第2部 第9話:『セツナの登校日!? ランドセルを背負った暗殺者。』
「――おにぃさーん! 大変だよ!」 レオンがマッスルマートの休憩室(段ボール置き場)に飛び込んできた。後ろにはキラキラした結衣と、魂が抜けたような目のセツナ。
「結衣ちゃんが、セツナちゃんを文化祭の“特別ゲスト”に勝手に登録しちゃったんだ!」
「セツナちゃん絶対制服似合うよ! 『謎のミステリアス転校生・一日体験コース』で優勝間違いなし!」
「……拒否。……私は闇に生きる者。……太陽の下で集団行動など……細胞が拒絶反応を……」
セツナは音もなくカズマの背後に回り込み、シャツの裾をぎゅっと掴む。学校=公開処刑場、という認識らしい。
「お昼にお腹空くといけないから、僕がお弁当作ってあげるよ」
「……お弁当。……中身は?」
「意志を持つ大根ステーキと、反重力ジャガイモのポテサラ。デザートは白雪さんの発光リンゴのコンポート」
「……行く。……制服、着る。」
暗殺者のプライドは、カズマの“お裾分け弁当”に秒で陥落した。
翌朝。 紺のセーラー服に、長官がなぜか持っていた「未来のタクティカル・ランドセル」。歩くたびに「戦闘モード、スタンバイ」と鳴る。
「……似合ってるよ。でもスカートの中に暗器30本は重いからやめようね?」
「……予備。……行ってくる、カズマ。……生き残って、帰る。」
完全に戦場へ向かう傭兵の顔で登校していくセツナ。その横で長官が眼鏡を光らせた。
「佐藤。未来からの刺客が転校生として潜入している。セツナが“自力で単位を取れるか”の良いテストだ」
「なんで言ってくれなかったんですか!」
「……行くぞ。保護者(観測員)として潜入する」
文化祭で賑わう百合ヶ丘高校。 セツナは異様な威圧感を放ちながら授業を受けていた。
「問題:半径 r の円の面積を求めよ」
「……目標の心臓を中心に半径3センチの円を描くようにナイフを――」
「暗殺の解答だよ!? パイアール二乗!」
しかしクラスメイトは「設定が徹底してる!」と大絶賛。中二病高校生には刺さるらしい。
そこへ教室の扉が開き、銀髪の少女が現れた。
「……見つけたわ、セツナ。裏切り者」
未来の暗殺組織『シャドウ・ギルド』のエース、ノア。セツナの“平和ボケ”を正すために来た刺客だ。
「……今は授業中。……騒ぐと先生に怒られる」
「教師など私のサイコ・ワイヤーで一瞬よ! その“カズマ特製弁当”を渡しなさい!」
「……ターゲットは、お弁当……? 絶対に渡さない。……私のお裾分け……」
火花が散る。 セツナはランドセルからチョークを抜き、
「……チョーク投げ・急所狙い」
「無駄よ! 私の防弾ルーズソックスが――」
その瞬間、窓を突き破って巨大な影。
「ヌンッ!! 勉強の前に広背筋の鍛錬だ!!」
大家・轟さんである。 後ろには用務員の格好をしたカズマと長官。
「銀髪の娘よ! サイン・コサイン・スクワットだ!!」
大家さんにバーベルを渡され、ノアは暗殺どころではない。
「未来のワイヤーが筋肉に負けるなんて……!」
チャイムが鳴り、セツナはお弁当を開く。反重力野菜がキラキラ踊っている。
セツナは一口サイズの大根ステーキをつまみ、ノアの口へ。
「……食べなさい。……戦う前に旨味を補給」
「毒でも――むぐっ」
――ハフッ、ジュワッ。
「……な、何これ!? 口の中に広大な大地と“ま、いいか”の感情が……殺意が溶けていく……!」
ノアの瞳から鋭さが消え、平和色に染まった。
「暗殺者やめて、お弁当研究部に入ってもいい?」
「……歓迎。……ただし、お裾分けは半分こ。……暗殺の掟・分け合い」
用務員室の影でカズマは胸を撫で下ろす。
「よかったですね、長官さん」
「……窓ガラス3枚破壊し、異次元野菜でテロリストを懐柔。これが佐藤の言う“平和”か……胃薬が足りん」
セツナのクラスの出し物「暗殺者の数学教室」は“究極の癒やしスポット”として最優秀賞。 ノアもすっかり馴染み、大家さんと後輩にプロテインを配っていた。
帰り道。 夕焼けの中、セツナがぽつり。
「……カズマ。……お弁当、美味しかった。……学校、少しだけ楽しかった」
「よかった。ノアちゃんもしばらく空き部屋に住むし、賑やかになるね」
「……ライバル増加。……おじや争奪戦、激化」
「おにぃさん、僕の心配もしてよ! 結衣ちゃんが“お泊まり文化祭しようね”って……僕の貞操が危ない!」
猫(未来のカズマ)が肩で呟く。
『……お前の弁当の食べ残しを拾ったスズメ、IQ180になってフォーメーション組んで飛んでるぞ。お前のお裾分け、生態系を書き換えてる』
アパートに戻れば、また騒がしい日常。 暗殺者が学校に通い、未来警察が用務員になり、大家さんが窓から飛び込む。
そんなノイズだらけの世界を、カズマは今日も“最高の耳栓(スルー能力)”で優しく包み込んでいく。




