第19話:『店長の全盛期、再来!? 幻の「マッチョ・メニュー」を求めて。』
「――佐藤君! ついに、ついに完成したよ! 筋肉とコンビニ(マート)が完全に融合した、究極の自動販売機がッ!!」
『マッスルマート』の入り口に、店長・松井が涙を流しながら巨大な筐体を設置していた。
それは、全面がバキバキの腹筋のような装甲で覆われ、ボタンの代わりに「握力計」と「背筋計」がついた、**『全自動・マッチョ販売機:剛力くん』**だった。
「店長……。これ、お釣りはどうやって出すんですか?」
「お釣り? 佐藤君、何を言っているんだ。プロテインを飲んで得られた『筋肉のパンプアップ』……それこそが、人生の最大のお釣り(リターン)じゃないか!!」
店長が自販機にラリアットを叩き込むと、ガコンッ!と重厚な音を立てて、1リットルの特濃プロテインが吐き出される。
あまりの非効率さに長官がこめかみを押さえる中、白雪さんがカズマの腕を引いた。
「佐藤さん! あんな暑苦しい機械は放置して、行きましょう! 今日は、壊れかけの『スルー・パッシブ』を修理しに、未来のショッピングモールへ招待してあげるわ!」
「えっ、デート? ……あ、でもシフトが……」
「問題ない、佐藤。貴様の不在分は、私が『時空分身』でレジを回す。……ただし、白雪。佐藤に余計なチップを埋め込むのは厳禁だぞ。」
長官が呆れ顔で許可を出すと、白雪さんは嬉々として時空のゲートを開いた。
ゲートを抜けた先は、22世紀の空中に浮かぶ巨大な商業施設『アステロイド・モール』。
そこは、重力がデザインされ、服を試着する代わりに「自分の肉体自体をファッションに合わせてホログラム変換」する、カズマの常識を遥か彼方に置き去りにした世界。
「すごいや……。ビルが空を飛んでる……」
「ふふ、驚くのはまだ早いんだから! さ、まずは耳栓のメンテナンスショップに行きましょう!」
白雪さんは、カズマの手をギュッと握り駆け出す。普段はマッドサイエンティストな白雪が、今日は未来の流行を取り入れた「サイバー・ガーリー」な私服。その横顔は、少しだけ、本当に少しだけ、普通の恋する女の子だった。
『……おい。お前ら、猫(俺)を置いていくなと言ったはずだぞ! ……って、なんだこのモールの広さは。……お、あそこにある「未来の煮干し・自動生成機」……気になるな。』
猫――未来の俺は、カズマの首元から顔を出し、未来のハイテクな誘惑に目を輝かせる。
たどり着いたのは、音響工学の聖地『サイレンス・ラボ』。
そこでカズマの『スルー・パッシブ』を診た未来の職人は、深々と頭を下げる。
「……信じられん。この耳栓、使用者の『精神的な悟り』を燃料にして、自己進化を遂げている……。もはや我々の技術で修理できる段階ではない。これは、宇宙の心理をスルーする**『特異点・プラグ』**に成れ果てている……!」
「ええ~、ただの耳栓なのに大袈裟ですよ。……あ、ついでにこれ、もっと可愛くデコレーションできますか?」
カズマの注文を聞いた職人は「神への冒涜だ……」と呟きながら、耳栓にキラキラのラインストーンを貼り付け始める。
その帰り道、二人は未来のカフェで「ホログラム・パフェ」を食べることにする。
「佐藤さん……。私、本当はあなたを未来に連れていって、私の助手に……ううん、ずっと一緒にいたいって思ってるの」
白雪さんが、真剣な目でカズマを見つめている。
ついに告白か!? (まずい、まずいぞ。こんな変な女。お、おい!かz)
「ありがとう、白雪さん。……でも、僕はやっぱり、あのアパートのボロい壁と、大家さんの騒がしい声が好きかな。……あそこには、白雪さんも、レオン君も、みんながいるしね」
カズマはパフェのスプーンを止めて、ニコリと笑う。
究極の告白スルー……
白雪さんはガクッとうなだれましたが、すぐに顔を上げて笑いました。
「……そうね。あそこには、私の『お裾分け』を笑って受け取ってくれる変な人たちがたくさんいるものね!」
二人が現代のアパートに戻ると――。
そこには、店長の『剛力くん』に真っ向から挑み、全身を筋肉痛で破壊されたハスハラと、その横で「未来の経済価値を超えた、真の自販機だ!」と絶賛しながら自販機と格闘するバブル・マネーの姿があった。
「おかえり、おにぃさん! 遅いよ! ……あ、なんかその耳栓、キラキラしててムカつく!」
レオンが不機嫌そうにカズマに抱きつく。
「ヌンッ!! 佐藤! 未来の土産に『プロテイン100年分』は持ってきたか!!」
壁の穴から大家さんが顔を出す。
『……。……。結局、ここが一番落ち着くな。……たとえ、俺がまたいつ種族変換されるか分からない魔窟だとしてもだ』
猫は、デコられた耳栓をつけたまま昼寝を始めたカズマの膝で、小さく欠伸をしました。
カズマの「スルー」の力は、未来の告白さえも「温かい友情」へと変換し、今日もアパートの平和(という名の暴風雨)を守りきったのだった。




