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第二十九話 時代の節目

 俺が巨竜を倒した頃、巨鳥とS級冒険者達が激戦を繰り広げていた……。ウサギの獣人の数倍近いスピードで猛攻を仕掛ける巨鳥を相手に出来ているのは流石S級冒険者達だ。俺たちは援護に向かうと、S級冒険者ナーガ・ルジュナという白髪のお爺さんに止められた。


「君たちの善意はありがたい。が、リザードマンと鳥の大部隊の対処が全然追いつとらん。そいつらの処理を頼む。何より、若いもんには負けられんからの。そうだろう、お前たち!」


 その声に応じてS級冒険者達の顔つきが変わった。


 地上に戻るとリザードマンと鳥が冒険者達と応戦している。が、ここで違和感に気づいた。獣人達がいないのだ……。唯一いる獣人は牛鬼ただ一人。すると、巨鳥が牛鬼に向かって急降下して、牛鬼の肩の上に止まった。


「ルホウ!?何故降りてきた?上空の戦況は?」

「まだ、倒し切れていませんが部下たちを盾に撤退すれば本国に帰還は出来ます。」

「撤退?戦況は順調そのものだろう。」

「ええ、ですが大和の将軍のバカ息子が海賊エドワード・ボネットを打ち取ったと報告が上がりまして……。」

「ぬうう、どいつもこいつも……。撤退するぞ、しんがりはソウロンに任せる。」

「ソウロンは……、戦死しました。」


 その言葉の後、空から巨龍が海に落ちてきた。かなり上空で戦っていたので落ちてくるのに時間が掛かり、運良く牛鬼に最も精神ダメージが入るタイミングで落ちてきてくれたのだ。


 そして、牛鬼は後ろの海から発せられた轟音で全てを察したのだろう。振り返ることは無かったが、目は少し潤んでいたような気がした。


 ただ、一言……。牛鬼は思わず言葉が漏れ出てしまった。


「ソウロン……」


 お前が敗北するとは思わなかった……。思えば、あいつとは三十年来の付き合いか……。出会いは……、ああそうだ。獣王国先代、孫悟空を殺すためのクーデターを企てるため、天空の龍のクニに協力を仰いだんだった。


 あの時は驚いたな……。まさか、龍のクニも実力主義だったとは……。それも、歴代最強を謳われていたそうじゃないか。だがそんなお前を倒して、俺は協力を仰ぐのに成功した。


 俺が獣王に成れたのは半分はお前のおかげだ。圧倒的火力に耐久力を以って先代に使える幹部連中をまとめて相手してくれた。おかげで俺は孫悟空一人に集中する事が出来たんだから。


 まだ、お前への借りも返せてねえ。それなのに……、死ぬには早すぎるだろう……?相棒……。


「帰るぞ……、ルホウ。そういえば、侍はどこにいる?」

「大和の侍は軍艦で待機させています。」

「分かった。お前とソウロンの部下達にしんがりは任せたぞ。」

「御意。」


 そう言うと、大量の鳥とリザードマンが集まってきて牛鬼の壁となり、その壁に紛れて牛鬼は軍艦へと帰ったのだろう。俺たちが壁となった鳥達を片付けた頃には既に軍艦の姿は無かった……。


 俺たちは見張りの者を数人残して家がある者は各々帰宅することとなった。港を壊滅させて甚大な被害をもたらした牛鬼を討ち取れなかったのは残念だが、大きな収穫もいくつかある。


 この収穫については、世界連合会議で共有するそうだ。


 その夜……、俺が寮の部屋でゆっくりしているとアイリスが訪ねてきた。


「アイリス!どうしたの?というか、どうやってここに……」

「それは秘密!いいからついてきて……!」


 俺が頷くとアイリスは俺の手を握ると杖で時空間魔法を発動した……。


 気がつくと、俺はどこかの森の中にいた。おそらく、山だろう。少し平地比べると肌寒い……。


「こっち、ついてきて!」


 アイリスの手に引かれるまま、俺は山の森の中を少し移動した。近くの棒切れに魔法で火を付けて歩いているとは言えかなり暗い。


 時々、よく分からない虫の音、フクロウの鳴き声と森の中で光る獣の目を不気味に感じながら歩いていくと開けた場所に出た。


 少し行くと崖になっており、アイリスと俺は近くの座れそうな岩に腰かけた。


 眼下には満月に照らされた川が流れており、いくつかの山の間を流れている。その山々は雲をかぶって黒く輝いていた。


 そう、今いるここは雲の上である。どうりで真夏なのに肌寒いはずだ。


「綺麗でしょ、ここ。嬉しかったり、落ち込んだり……。何かあるとここに来て癒されるんだ……。でもね、一番綺麗なのはリルの頭の上にあるんだよ?」


 頭の上……?そう思い首を上げると……、そこには眩しい程の星々が光り輝いていた。満天の星空という言葉では足りないほどに星々が綺麗に見える……。まるで、砂金や硝子を天に撒いたような……、奇跡のような美しさだ。


「アイリス……、ありがとう。すごく綺麗だ……」


 すると、アイリスは星空に見とれた俺の袖口をくいっと引っ張った。


「アイリス?」


 俺がアイリスの方を振り向くと、アイリスはじっと俺の方を見つめている……。


「……」


 お互い見つめ合った状態が数秒続いた。胸の鼓動ドクンドクンと聞こえる……。


「リル……」


 アイリスはそう言うと、そっと接吻(キス)をした……。


「!?」


 俺は一瞬パニックに陥った……。アイリスの甘い香りと柔らかい唇の感触に加え、この状況である。これでパニックにならないやつはいないだろう。


 だが少しの間、と言っても無限にも感じられたその瞬間はアイリスが唇を離したことで終わりを告げた。


「私、リルが好き」


 この言葉に俺の鼓動は更に加速していった。さっきのキスがアイリスの思いを示しているのは重々感じていたが、改めて言葉にして言われると……。恥ずかしさと嬉しさで胸がどうかしてしまいそうだった。


 だが、動揺ばっかりもしていられない。男として答えを出さなければならないからだ。だが、肝心の答えはどうだ?俺はアイリスの事が好きなのか?


 小さい頃から一緒にいて、何となく気になる人だったのは間違いない。だが、それは他の綺麗な女の子、例えばライナに対してだってそうだ。今まで、アイリスに対して恋愛感情まで抱かなかった。


 けど、今抱くこの感情は何なんだ?この波打つ胸の鼓動をどう説明したらいい?これが、恋……なのか……?だとすれば、発端は……。


 ああ、そうか……。間違いなく、キスのせいだ。あの時、アイリスは女の子から女性になったんだ……。


 ここまでの思考時間、一分。一分というのは短いようで長い。特にこういった、緊張が続く沈黙する場面では……。


 その間、アイリスが何を考えていたかは分からない。即答しない俺にイライラしたかも、振られる可能性を考えて不安に押しつぶされそうになったかも分からない。それは、神様にしか分からないだろう。


 ただ、俺は適当な答えは出したくなかった。どんな結末であれ……。


「アイリス……」

「うん」

「俺は……。君のことが……」

「……」

「……」


 ここでまた数秒にして無限にも思える沈黙が流れた。チキン野郎!そう思うだろう……?だが、当時の俺は凄く恥ずかしかったのだ。多分、これが俺だけじゃないと信じたい……。


 そして、俺は人生で一番の勇気を出して言った。


「すき……だ……」


 すると、今度はアイリスが顔を更に真っ赤にして言った。この時のアイリスの顔は生涯忘れないだろう……。


「……、ありがとう……」


 そう言うと月明かりの下、二人の若人は再び唇を重ねた。ここに来るまでは虫の音だの、フクロウの鳴き声だのがよく聞こえたが、もう互いの胸の鼓動しか聞こえない。


 そして二人は情熱的に互いを求めて体を抱き寄せた。だが二人とも忘れているが、ここは足場の悪い崖の上である。重心がずれれば態勢も崩す。


 だが、恋の魔法という奴だろうか。気づけば、俺はアイリスを押し倒していた。


「来て……、リル……」


 色々考えれば、止めるべきだったかもしれない。だが、二人の情愛は理性など彼方へ吹き飛ばしていた。俺はアイリスを、アイリスは俺を求めて愛の海へと沈んでいった……。


 翌日、シンドバッド王の意向で世界連合会議が開かれることとなった。会議内容は新たな脅威と新S級冒険者の誕生、未知の国、海賊エドワード・ボネットについてだ。


 新たな脅威とは獣人の王である牛鬼、新S級冒険者は俺たちのこと。そして未知の国は牛鬼の発言から推測するにその国の名は大和。これは初代英雄ブリソニア・アランが東の果てに作った集落が発展したものではないかと言われている。


 これらの情報は世界連合会議で共有され、大きな話題となった。魔人の国々に囲まれていても対抗できるほどの軍事力、未知の鉱物資源や侍というS級冒険者に匹敵するほどの人材。これらは各国が大和を目指すのには充分な要因だった。


 だが、その足掛かりになるであろうミハール港は既に壊滅状態なので各国が喜んで支援金を出した。おそらく、シンドバッド王の狙いはこれだったのだろう。


 そして、海賊エドワード・ボネットが討伐された今、大和へ向かう最大の障壁となるのが牛鬼の獣人の国。そのため、各国は一時的に連合軍を持って獣人の国の制圧に動くことに合意した……。


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