と二人でルベイル家が在った場所にいかないとなんだ。場所だけ教えてもらえないかな?」


 うわぁ、相手の善意を断るのって凄い気分悪いな。押し付けがましいものならまだ断りやすいのに、アリナは純粋な善意で案内役を買って出てくれたのだから、申し訳ない気持ちが溢れて止まない。

 

「訳ありのようですわね」


 アリナはとても残念そうに眉尻を下げつつも、道順とルベイル家が在った場所には今、慰霊碑が建っている事を教えてくれた。


「ありがとう。助かったよ」


「いえ、天子様のお力になれて光栄ですわ」


 そうは言ってくれるものの、やはり共に行動できなかった事や、アイラの存在が気掛かりなのだろう。アリナの表情は暗かった。


「ごめん。きっといつか理由は話すし、一緒に街を歩くのも絶対に忘れないから……」


 俺は軽く握った左てから小指だけを立ててアリナに差し出した。アリナは最初、俺の動作がなんなのか分からない様子だったが、数瞬後に気付いて慌てて俺の小指に小指を絡めてきた。


「約束。今はこれで我慢してくれないかな?」


「あ……い、いえ。ががが、我慢なんて!わたくし、なら大丈夫、ですわ!」


 絡めた小指を軽く揺すると、アリナは顔全体を真っ赤にして指を切り、右手で大事そうに左手を包みながら俺達を見送ってくれた。

 うーん、上流階級の人間が指切りをするのは恥ずかしかったのかな?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ