第六十一話 Despair of death
「まだ、希望を捨てちゃダメ。時間はそんなに経ってないから間に合うかも」
フォーチュンの言う通りだ、隠密部隊に知られてから時間にして三十分。移動時間も考えれば実質十五分以下だ。まだ……、いける。俺たちは脱兎の如く窓から飛び出すと、神器の飛行能力を使い三分近くで辿り着いた。俺はグロピウス家へ、アリシャールとフォーチュンはハルモニア家に向かった。今思えば騒ぎなど恐れずにさっさと首を取りに行けば良かった……。が、今さらそんなこと考えてもしょうがない。
家の前に着くと大量の兵士が家の敷地に侵入していた。竜巻で一掃したいがここでは民間人に被害が出る。しょうがない、強行突破だ。
「来たぞ、シンドバットだ」
「外道がああああああああ!」
俺は民家に当たらぬように風刃を上向きに放ち、数十人の兵士を斬り殺した。すると、次々と兵士が現れた。感知してみると家の周りにざっと数千人。おそらく、民間人はもう近くにいないだろう。ならば、竜巻だ。俺は天羽々斬を振り竜巻を発生させると家の周りを一周させた。辺りの兵士は瓦礫とともに天空へと巻き上げられ、空中で瓦礫とぶつかり合い文字通り血の雨を降らせた。すると、空中の瓦礫から何かが輝いたのが見える。よく知っているペンダントだ……。俺は竜巻を収め、残りの兵士を切り伏せると血に染まったペンダントを拾った。ペンダントにはH,Pと刻まれている。つまり、ハルモニア・パールヴァティの略……。俺の母だ。
「皆?」
俺は燃え盛る家に入り呼びかけた。が、答えが返ってくるわけがない。だって、業火の中で今まさに目の前で黒く焼け焦げているのだから。だが、こんな姿になっても分かる。父だ。俺に知識を、剣術を、生きる全てを教えてくれた父だ。近くには沢山の奴隷の焼死体がある。おそらく、父を守ろうとして死んでしまったのだろう。だが、子供の死体は無い。もしかして、どこかで隠れているのか……?俺は叫んだ。
「アイリス!いるのか?アイリス……!」
感知をしてみると……いた。家の隠れ地下倉庫にいる。俺は急いで業火の中、地下倉庫への隠し扉へと向かった。隠し扉を開け、中に入ると奥で小さくうずくまっている少女が……アイリスだ。
「大丈夫か?怪我は?」
「……、ご主人様……」
「良かった……。無事だったか……」
「私のせいで皆様が……」
「そんなことは断じて無い。悪いのは全て、あの腐れ外道だ」
「……、違います。私がいたから、私の代わりに旦那様は死んでしまったのです。息子の大事な人だからと。この屋敷の最重要人物である自分が死ねば家の中を嗅ぎまわれる事はないからと言って……」
父様……。
「先輩もです。“あれだけ意地悪しておいて今さら許してくれとは言わない。私達、羨ましかったの。貴方が奴隷でありながら、まるで……そう、自由。だから、いきなさい。貴方は私達の希望なのだから……。”そう言って、私の存在を隠すために旦那様の矛となり、盾となり戦死しました」
すまない皆……、俺の認識が甘いせいで。これは戦争なんだ。敵を殺すのだから味方も殺される。その当然の認識が欠如していた。革命に無血など有り得ないだろうに……。
「それと、先輩からの伝言です。“若様には奴隷商人でありながら人として扱って頂き、本当にありがとうございました。家を転々としてきた私達は、いつも家畜以下の扱いを受けてきました……。だから、若様には返しきれない程の恩があります。奴隷の夜明けを……、あの世で待っています”」
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