第六十八話 A Cinderella Story
アリシャールが脇差から剣を取り出すとニースの波動が大きく変化した。どうやら、当たりだ。
「さあ、返して貰おうか」
「もしお前が事を起こさずに“返してくれ”と言ったなら返したかも知れないが、あれだけ大虐殺を引き起こした以上お前を殺す必要がある。知らないわけじゃないだろう、この国では殺人は原則死刑だ」
「そうか……じゃあ死ね」
アリシャールとニースの聖力が激突するも、凄まじいスピードでアリシャールの背後を取り蹴り飛ばした。それは俺やフォーチュン以上の聖力コントロールが出来ることを意味していた。アリシャールの“インドラ”は体内の聖力を雷に変えるスキル。つまり、物理攻撃が効くはずが無いのだ。唯一の攻撃手段は波動合致させるのみ。つまり、ニースは即座に変化する波動を合致させた事になる。しかも、今の一撃でアリシャールが伸びてしまった。非常に不味い……。
「おいおい、これで終わりか?なら、残り二人か……」
刹那、“未来視”でフォーチュンが刀で突き刺される未来が見えた。おそらく、今からフォーチュンに知らせるのは不可能だろう。何より、躱せないはずだ。だが、フォーチュンを助けるためには別の場所に飛ばすしかない。となれば攻撃対象が俺に向くのは明白だ。つまり、死ぬのは俺。だが、俺には最近開発した自分の全聖力を犠牲に相手を異空間に封印出来る封印術がある。後の事は皆に託そう……。
そう決意し俺はフォーチュンに次期国王を知らせて別の場所に飛ばすと、ニースは想定通りに俺に狙いを定めた。俺は大部分の聖力を防御に回したがニースは波動を合致させて聖力の防御を破った。だが、これこそ俺が望んだ状況。この封印術は術者の聖力が被術者に触れている必要がある。つまり、今こそ発動の好機。ニースの刀と俺の距離が二十センチになり術を発動しようとした刹那、何者かが俺の前に立ちふさがった。
「良かった、間に合った……」
この後ろ姿……まさか……。
「アイリス、どうしてここに!」
「あなたを守るために決まってるじゃない。いつも守られるだけの私じゃないんだよ?」
そして、アイリスはかつての生徒であるニースに触れると言った。
「君が数年間に何があったのかは分かりません。ですが、君が闇に堕ちたのには先生である私がけじめをつけなければなりません。だから、残り少ない人生で悔い改めなさい。君は賢いから分かるはずです。さようなら……。闇から解放されることを祈っています」
すると、ニースとアイリスの聖力がまるで共鳴するように光り輝くと同時にニースの顔が青ざめていった。
「何をした!?何なんだ!!答えろ!」
「君からスキルで減った私の寿命と同じ量の寿命と全魔力を奪いました。これは罰と救済です……」
ニースは頭を抱えると、ハッとし何か思い出したかのようにアリシャールの元へ駆けていった。アイリスが命を削って守ろうとしたものを奪わせる訳には行かない、そう思いアリシャールの元に向かおうとしたがアイリスに止められた。
「大丈夫、ニースはそう遠くには行けない。それにあの子には神器が切実に欲しい理由がきっとあるから」
「理由?」
「だってあの子の瞳、凄く悲しそうだったもの。それに、最後はあなたと話したかったから」
「最後?どういうこと?」
「私のスキルは自分が削った寿命と魔力を同じ分だけ相手の寿命を減らすことが出来るの。だからもう、最後に少し話す分の寿命しか残して無いわ」
「嫌だ……。そんなの」
「あなたと初めて出会った時を思い出すわ。あの時の私も悲しい瞳をしていたわね。だからか重ねたのよ、学生時代からずっと悲しい瞳をしていたあの子と。やっと、シオンと出会ったと思ったのだけど……。もし、あの子に子がいたのなら父親の代わりに面倒見てくれないかしら?」
「俺が?」
「優しい父を知らないあの子は……、きっと父になれない。家ではずっと虐待を受けていたの。でも、あの子にも深い愛がある。だけど、だからこそあの子は憎しみを負ってしまうわ。愛には憎しみの代償が伴うから……。そして、その連鎖を砕くカギはきっとニースの子。血のつながった愛は特別よ」
「どうしてニースの子の存在を……」
「神様は越えられない試練を与えないわ……。ねえ、あなた?私といて幸せだった?」
「もちろんだ……。俺は君のおかげで世界一幸せ者になれたよ」
「短い間……、本当に短い間だったけれど……。ありがとう。君と出会えて本当に良かっ……た……」
「アイリス?アイリス!!」
神様に感謝しなくちゃね。こんな夢のような人生を贈ってくれたのだから……。さようなら、私のヒーロー。私も、あなたといて幸せだったよ……。
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