第2部 第17話:『宇宙からの常連客!? おじやを求めて銀河艦隊、来襲!』
「――店長。あのお客様、足が8本ありますし、頭からプラズマが出てますけど……おでん、出していいですか?」
凪原市・陽だまり町。
マッスルマートのレジで、カズマはいつもの“スルー接客”を崩さずに店長へ問いかける。
店の外では、陽だまり通りを塞ぐほどの巨大なタコ型宇宙人、水晶の体を持つ生命体、重力制御装置を背負った銀河帝国兵たちが、なぜか整然と(?)行列を作っていた。
「だ、出してあげてくれ佐藤君! ……うちは『来る者は拒まず、去る者は追いかけて筋肉を教える』のがモットーだ! たとえお客様がアンドロメダから来たとしてもだッ!!」
店長は恐怖で震えながらも、商売人としての筋肉を総動員して接客スマイルを維持している。
空を見上げれば、凪原市の雲を突き抜ける巨大な円盤型母船が静止しており、そこから「全銀河共通言語」によるホログラムが街中に投影された。
『我々は、銀河皇帝ゼノビア。……地球の公共放送で確認した“オ・ジ・ヤ”という物質の独占供給を要求する。拒否すれば、地球の自転を反対にする』
「……おにぃさん。あんなに大きな船、白雪さんでも作れないよね?」
レオンが宇宙艦隊の威圧感に怯え、カズマの裾を掴む。
「大丈夫だよレオン君。……彼らもきっと、お腹が空いてるだけだから。……あ、白雪さん。あのお客様のプラズマで、おでんの鍋を再加熱できないかな?」
カズマは、人類滅亡の危機よりも“おでんの温度管理”を優先していた。
「任せなさい! 私の『高次元エネルギー変換器』を通せば、あの宇宙人の殺気すらも最高の“出汁の旨味”に変えてあげるわ!」
白雪はガントレットをガチャガチャ鳴らしながら、宇宙人の行列へ突っ込んでいった。
マッスルマートの駐車場に、突如として黄金の光が降り注いだ。
転送されてきたのは、全身をオリハルコンの鎧で包んだ銀河皇帝ゼノビア本人。 周囲を威圧する強大なエネルギーを放ちながら、カズマの前に立つ。
『貴様が、伝説の料理人“サトー”か。……我が帝国に下れ。毎日、あの黄金の米料理を作るのだ』
「……。……。……皇帝。……態度は、……お客様。……お裾分けを、貰う者の……礼儀ではない」
セツナが、皇帝の首元に“よし江特製・超硬質割り箸”を突きつけた。
『フン……未開の星の暗殺者か。……我が威圧に耐えられるとは――』
「ヌンッ!! 皇帝よ!! その傲慢な大胸筋、甘すぎるッ!!」
アパート『マッスル・コート』の屋根から、轟大家がプロテイン片手にマッハ3で着地。 その衝撃波で皇帝の親衛隊が全員ひっくり返る。
「いいか皇帝!! 陽だまり町の“お裾分け”を受け取るには、宇宙の理より厳しい“マナー”があるのだ!!」
『な、何だと!? この私に説教をするのか!?』
「黙れッ!! まずはその貧弱な脊柱起立筋を鍛え直せ!! 全員スクワット開始ッ!! 1セット1万回だ!! 筋肉が悲鳴を上げたとき、初めて“おじや”の真の旨さが細胞に染み渡るのだッ!!」
大家の“筋肉の覇気”に、全銀河を震え上がらせた皇帝が気圧される。
「師匠! 鉄子師匠、カウントを!!」
「ええ、坊や! 宇宙の王だろうが、私の前ではただの“バルク不足の少年”よ!! さあ、やるわよ!! ヌンッ!! ワンッ、ツーッ!!」
数分後。 陽だまり町のど真ん中で、数千人の宇宙兵士たちが涙を流しながら一斉にスクワットするという、銀河史に残る異常光景が広がっていた。
「――さあ、皆さん。お待たせしました。お裾分けです」
カズマが、マッスルマートの店先に巨大な特製土鍋を持ち出した。 そこには、よし江の秘伝の塩、大家の気合、白雪の技術、セツナの真心が凝縮された“銀河平和おじや”が輝いていた。
スクワットで限界を迎えていた皇帝ゼノビアは、震える手で小鉢を受け取る。
『……これが、全宇宙を揺るがした“オ・ジ・ヤ”か。……いただきます。……アムッ』
――ズドォォォォォォン!!
皇帝の頭上から、黄金の光柱が宇宙の彼方まで突き抜けた。
『……な、……何だ、この慈愛に満ちた温度は……!? 私が支配してきた星々の輝きが、この一粒の米の甘みに敗北した……!! 私は……何を争っていたのだ。……宇宙を統べる力など、この“出汁の深み”に比べれば塵に等しい……!!』
皇帝の瞳から、大粒の涙(銀河ダイヤ)がこぼれ落ちる。
周囲の宇宙人たちも、おじやを一口食べるごとに
「……侵略なんてしてる場合じゃない」 「……母星に帰って、お母さんの料理が食べたい」 と、戦意を完全に喪失していった。
「佐藤……! 貴様は、銀河艦隊の主砲よりも、一杯の粥で宇宙を制圧したというのか!」
長官が、未来の歴史教科書を書き換えながら震える手でおじやを啜る。
「制圧なんてしてないですよ、長官さん。……ただ、みんなでおじやを食べたら仲良くなれるかなって。……あ、おかわりありますよ?」
カズマは、巨大なUFOが駐車場に停まっているのを“少し大きなトラックだな”程度にスルーしながら、笑顔で杓子を振るった。
夕暮れ。 銀河艦隊は侵略用ビーム砲を“おじやの出汁保存タンク”に改造し、静かに凪原市の空を離れていった。
『サトー。……我が帝国は今日からこの店を“銀河系第一指定・重要補給拠点”に認定する。 また、おじやの匂いが恋しくなったら来る。……大家よ、スクワットは毎日欠かさずやる。約束だ』
皇帝ゼノビアは大家と熱い握手を交わし(握力が強すぎて空気が爆発)、帰還していく。
「……ふぅ。……忙しかったですね、店長。……あ、レジの1円玉が足りなくなっちゃった」
カズマは、宇宙規模の戦争を回避した直後でも、レジ締め作業を淡々とこなしていた。
「佐藤君……君はもうアルバイトの域を超えているよ。……今度、マッスルマートの“銀河店”を任せようかな……」
「いや、そこまで広げなくていいですよ。201号室から通うのが大変ですから」
アパートに戻ると、猫――未来の俺が、レオンと一緒に窓際で夜空を眺めていた。
『……ニャア。(カズマ。……お前、気づいてねぇだろ。……今、お前の投げた“お裾分けの種”が宇宙中に広がって、……遠い星々で“ま、いいか”って言葉が流行し始めてるぞ。……銀河の歴史が、お前のおかげで100万年くらい平和な方向にズレちまったぜ)』
「……カズマ。……おじや、……美味しかった。……お礼に、……次の標的、……お裾分け」
セツナが謎の“宇宙人の指名手配書”を差し出したが、カズマは 「……あ、これチラシの裏に使えるね」 と、いつもの最高級耳栓で内容をスルーした。
201号室の夜は、少しだけ宇宙の星が近くに見え、けれどいつも通り“おじや”の優しい匂いに包まれていた。 凪原市陽だまり町の日常は、今日もゆるやかに続いていく。




