第2部 第29話:『セツナの過去!? 暗殺組織(ギルド)から届いた「解体予告」』
「――カズマ。……これ。……マッスルマートのポストに入ってた。……組織からの通告。」
凪原市・陽だまり町201号室。
セツナが差し出したのは、真っ黒な封筒に入った一枚のカード。
文字はなく、銀色のドクロだけが刻まれている。
「これ、ただのトランプじゃないんですか? 映画の招待状とか」
「……違う。……契約。……ターゲットは私。……そして、この部屋の全員。」
白雪がガントレットでカードをスキャンすると、ホログラムの警告が真っ赤に点滅した。
「佐藤さん、これ大変よ! 未来まで名を轟かせる超時空暗殺ギルド『サイレント・デス』の最終宣告よ! セツナちゃんが組織を抜けて、ここで“お裾分け”なんてしてるのが、組織のメンツを潰したって……」
その瞬間、窓ガラスが割れる音すらなく、数条の赤いレーザーサイトがカズマの額に集まった。
「――セツナ。“掃除屋”のお前が、まさかターゲットを“お裾分け”する側に回るとはな。組織の規律は絶対だ」
ベランダに音もなく降り立ったのは、光学迷彩スーツに身を包んだ男。
執行官・ゼロ。
セツナに暗殺のイロハを叩き込んだ元上官であり、感情を持たない殺害機械。
「……ゼロ。……私はもう戻らない。……カズマの、おじやが……冷める。」
セツナが抜いたのはクナイではなく、暗殺者専用の高周波ブレード。
だがゼロの動きはそれを遥かに上回り、一瞬で背後に回り込む。
「感情はノイズだと言ったはずだ。この町の住人もろとも、存在を“削除”する」
ゼロが空間ごと物体を消滅させるディスインテグレーターを構えた、その時。
「ヌンッ!! 削除などと、私の広背筋が許さんッ!!」
大家・轟さんが、ゼロの背後から“ダブルバイセップス・ラリアット”を叩き込んだ。
「……何だ、この質量は!? 私のセンサーが、これを“人間”と認識しない……!」
ゼロの声が初めて乱れた。
「――あのさ、ゼロさん。そんなにピリピリして楽しいんですかね」
カズマが、ゼロの殺気の渦の中を、コンビニに新聞でも買いに行くような足取りで歩み寄る。
「……貴様、なぜ動ける!? 私の“殺気圧”を浴びれば、常人は心臓が止まるはずだ!」
「……あ、すいません。殺気とか“重い空気”、僕の脳が自動でスルーする設定みたいで。それより、セツナちゃんが戻りたくないって言ってるんだから、諦めてくれません?」
ゼロが苛立ち、超高速の暗殺突きを繰り出す。
しかしカズマは避けることすらせず、「あ、靴紐が」と屈んだ拍子に、すべての攻撃が空を切った。
「……スルーしただと!? 私のコンマ一秒の必殺を……!」
カズマの“覚醒スルー・パッシブ”は、敵意そのものを物理現象から除外していた。
どれほど鋭い刃も、カズマが「ま、いいか」と思っている限り、そよ風と同じ扱いになる。
「……ゼロ。……見て。……これが、今の私。」
セツナが放ったのは刃ではない。
よし江お母さん直伝の“隠し味スパイス”がたっぷり入った特製お裾分けおにぎりだった。
不意を突かれ、口におにぎりを放り込まれたゼロは、咀嚼した瞬間に膝をついた。
「……毒か? ……いや違う。……脳内の暗殺プロトコルが……溶けていく……。なんだ、この“実家に帰りたくなる”旨味は……」
白雪がガントレットから“ギルド脱退届・公認スタンプ”をゼロの額にパチンと押す。
「はい、これで手続き完了! セツナちゃんは今日から凪原市の“平和監察暗殺者”として再雇用よ!」
夕暮れ。
ゼロは「……この味、忘れてやる。……ただのエネルギー補給だ」と、長官そっくりのセリフを残して夕闇に消えた。
『……ニャア。(カズマ。……お前、気づいてねぇだろ。……お前が今日スルーした殺気のせいで、未来の暗殺ギルドの株価が大暴落して、全員が農業に転職し始めたぞ。……平和になりすぎだな)』
「農業、いいじゃないですか。セツナちゃん、新しいスパイスが手に入りそうですね」
カズマが笑うと、セツナは静かに頷き、血のついたブレードの代わりにしゃもじを手に取った。




