表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輪廻転世ルクスフェロー  作者: 一丸一
第1章 〖天子になった少年〗
14/85

第14話

 中学校から教会まで走って四十分といったところだが、今の俺の体は随分と痛んでいる。もう少し時間が掛かるだろうが、それでも行かねばならない。


「そんなに急ぐなよ。普通に走ったんじゃ遅すぎる」


 俺が走り出した瞬間、ルシルに肩を掴まれる。走る以外の移動手段が無いのにどうしろと言うのだ。ルシルは霊体化すれば飛べるが、それでは俺を運ぶ事ができない。


「俺とお前は一心同体。もう少し俺の力を頼れっての」


 ルシルはそう言うと俺の体に憑依する。すると、俺の体が淡い白の光りに包まれ、自分の体とは思えない程に軽くなった。


「(少し体借りるぞ)」


 体の変化に驚いているとルシルの声が頭に響き、気付くと俺の意識は肉体から少し離れたところに追いやられた気がした。ルシルに体を取られたと思うや否や俺の体は高く跳躍し、校門を跳び越えた。そして、まるで着地の衝撃などないかの様に走りへ移行した。


「(おい、そっちに道は無いぞ!)」


「教会はこっちだ!」


 道外れの森に突っ込もうとするので俺は思わず叫ぶが、ルシルは意に介せず木々の間を縫うようにして走る。確かに方角的には教会に向かっているが、夜の森を高速で走り抜けるなんて滅茶苦茶だ。


「ちゃんと見えてるから安心しろって」


 確かに視覚は妙に明るく感じ、進行方向にある木や段差などを的確に避けているのだが、普段感じることのない速度で視界が動くものだから不安でしょうがない。

 暫く森を走っているとルシルは突然大きく踏み込み、跳躍したと思うと視界が一気に開けた。


「ここまで来れば後はお前でも行けるだろ、交代だ!」


 ここまでって、空中なんですけど!?地面まで二十メートル近くありそうなんですけど!?

 俺が狼狽えているのもお構いなしにルシルは体の制御を渡してきた。初めて感じる落下速度に自然と体が強張る。


「うわああああ!!」


「(おい、あんまり力むなよ!自然体で流れるように次の動作に移るんだ!)」


 自然体で流れるようにって、いきなり空中に放り出された人間にそんな武術の達人みたいなことが出来るわけがないだろ。俺が困惑していると再びルシルの声が脳内に響く。


「(地面に足が着いたらすぐに走り出せ!急ぐんだろ、妹のところに!余計なことは考えるな!)」


「分かったよ、とにかく止まらずに走れば良いんだろ!」


 こうなったら腹を決めよう。そう思った俺の視界に映った着地点は地面ではなく民家の屋根だった。これって、大丈夫なのか?屋根を突き破るなんて事はないよな。

 心配している間に俺の左足の爪先が屋根に触れる。透かさず右足を出し、前進する。すると高所から落ちてきたとは思えないほど静かに俺は屋根の上を走り出した。驚くのはそれだけではなく、体全体が軽くて一歩一歩がまるで飛んでいるようだった。屋根から屋根へ飛び移るなんて造作もなかった。このまま最短距離で教会へ向かえば十分もあれば着くだろう。待っていろよ、マルカ。

 住宅街は二階建ての民家が多くて移動しやすかったが、大通り付近は高さ違うビルが障害になってくる。今の俺がどの程度の身体能力になっているか分からないので、ビルを跳び越えるような無理はしない。適当に飛び移りやすそうな建物を見繕って行く。これでも十分すぎるほど早い。大通りを通り過ぎると再び住宅街が広がっている。もう少しだ。民家が少なくなってきたので、人気がないことを確認して道に降りる。このときも着地動作は取らずに走り続け、少しすると道が開け、月明かりに照らされる教会を視認できた。


「マルカ!居るか!?」


 俺が一度足を止めると俺を包んでいた白い光りは粒子状になって四散する。それと同時に急激な疲労が襲ってきたので思わず倒れそうになったが、今倒れるわけにはいかない。意識を強く持ち、足に力を入れてなんとか踏みとどまる。ゆっくりと深呼吸をすると幾分か体が楽になったので、辺りを見渡してマルカを探しつつ教会へ向かって歩き出す。


「エフィム?」


「マルカ!」


 陰になっていて見つけ難かったが、教会の脇にあるベンチにマルカがいた。悲鳴を上げている体を無理矢理走らせる。俺が近付くとマルカもベンチから立って駆け寄って来た。


「マルカ!探したぞ!」


 怒るつもりはなかったのだが思わず口調が強くなってしまい、マルカは泣きそうな顔で俯く。


「ごめんなさい……って、その怪我どうしたの!?また襲われたの!?」


 顔は痣だらけで着ていた制服は上下共に所々が破け、出血している。シャツなんかは何度も胸倉を掴まれたお陰でグシャグシャだ。正直酷い有り様だったが、今はそんな事を気にしている場合ではない。


「これは四年間を無駄に過ごした罰、かな」


 マルカは俺が何を言っているか分からないと顔で訴えかけていたので頭を撫でて落ち着かせてやる。


「エフィム?」


 こうしてマルカの頭を撫でるのは四年ぶりだ。マルカは赤く腫れた眼を見開いて驚くが、俺の手を振り払おうとはしなかった。今こそ、四年間の後悔を終わらせよう。俺はマルカの頭から手を離し、姿勢を正す。


「マルカ、四年前の聖徳祭でマルカに辛い思いをさせた俺はどんな償いをすれば良い?」


「え?」


 マルカは困惑している。流石にいきなりすぎたが、もう引き下がるわけにはいかない。俺は話しを続ける。


「あの日、俺が傍に居ながらマルカは変温症で命の危機に陥った。中学生の俺に出来ることなんて病院に運ぶことぐらいだったし、あの場で変温症が発症するなんて誰も予想出来なかった。分かっていたんだ、誰かを責める問題じゃないって……それでも!俺は自分の無力さを受け入れることが出来なかった!両親かマルカに咎めて欲しかったんだ。誰かに咎められることで自分はもっと出来る人間だと、誰かに期待されていると思いたかったんだ」


 俺の話しを聞いてマルカは小さく首を横に振り、喉奥から絞り出すように声を発そうとしたが今は最後まで俺に話させて欲しい。


「ごめんな、マルカ。四年間も逃げて、天使に殴り飛ばされてやっと現実と向き合う決心が付いたよ。俺は自分の無力さを受け入れる。そうしないと、いつまで経っても前に進めないからさ。だから俺はマルカに四年間の許しを請いたい」


 マルカを真っ直ぐに見据えて言い切る。するとマルカは眼に涙を溜めながら一度小さく息を吐いて答えてくれた。


「無力なんかじゃない、エフィムはいつだって私を守ってくれた。エフィムが悔やむことなんて何一つない!悪いのは、弱かったのは私なの……」


 涙を流すまいと必死に堪えていたマルカだったが、その意思に反して涙は勢いよく零れ落ちた。マルカは下を向いて両手で涙を拭うが、涙は止めどなく流れ続ける。


「あの日、エフィムが病室を出て行ったのを見て嫌われたと思った。悲しくて悔しくて、本気で自分が嫌いになったけど本気で弱い自分を変えたいと思ったの。エフィムに許されるまで、エフィムにまた家族として、妹として接してもらえるまでお兄ちゃんって呼ばないようにして、学校で嫌がらせをされても必死で勉強して、弱い体をどうにかしようと体力も付けたよ」


 なんてことだ、あのマルカが学校で嫌がらせを受けていたのか……いや、多分俺は心のどこかで気付いていたけど気付かない振りをしていたんだと思う。それだけじゃない、マルカが今の明朗快活、文武両道に成長したのは俺に許されたかったから?

 今になって気付かされるマルカの心意に俺はただただ驚くだけだった。


「それでもエフィムに許されるには足りなかったから、お父さんとお母さんに無理を言って遺跡に連れて行ってもらったり、歴史学を教えてもらったりして論文も書いたよ」


 俺が自分の無力さとマルカから逃げるのに対し、マルカは俺に認め、許される為に努力していたのか。だけど、もうこんな追い駆けっこは終わりだ。ルシルが俺を殴って逃げ道を塞ぎ、マルカへ向き直させてくれたから。正直、マルカの努力を聞いたら自分のクズさ加減は堪ったもんじゃないけどな。

 肩を震わせ嗚咽を繰り返すマルカに歩み寄り、出来るだけ優しく抱きしめる。マルカは一瞬体を強張らせたが、今まで必死に涙を止めていた心の堰が崩れたのだろう、俺の体を強く抱き返し声を上げて泣き出す。


「ごめんな。ずっと辛い思いをさせて、本当にごめん」


 聞こえているか分からないが、俺は謝り続けた。今の俺にはそれしか出来ないが、それだけでも続けようと思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ