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第20話:『アパート崩壊!? 大家さんの「究極筋肉」が時空を捻じ曲げる。』

「ヌンッ!! ヌンッ!! ヌォォォォォンッ!!」


早朝、201号室の噴水広場に、地鳴りのような咆哮が響き渡たった。


大家・轟さんが、バブルから贈られた「100kgプラチナダンベル」を小指一本で持ち上げ、**『超次元・高速スクワット』**を開始したのだった。


しかし、その筋肉の躍動が生み出す振動は、もはや物理法則の限界を超えていた。


「……長官! 部屋の境界線が……消えていきます! 拡張空間が大家さんの筋肉に共鳴して、外の『ボロアパート』を飲み込もうとしています!」


白雪がホログラムのモニターを叩きながら叫んでいる。


「計算外だ。大家の筋繊維一本一本が、ブラックホールのような重力を発生させている。……このままでは、アパート全体が『筋肉の特異点』に吸い込まれ、永遠にプロテインを練り続けるだけの異次元と化すぞ!」


長官の眼鏡が、あまりの重圧に粉々に砕け散り、壁が、床が、天井が、筋肉の鼓動に合わせて「ドクン……ドクン……」と脈打ち始めだしたのだった。


「ひぃっ、おにぃさん! 助けて! 部屋が……部屋が僕たちを『筋肉の具材』にしようとしてる!」


レオンが宙に浮きながらカズマに縋り付いた。


その時、アパートの土台である「本物の壁」がメキメキと音を立てて崩れ、異次元の渦が顔を出しました。


「便利」を求めすぎて拡張した未来技術と、「野生」を突き詰めすぎた大家さんの筋肉。その二つが正面衝突し、宇宙が耐えきれなくなった。


「……。……。……これ、おじやが冷めちゃうよ。」


カズマが、激しく揺れる床の上で、静かに立ち上がり、目には、もはや次元の崩壊も、筋肉の特異点も映っていない。


ただ「平穏な朝食」を邪魔されたことへの、深い深い「スルーの意思」だけが宿っていた。


『……おい。カズマ。お前、ついにやるのか? ……それをつけたら、お前はもう……「こちら側」には戻ってこれねぇかもしれねぇんだぞ!』

 

猫――未来の俺は、崩壊する床の隙間で必死に踏ん張りながら叫んだ。  


カズマは無言で、キラキラにデコられた『スルー・パッシブ』を、右耳だけでなく、左耳にも――**【両耳装着】**する。



 ――カチッ。



その瞬間、アパートを支配していた全ての轟音が、消える。


光が止まり、大家さんの筋肉の振動も、次元の渦も、白雪の叫びも、全てが「静止画」のように固定される。


「……静かだね。」


カズマが両耳の耳栓に手を触れると、彼を中心に**『絶対安静パーフェクト・スルー領域』**が展開された。


崩れゆくアパートの瓦礫が、カズマの「ま、いいか」という思考一つでパズルのように元の場所へ戻り、大家さんの暴走する筋肉も「普通の、ただの健康的なおじさん」のレベルまで強制シャットダウンされる。


「……なっ……。私のナノマシンが……上書きされた? ……いや、佐藤の意思が『宇宙の物理法則そのもの』をスルーして、書き換えたというのか……!」  


長官が呆然と立ち尽くしている。


カズマは、そのまま崩壊しかけた壁に向かって歩き、指先でポン、と触れる。


「大家さん。……壁、壊すと修繕費大変だから、今日はこのくらいにしておこうよ」


その一言で、異次元の渦が恥ずかしそうにシュンと縮まり、201号室は元の「四畳半のボロアパート(※長官の拡張機能は解除)」へと戻っていった。


数分後。


そこには、元の狭い、壁に穴の開いた(大家さんが開けた分だけ)ボロアパートで、一つの鍋を囲む住人たちの姿があった。


「……狭い。……でも、なんか落ち着くわね。」


白雪が、レオンと肩を寄せ合いながら呟く。


「ヌンッ……。私の筋肉が、完全に『なぎ』の状態だ。……佐藤、貴様……一体何をした……?」


大家さんが、不思議そうに自分の腕を見つめている。


「何もしてないよ。ただ、みんなでご飯が食べたいなって思っただけ。」


カズマは両耳の耳栓を外し、また首から下げ直した。


その耳栓は、もうキラキラではなく、どこにでもある「少し使い古した黄色いスポンジ」に戻っていた。


『……お疲れ、カズマ。……お前が本当の「神」にならなくてよかったよ。……お前が神になっちまったら、俺、誰の膝の上で寝ればいいか分からなくなるところだった』


猫は、かつての狭い四畳半の畳の上で、丸くなって欠伸をしている。


未来人たちも、不動産王も、筋肉マニアも。みんな、この「狭くて不自由な四畳半」が、宇宙のどこよりも居心地が良いことに、ようやく気づいたのだった。



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