第15話:『狙われた201号室! 未来の不動産王、大家と決闘す。』
「――なるほど。これが『201号室特区』ですか。ボロアパートの外殻に、長官クラスの次元拡張……。これは高く売れる。」
拡張されたペントハウスの中央に、突如としてホログラムの「門」が出現しました。
そこから現れたのは、全身を黄金のナノスーツで包んだ、嫌味なほど整った顔立ちの男。
未来の不動産王、『バブル・マネー』。
「誰だ、お前! 僕の……おにぃさんの部屋に勝手に入るなよ!」
レオンが重力波を構える。
――パチン
男は余裕の笑みで指を鳴らす。
レオンの重力波が「金銭的価値ゼロ」と判定されたかのように、霧散してしまう。
「無駄ですよ、レオン監察官。私のスーツは、時空のあらゆる『エネルギー』を『市場価値』に換算して無効化する。……さて、管理人。立ち退きの準備はいいかな? この部屋は本日をもって、未来の石油王の別荘として収用される。」
「ええ~……。せっかく掃除したのに、立ち退きですか?」
カズマは、もはや恐怖を感じる回路が焼き切れているのか、お盆に麦茶を載せてバブルの前に差し出しました。
「ふん、買収の交渉に茶など……。……ん? なんだこの、安っぽいのに深い味わいは。……いや、騙されんぞ!」
「ヌンッ!! 私の物件を『商品』と呼ぶ不届き者は貴様か!!」
噴水でバタフライの練習をしていた大家の轟さんが、水飛沫を上げながら着地する。その全身からは、怒りによって「金色のプロテイン蒸気」が立ち上っている。
「大家さん、危ない! その人のスーツ、攻撃が効かないみたいで……」
「関係ない! 筋肉に『市場価値』などという概念は通用せん! 筋肉は……プライスレスだッ!!」
大家さんの丸太のような拳が、バブルの黄金スーツに叩き込まれた。
――ドォォォォォン!!
「無駄だと言ったはずだ! 貴様のパンチの価値は、現在……0.002円! ゴミ同然だ!」
スーツのカウンター機能が作動し、大家さんが衝撃で弾き飛ばされた。
「くっ……。筋肉の価値が……暴落しているだと……!?」
大家さんが膝をつく。
これには長官も苦々しい顔をしている。
「……バブル。未来の経済ヤクザが、こんな時代まで地上げに来るとはな。……佐藤、下がっていろ。ここは私が法的に……」
「あ、長官さん。……その前に、これ。バブルさん、不動産の価値って、住んでる人の満足度で決まるんですよね?」
カズマが、首から下げた『スルー・パッシブ』に触れる。
すると、耳栓から放出された「悟りの波動」が、部屋全体の次元拡張と共鳴し始めた。
「な、なんだ!? スーツの価値計測器が……バグっている!? この男……資産価値が『無限』から『マイナス無量大数』の間をマッハで往復しているだと!?」
『……おい。カズマの「無自覚なスルー能力」が、不動産王の計算式をぶっ壊してやがるぞ!』
猫はカズマの肩に飛び乗り、その光景をワクワクしながら見守っている。
「バブルさん。僕、この部屋がどれくらい高いか分からないけど……。……みんなで鍋を囲む時の『美味しさ』って、いくらになるんですか?」
カズマが穏やかに問いかけると、部屋の中に「鍋の匂い」と「家族の団らん」の幻影が、長官のナノマシンを通じてホログラムで投影される。
「……ぐ、……あ、あたたかい……。……なんだ、この非効率な、しかし胸を締め付ける『多幸感』の数値は……! 私のスーツが……『買収不可能』というエラーを吐いている……!!」
バブル・マネーは、カズマが放つ「究極の普通(という名の、精神汚染)」に毒され、その場にへたり込む。
そこへ、コンビニ帰りの店長とハスハラが、新しい食材を持って入ってきた。
「佐藤君! 今日は『立ち退き反対・半額セール』の肉を買ってきたよぉ!」
「バブルさん! あなたも食べれば分かります! 筋肉と卵の和え物は、宇宙一の資産です!」
「……。……。……負けだ。」
バブルは黄金のマスクを外す。
その下には、どこか寂しげなエリートサラリーマンの顔。
「……こんな、一円の価値もないカオスな空間……。未来の石油王には売れん。……私が自腹で買い取って、ここに永住してやる……!!」
「ええっ!? また住人が増えるの!?」
結局、バブル・マネーは「時空不動産」の看板を下ろし、201号室の隅に「未来仕様の高級テント」を張って、そこで居候を始めることになった。
「佐藤……。お前、本当に恐ろしい男だな。……あの経済の怪物を、一瞬で『隠居した老人』みたいにしやがって。」
長官が、おじやを啜りながらカズマを評価した。
「僕はただ、みんなで仲良くできればいいなって思っただけだよ。……ね、猫ちゃん」
『……ニャア。……まあ、お前が幸せならいいけどよ。……これでこの部屋、住人が「カズマ、猫、レオン、長官、バブル」で、隣に「白雪」、壁を壊せば「大家」。……もはやアパートじゃなくて、ただのシェアハウスだな』
猫は、バブルが持ってきた「未来の最高級シルククッション」の上で丸くなった。
カズマの「スルー・パッシブ」な人生は、ついに未来の経済破綻すらもスルーし、平和な日常を守り抜いたのだった。




