四章、和の屋敷にて
四章です。
今回は割りと伏線いっぱい入ってます。
楽しんで読んでくださいね。
湿気のこもった真っ暗な空間に、小さな光が今にも消えかかりそうになっている。心なしか、天井からはポツポツと小雨が降っている気がするし、地面には3㎝ほど水が張っているように感じる。
…そんな空間に、私は存在していた。
どうも心地が悪い。
光は、そのかすれた存在を消させまいと今なお空中に漂っていた。その光が今までに見たものよりも輝いているように見えるのは、辺りを闇が覆っているからだうか。
「……………………?」
ぼーっと、その小さな光を見つめる。
見つめているうちに、それが遠いところにあるのかすぐ目の前にあるのか分からなくなってしまう。優しく手で包んでしまえば、そのまま捕まえられるのではないかと思った。
そこでふと、耳にこもった声が響いていた事に気がついた。
その声は、この真っ暗な空間に何度か子騙しては枯れるように消えていった。微かに響くそれに、呼ばれている気がした。
天井を見上げたとたん、ワッと橙色の薄明かりが視界を覆う。
「……かっ…ゆ……っ!」
なによ、もっとはっきり話して。
「お…てっ…てば……うかっ!」
こもっているためよく聞き取れないが、何か焦っているように聞こえる。
「_優華ッ!」
ガクンと、からだが降下する感覚で意識が急速に取り戻されていく。
瞬間、光が孟スピードで私の胸へと向かってきて__
「__ヘッ!?」
_目が覚めた。一瞬、世界が真っ白に光る。
「……優華ッ!」
瞼を開いたとたんに、セナが強く私を抱き締めて来た。一体何をそんなに安堵しているのだろうか。
「…なに?何でそんなに焦ってたのよ」
怪訝に聞く私に対し、セナは心から安堵したように事情を説明した。
「優華、あの洞窟で急にこめかみ押さえながら倒れ込んで……私が抱えて入り口まで戻ってきたんだよ。30分くらいうなされてた」
30分なら別にそんなに焦らなくても良くない?
そう思いはしたが、あの長い道のりを抱えてここまで運んできてくれたのだから一応感謝しておかなければ。
「そうなんだ……。ありがとね、全然覚えてないや」
夢のことしか、覚えていない。
「そりゃぁ倒れるほどの痛みだったんでしょ、覚えてないのは当たり前だよ。あ、それより、どんな夢見てたの?うなされてた辺り、悪夢だったんだろうけど」
抱きついてきていたセナも少し落ち着きを取り戻したようで、私の肩に手を置いて自分の身を私の胸から剥がした。
「…うーん…なんか、じめじめした真っ暗な空間に居た」
夢のことを大雑把に口にする。
「なんかうなされてたわりには軽い発言だねぇ…」
ごめんね確かに今のは適当すぎたかも。
私は身振り手振りをしながら、夢で見た世界の説明を始めた。
「えっとね、真っ暗な空間のなかに、小さな…ビー玉くらいの大きさの光が漂ってた。凄く掠れた光を放ってたけど……でも、なんか消えないようにって頑張ってるようにも見えたよ」
そうだ。ハッキリと覚えている。あの居心地の悪さや、ぬっとりとしたとてつもない不安感。
橙色の光が視界を覆った瞬間の安心感。
それと……何か大切なものを取り戻した時のような、妙な爽快感。
ふと空を見上げ、瞼を閉じる。視界には、夢で見た橙色の温かい光が広がった。
涼しい光を放つ太陽がとても心地よく、どこか、晴れ晴れとした気分になる。
「なんかそれって、悪夢というか…ある意味測りしれない怖さのある夢だよね。ま、何もないなら良かったよ」
ニコッと微笑んで、彼女はそう述べた。
「……なんか、今までより楽しそうだよ?優華」
誕命川のほとりを歩いていると、右肩にそんな声が掛けられた。
「そうかな、気のせじゃない?」
なにか変わっただろうか?私にはさっぱりだ。
だがまぁ、他人がどう感じようとその人の勝手な訳だし、私はどうする必要もない。
軽く右側に視線をやると、ほっぺを小さく膨らませ、ムスッとした表情でこちらを見つめるセナの顔があった。
「……なに」
問うと、
「優華、何か隠してるでしょ」
そう返ってきた。いや、別になにも隠してないし。
「やっぱり、さっきの夢で何か変わったんじゃない?優華」
「そんなことあるかなぁ?」
確かに不思議な夢は見た。だが、夢がその人の人相を変えるなんて聞いたことがない。絵本なんかの作り話を除いて。
顎に人差し指をたてて何が原因か思い返していると、セナが私の手をとり真剣な眼差しで言った。
「やっぱ、何かおかしいよ。診てもらおう」
「診てもらう、って誰に?」
そう訊いたが、セナはいつものごとく強引に私の手を引いて走り出した。
元来た方向へ少しだけ戻り、途中にあった別れ道を左に入った。
「ちょっ‼どこ行くつもりよ、セナ⁉」
叫んだが、セナはもちろん知らんぷり。
全く、呆れる……。
20分ほど走って、中々に離れたところまで来た。
すぐ目の前には、立派な和風の建物がそびえ立っていた。
「………………っ‼」
私がポカンと口を開け呆気にとられていると、セナが背中を押してきた。
「ほら、行くよ‼」
ぐいぐいとを力を込めて背中を押されるもので、私には抵抗の仕様がなかった。そのままの勢いで目の前の大きな扉を押し開き、中へと入った。
天井は高く、壁から壁までの距離が遠い。なにか話せば、その声は山びこのように何度も部屋中に反響した。
……要は、その部屋はとてつもなく広かった。
目の前には、真珠玉のような綺麗で大きな玉がどっしりと構えていた。直径2メートルくらいだろうか。
日光がうっすらとしか入らないためか、中は少し肌寒い。ほのかに香る線香と床に薄く積もった小さな埃は、祖父母の家を彷彿とさせる。
もう一度会えたらいいな、おばあちゃんとおじいちゃんに。
「この道をまっすぐ行った先でお祓いしてもらえるから、さぁ」
セナはそう言って、薄暗い道の先を指差した。
「神聖な場所だから、変な真似はしないようにね‼」
念推しするかのようにそう言うセナに対し、私はじとめで睨んでこう言った。
「セナにだけは言われてくないわよ」
吐き捨て、私はその薄暗い道をまっすぐ歩いていく。
歩く度に、裸足の足の裏が埃っぽくなっていく。
床から直に伝わる冷たさが、心地よかった。
後ろでは、セナが文句を漏らしているが、そんなことは無視して突き進む。ある程度進んだところで、こだましていたセナの文句も聞こえなくなり、頼りの光は、途中から壁にかけられていたろうそくだけとなった。
こうも静かで暗いと、私でも少し心細く感じる。背後から流れてくる冷たい空気が、またそうさせるのか。
そんなものを感じながら一分ほど歩いていると、視線の先に、横の壁に面した引き戸の縁が見えてきた。
((きっと、あれがそうだ))
わたしはさらに歩を早め、その戸の前へと立った。
この長い道の先に位置するからか、その戸は独特な雰囲気を漂わせていた。
ゴクリ、と行きをのみ、そ軽くノックする。戸を滑らせると、足元で、ザー、と、誇りをかむ音が混じった。
「あの…だれかいませんか」
静かな部屋に、私のその声は微かに反響した。
声の反響具合から察するに、この部屋はあまり大きくはない。
どうすれば良いのか分からず、その場で視線を泳がせていると、すぐ近くで声がした。
「怖がらんでよい。さぁ、いいからそこに腰を下ろしたまえ」
ボワッと青白い炎が中を舞い、部屋を藍色に照らした。
少しビックリしたが、言われるがままに、足元に敷いてあった座布団に正座する。
部屋は入り口以外棚で囲われているようで、その棚の中には綿布で包まれた何かが保管されている。重要財か何かだろうか。
声の主は何処にいるのかと見渡すが、何処にもその姿は見当たらず、この部屋にいる気配はない。
一体何処にいるのだろうかと不思議に思っている私に、また、声が掛けられた。
「目で見えるものがすべてではない。心を無にし、私の存在を認識してみたまえよ」
訳がわからなかった。だがまぁ、一応言う通りにしておこうと思い、大きく深呼吸をした。
スーっと、体の力が抜けていくのが分かった。意識が後ろの方へと遠退いていくような、そんな感覚。目を閉じて、その感覚を十分に味わう。
この先に、声の主はいる__。
そうして、私が目を開けようとしたその瞬間だった。
「わっ‼」
「きゃっ!?」
視界全体を、人面が覆っていた。
「イヒヒヒヒッ‼ごめんごめん、やりたかっただけ、凄くいい反応するね?」
驚いて後ろに跳ね退くと、私の座布団のまえで明るい緑髪をした女性が腹を抱え笑っていた。
「……………………///」
恐らくは、彼女が声の主だろう。私は頬を赤らめながら、彼女に問かけた。
「…あのっ、あなた、誰ですか」
私の声を聞くや否や、彼女は真剣な眼差しで私と向き合った。
「他人に名前を聞くときは、まず自分から名乗ると言うのが礼儀じゃないかしら」
凛とした風にそういう彼女。
初対面でいきなり脅かしにかかってきたアンタから礼儀を語られたくはない。
と思いつつ、私は渋々、先に名乗る事にした。
「…真名川優華です」
言うと、彼女はニッコリと頬を緩めた。何がそんなに嬉しい?
「そう。私は霧ヶ崎龍騎。宜しくね、優華さん」
初めとはかけ離れた、落ち着いた大人の声音だった。
「今日はどういったご用件でいらしたのかしら?」
早速始めるらしい。何を始めるのかは不明だが。
霧ヶ崎さんの質問に対し私は、セナにこの世界へ連れてこられたこと、洞窟に行って倒れたこと。そして、夢の内容。その全てを、覚えている範囲で伝えた。
「…なるほどね。で、誰の紹介でここにきたのかしら?」
話の内容を理解した後に、彼女はそんなことを言い出した。
「えっと…それは、その…今の話に出てきた少女…です」
途切れ途切れになったのは、“セナ”と名前を出すか否かを迷ったせい。結局、名前は伏せたのだが…。
「その子って、もしかしてセナ?」
まんまと当てられた。いや、別に隠していた訳ではないから良いのだが。
セナを知っている辺り、霧ヶ崎さんとセナは知り合いなのだろうか。思い、訊いてみた。
「あの、セナのこと知ってるんですか?」
すると霧ヶ崎さんは、呆れ顔になって説明を始めた。
これは、何か面倒臭いことを思い出した時の顔だ。
「あの子はね、いっつも要らないことしかしないの」
カタンと、部屋の入り口の引き戸が音を立てた。瞬間、呆れていた霧ヶ崎さんの表情がにやけた気がした。
「入り口にあった真珠玉、あれ、一度割れてるのよ?セナったら、かくれんぼだぁとか言い出して、天井まで上るやいなや吊るしてあった装飾品を落として……そりゃあ見事に破壊されたわ」
懐かしみの中に憎しみが混ぜたような言い方で、霧ヶ崎さんは右手を空中で左へ振った。私が入ってきた戸がパシッと鋭い音を立てて開く。
「ねぇ……?」
彼女の視線の先に、セナがいた。
セナは額から汗を流しながら、必死にいいわけを考えるようにしていた。そして、セナの口からでた渾身の言い訳とは…………⁉
「真珠がしんじゅうぅぅう‼(しんじゅがしんじゃう)……なんつって?」
部屋の中に、冷たい風が吹き荒れた。
あぁ、相変わらずこの建物は肌寒いな、と、祖父母の家を懐かしむ私であった__。
最後まで読んで下さり、誠にありがとうございました。
如何でしたでしょうか。
セナのギャグは寒かったですね、、、
それでは、また次回お会いしましょう。




