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第2部 第20話:『アパートに温泉が湧いた!? 大家さんの「筋肉地熱」大爆発!』

凪原市陽だまり町。 その朝、町全体が“かすかに揺れていた”。


地震ではない。 もっとこう……“筋肉の意志”みたいな揺れだった。


揺れの震源地は、アパート『マッスル・コート』の一階。 大家・轟剛三ごうざんの部屋。


「ヌンッ!! ヌンッ!! ヌンッ!!」


轟さんが極限まで追い込んだ“地割れスクワット”を繰り返すたび、 アパート全体が波打つ。 普通の建物なら三回目で倒壊している。


だが、白雪が事前に施した 『時空構造補強コーティング』 のおかげで、建物はギリギリ形を保っていた。


白雪は201号室でガントレットを操作しながら叫ぶ。


「轟さん! そのスクワット、地球の地殻にダメージ入ってるわよ!! もう少し優しくできないの!?」


「優しいスクワットなど存在せん!! 筋肉は常に全力!! ヌンッ!!」


その瞬間、床が“ドンッ”と跳ねた。 白雪のガントレットが警告音を鳴らす。


《警告:地底深部の温度上昇を検知。 原因:筋肉由来の熱量が地殻を貫通》


「ちょっと待って……地殻を貫通って何よ……!?」


白雪が青ざめる横で、 カズマはマッスルマートのレジに座り、 耳栓をつけたままのんびり言った。


「店長。床からシュンシュン湯気出てますね。 これ、冬なら加湿器いらずだなぁ」


「加湿器じゃないわよ!! それ、地熱よ!! 地熱!!」


白雪が叫んだ直後――


アパートの庭から、 「ドゴォォォォォン!!!」 という爆音が響いた。


地面が割れ、虹色の熱湯が噴き出す。


「わ、湧いたぁぁぁぁ!!」


轟さんが叫ぶ。


「筋肉の熱気が地熱と共鳴し、 純度100%のプロテイン温泉が湧き出たぞッ!!」


白雪はガントレットを高速操作しながら言う。


「これは……面白いデータだわ……! 空間拡張技術を使えば……いける……!」


カズマが首をかしげる。


「何がいけるんです?」


「決まってるでしょ。 アパートを――」


白雪のガントレットが光を放つ。


「――銀河一の温泉旅館にリフォームする!!」


数秒後。 凪原市の片隅に、 重力を無視して湯気が立ち昇る巨大な和風建築が出現した。


その名も――

『天然筋肉温泉・陽だまりの湯』


轟さんが胸を張る。


「ヌンッ!! これぞ筋肉と地球の合作!! 地球もワシのスクワットに応えてくれたのだ!!」

白雪は満足げに頷く。


「うん、これはもう……観光資源ね」


カズマは耳栓を外しながら言った。


「……まあ、いいか。 温泉できたなら、入るしかないですよね」


白雪が笑う。


「そうよ。 せっかくだから、未来人も宇宙人も呼んであげましょう」


その瞬間、空間が揺れた。


未来のゲートが開き、 宇宙船が降り、 異世界の扉が開き――


凪原市陽だまり町は、 “銀河規模の温泉街”へと変貌していく。


『天然筋肉温泉・陽だまりの湯』が完成して数分後。 すでに入口には、未来人・宇宙人・異世界人・近所のおばちゃんが入り混じった “銀河規模の行列”ができていた。


のれんの向こうから、低く鋭い声が響く。


「――次の方。問診票……いや、入浴前査定シートを」


番台に座っていたのは、 未来管理局の長官だった。


スーツをビシッと着こなし、 番頭の座布団に正座している姿は、 どう見ても“未来のエリートが間違った職場に配置された図”だった。


長官は鋭い眼光で客を見下ろす。


「過去300年間に時空犯罪歴はないな。 ……ない? よろしい。 では、次元間移動の副作用チェックを――」


「長官さん、番頭似合ってますね」 カズマがタオルを肩にかけながら言った。


長官は眼鏡をクイッと上げる。


「佐藤。これは安全管理だ。 温泉とはいえ、ここは“多次元交差点”だ。 油断すれば、客が別の時代に流される」


「そんな温泉ある?」


「ある。今ここに」


長官は指でロッカーを指した。


「……あそこを見ろ。 未来から来た密航者が、全裸で現代のタオルを盗もうとしている」


カズマはロッカーの影を覗いた。 確かに、未来スーツを脱ぎ捨てた男が “ふわふわタオル”を抱えて震えていた。


「……視認した。 ……忘れてくれ。 ただの“未来への忘れ物”だ」


長官は指先ひとつで密航者を別次元へ転送した。 (転送先は“反省室”と呼ばれる無重力空間らしい)

カズマは呆れたように笑う。


「長官さん、仕事の幅広すぎません?」


「私は万能だ。 番頭もできるし、査察もできるし、 ……湯温管理もできる」


長官が番台の横を見ると、 そこには一匹の猫――未来の“俺”が鎮座していた。


猫は肉球を差し出し、 低い声で言う。


「……ニャア。(入浴料は500円だ)」


客が小銭を肉球の上に置くと、 猫は「ポチッ」と肉球で確認。


「……ニャア。(釣り銭はない。……正確に払え)」


近所のおばちゃんが感心して言う。


「この猫ちゃん、銀行員より仕事できるわねぇ」


長官は誇らしげに頷いた。


「この猫は優秀だ。 未来の会計AIより正確だ」


「未来のAIより猫のほうが優秀ってどうなんです?」


「未来のAIは……融通が利かん。 猫は……利く」


カズマは笑った。


「未来の技術、負けてますよ」


「負けていない。 ……ただ、猫が強すぎるだけだ」


その時、のれんがバサッと揺れた。


巨大な影が現れる。


三つ目の巨人族が、 タオルを腰に巻いて立っていた。


「……コーヒー牛乳、一つ」


長官は即座に査定する。


「身長3メートル、体重400キロ。 湯船の水位が上昇する恐れあり。 ……佐藤、露天風呂に案内しろ」


「了解です」


カズマは巨人族を案内しながら言った。


「長官さん、完全に温泉の支配者ですね」


「当然だ。 私は未来管理局の長官だ。 温泉くらい管理できる」


「未来の長官って、もっとこう…… 時空の危機とか管理するんじゃないんです?」


「温泉も時空の危機だ」


「え?」


長官は真顔で言った。


「この温泉は、轟の筋肉が地殻を貫通して湧いたもの。 放置すれば、地球の地熱バランスが崩れ、 未来の気候に影響が出る」


「そんな大事なんです?」


「大事だ。 だから私は番頭をしている」


「理由が未来規模すぎる」


長官はのれんの向こうを見つめながら呟いた。


「……佐藤。 未来も過去も、温泉に入れば平和になる。 私はそれを信じている」


カズマは笑った。


「長官さん、意外とロマンチストですね」


「ロマンではない。 ……統計だ」


猫が肉球で「ポチッ」と音を鳴らした。


「……ニャア。(次の客、来たぞ)」


長官は番台に戻り、 未来の査察官らしい鋭い声で言った。


「――次の方。 入浴前査定シートを」


凪原市陽だまり町の温泉は、 未来と宇宙と異世界を巻き込みながら、 静かに、しかし確実に“銀河の中心”へと変貌していく。


『天然筋肉温泉・陽だまりの湯』の大浴場は、 すでに“銀河規模のカオス”と化していた。


湯気は七色に輝き、 浴槽は重力を無視して宙に浮き、 異世界の魔法陣と未来のホログラムが混ざり合い、 もはや“温泉”という概念の限界を突破している。


その中心で、白雪が湯船に浸かりながらガントレットを操作していた。


「佐藤さん! このお湯、ただの温泉じゃないわよ!」


カズマは肩まで浸かりながら耳栓を外す。


「え、そうなんです?」


「“ナノマシン配合・超音波バブル”を投入したの! 入浴者の疲れを細胞レベルで分解して、 “昨日の失敗”や“未来への不安”を水分子に変えて蒸発させる設定にしたのよ!」


「そんな設定あるんです?」


「作ったのよ!」


白雪は胸を張る。


湯面に浮かぶ無数の光の粒が、 入浴者のストレスを吸い取り、 “ポンッ”と弾けて消えていく。


近所のおばちゃんが感動して言う。


「まあ……このお湯、入った瞬間に腰痛が消えたわ…… 昨日の旦那への怒りも消えた…… あらやだ、私、優しい気持ちになってる……」


白雪は満足げに頷く。


「副作用として“優しさ”が出るのよ。 未来の温泉はこうじゃないとね」


その時―― 湯の底から“スッ”と影が浮上した。


「……。……。……お湯、……熱い。 ……暗殺者(アサシン)の……耐熱訓練……。 ……カズマ……背中……流す」


セツナだった。


潜水服のような黒い水着姿で、 湯の中から音もなく現れるその姿は、 完全に“温泉に潜む暗殺者”だった。


カズマは苦笑する。


「セツナちゃん、ありがとう。でもそのヘチマ…… なんか刃物みたいに尖ってない?」


「……鋭いほうが……汚れ……落ちる」


「背中の皮も落ちるよ!」


セツナは無表情のまま、 ヘチマを“スッ”と構えた。


白雪が慌てて止める。


「セツナ! そのヘチマ、未来素材でできてるから危険よ! カズマさんの背中が“スルー”して消えるわ!」


「……消える……? ……なら……やめる」


セツナは素直にヘチマを下ろした。


その横では、 露天風呂がさらにカオスだった。


銀河皇帝ゼノビアの親衛隊が、 湯船でくつろぎながら言う。


「……この湯、我が母星の液体酸素より心地よいな」


「液体酸素より心地よいって何……?」


白雪がツッコむ間もなく、 轟さんが湯船の中でスクワットを始めた。


「ヌンッ!! 湯船の中でスクワットをすれば、 浮力と水圧で筋肉が4次元的に成長するぞ!!」


親衛隊の一人が感心する。


「……4次元筋肉……? ……我々の文明には存在しない概念だ……」


「存在させるのだ!! 筋肉は次元を超える!!」


轟さんのスクワットに合わせて、 湯船の水位が“ドボンッ、ドボンッ”と上下する。


そのたびに、 宇宙人たちが波に揺られて転がる。


「……店長」


カズマがタオルを巻いたまま、 マッスルマートの裏口から顔を出した。


「宇宙人がゾロゾロと風呂上がりの牛乳を買いに来てますけど、 在庫足りますか?」


店長は冷蔵庫を見て青ざめた。


「足りるわけないだろ!! 三つ目の巨人族が一人で20本飲むんだぞ!!」


その横で、 三つ目の巨人が牛乳瓶を片手に言う。


「……コーヒー牛乳、もう一本」


カズマは“スルー・パッシブ”で この異常事態を日常として受け入れていた。


「はいはい、どうぞ」


巨人族は満足げに頷く。


「……地球の牛乳……うまい」


白雪が湯船から顔を出す。


「佐藤さん! その牛乳、未来の骨密度に影響出るから気をつけて!」


「え、そうなんです?」


「そうよ! 未来人が飲むと骨が強くなりすぎて、 ドアノブ握っただけで粉砕するの!」


「それは……困るなぁ」


セツナがぼそりと言う。


「……困らない。 ……強いほうが……良い」


「暗殺者基準で考えないで!」


温泉は、 未来人・宇宙人・異世界人・現代人が入り混じり、 もはや“文化のるつぼ”どころか “時空の鍋”になっていた。


そして―― その中心には、 いつも通り耳栓をつけたカズマがいた。


湯上がりの休憩室は、 まるで“銀河の文化祭”のような賑わいだった。


畳の上には、 未来人、宇宙人、異世界の騎士、近所のおばちゃん、 そして筋肉の化身・轟さんが入り混じり、 それぞれが湯上がりの余韻に浸っていた。


壁際の冷蔵庫には、 よし江お母さんから大量に届いた 『風呂上がりの特製フルーツ牛乳(凪原市産)』 がぎっしり詰まっている。


カズマが瓶を取り出し、 キンッと冷えた一本を掲げた。


「――さあ、皆さん。お裾分けです。 これ、最高に美味しいですよ」


その声に、 休憩室の空気がふわっと明るくなる。


長官が番台から降りてきて、 一本を手に取った。


「……佐藤。 この液体に含まれるカルシウムは、 未来のサプリメント300個分に匹敵するな」


「そんなに?」


「そんなにだ。 ……ゴクッ、ゴクッ……ふぅ。 ……忘れてくれ。 ただの“水分補給”だ」


長官の喉仏が男らしく上下する。 その横で、未来の“俺”である猫が満足げに喉を鳴らした。


「……ニャア。(長官、飲みすぎだ)」


宇宙人たちも牛乳を手に取る。


三つ目の巨人族が瓶を一口飲んで、 目を三つとも見開いた。


「……地球の牛乳…… ……我が母星の“戦士の血清”より……うまい……!」


異世界の騎士が感動して言う。


「この飲み物…… 魔王討伐後に飲む“祝福の聖水”に匹敵する……!」


未来人が分析しながら呟く。


「……骨密度が……上昇している…… ……これは……危険だ…… ……いや……有益か……?」


白雪が慌てて叫ぶ。


「未来人は飲みすぎないで!! 骨が強くなりすぎて、 ドアノブ握っただけで粉砕するのよ!!」


轟さんが胸を張る。


「ヌンッ!! 骨が強いのは良いことだ!! 筋肉と骨は相棒!! 強くなれ!!」


「いや、強くなりすぎるのは困るのよ!!」


白雪がツッコむ横で、 セツナが牛乳瓶を両手で持ち、 ちょこんと座っていた。


「……カズマ……。 ……これ……甘い……。 ……組織には……ない味……」


「セツナちゃん、気に入った?」


「……うん。 ……でも……飲みすぎたら…… ……骨が……強くなりすぎる……?」


「暗殺者は元々強いから大丈夫だよ」


「……なら……飲む」


セツナは静かに二本目を開けた。


その横で、 銀河皇帝ゼノビアの親衛隊が 牛乳を飲みながら語り合っていた。


「……この飲み物…… 我々の母星に持ち帰れば…… 戦士たちの骨密度が…… 惑星の重力に耐えられるようになる……」


「……戦争が……変わるな……」


猫がぼそりと呟く。


『……ニャア。(カズマ。 ……お前、気づいてねぇだろ。 ……この牛乳のせいで、 宇宙人たちの骨密度が異常に上昇して、 未来の戦争が“腕相撲大会”にすり替わっちまったぞ)』


カズマは瓶を飲み干し、 腰に手を当てて言った。


「歴史なんてさ。 みんなで温かいお風呂に入って、 冷たい牛乳を飲めれば、 それでいいじゃないですか」


白雪が笑う。


「……ほんと、あなたって人は…… 世界を“スルー”しながら平和にしていくのね」


長官が眼鏡を上げる。


「佐藤。 君の“スルー・パッシブ”は、 未来の戦争を変えた。 ……だが、悪くない」


轟さんが湯上がりの筋肉を輝かせながら叫ぶ。


「ヌンッ!! 筋肉も温泉も牛乳も!! すべては平和のためにある!!」


宇宙人も、未来人も、異世界人も、 そして凪原市の住民も。


みんなが笑い、 みんながくつろぎ、 みんなが牛乳を飲んでいた。


凪原市陽だまり町。 筋肉と温泉と、ささやかなお裾分け。


その温かさは、 地底から宇宙の果てまで、 じっくりと染み渡っていく。


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