第18話:『美脚猫、街へ出る。そして白雪の「お裾分け」が世界を救う?』
「……ねえ、カズマ。本当に外に出るのはマズくないかな?」
レオンが鏡の前で固まっていた。
その視線の先には――愛くるしい猫の顔に、股下一メートルを超えるスーパーモデル級の脚を生やした“何か”が、ぎこちなく二足歩行の練習をしている姿が映っている。
『……フッ。案ずるなレオン。この脚から溢れ出す“美”の前では、種族の壁など無意味だ。……ただ、視界が高すぎて天井の埃が気になるぞ』
未来の俺は、悟りを開いた結果、この異様な姿を完全に受け入れていた。
むしろ楽しんでいる節すらある。
「大丈夫だよレオン君。ほら、白雪さんが用意してくれた“ただの猫に見えるホログラム・タイツ”を履けば……」
カズマがタイツを履かせると、遠目には“異様に背の高い猫”にしか見えなくなった。
……いや、それはそれで目立つのだが。
「よし、コンビニの廃棄……じゃなくて、お裾分けを貰いに行こう。猫ちゃん、散歩だよ」
『ワンッ!(散歩というより、これはランウェイだな!)』
昼下がりの商店街。
カズマに連れられた“脚だけ異様に長い猫”は、一瞬で通行人の視線を奪った。
「……何あの猫。スタイル良すぎない?」
「歩き方、完全にパリコレじゃん……」
ざわつく街を、カズマは“スルー・パッシブ”を発動しながら平然と歩く。
その時、ロケ中のファッション誌スタッフが飛び出してきた。
「待って! そこの猫……いや、美脚の君! 表紙モデルになってくれ!」
『……フッ。お目が高い。ギャラは煮干し……いや、高級プロテインで頼むぞ』
猫がポーズを決めると、シャッター音が連続で響いた。
その背後で、レオンが未来の通信機を取り出すが、長官に止められる。
「
放っておけ、レオン。……この猫の美脚が発する“フォトジェニック・エネルギー”で、街の経済活性化指数が500%上昇している。治安維持の一環だ」
平和な撮影タイムは、白雪さんの登場で終わりを迎える。
「みんなー! 美脚猫ちゃんのデビューを祝って、“強制ハッピー・パウダー”を街中にバラ撒いちゃうわよー!」
「白雪さん、それダメなやつ!!」
止める間もなく、ガントレットからピンク色の粉が商店街に噴射された。
「あはは! 美脚最高!」
「猫万歳!!」
粉を浴びた人々が、突然ラインダンスを始める。
街が一瞬でカオスに染まった。
そこへ、騒ぎを聞きつけ鉄骨を担いだ大家さんが走ってくる。
「ヌンッ!! 筋肉の躍動を感じるぞ! 私も混ぜろ!!」
「大家さんまで!? ……バブルさん! 何とかしてください!」
高級テントから現れたバブルは、札束ではなくプラチナダンベルを掲げた。
「静粛に。……この美脚猫の肖像権は、我がバブル・グループが独占した。
これより、この街を“美脚と筋肉のテーマパーク”に改造する!」
そして、夕暮れ
結局、白雪さんのパウダーは長官の中和レーザーで消し飛び、
美脚猫のモデル写真は「人類には早すぎる」という理由で差し押さえられた。
アパートに戻る頃には、俺の脚も少しずつ元の長さに戻りつつあった。
カズマが俺を抱き上げる。
「お疲れ様。……街の人、みんな楽しそうだったね」
『……まあな。……でも、やっぱりお前の膝の上が一番落ち着くよ。脚が長いと座布団に収まらねぇしな』
長官は未来コーヒーを飲みながら言う。
「佐藤……貴様の周りでは、全てのトラブルが“無意味な平和”に収束するな。……悪くない。明日のシフト、30分早めておいたぞ」
「ええっ、またですか?……まあ、いいか。おじや食べて寝よ」
カズマの“スルー・パッシブ”な心。
それは未来兵器でも、不動産王の財力でも、美脚の呪いでも壊せない――最強の防壁だった。




